
日が沈む前に堀切菖蒲園駅前に出ると、いつも思うことがある。
「空が広い」
ビルがないのだ。駅前にずらりと並ぶ町中華。フレンドシューズにBOOKSたかはし。二郎系の人気ラーメン店・大。まるで平成になる前に令和が来てしまったような、そんな通り。もちろん褒めている。雑居ビルに入ったデニーズや松屋に歴史を感じるだろうか?
私にとって、背の低いこの通りこそ、堀切という街の風景そのもののような気がする。ここを歩きながら、今日はどこで腹ごしらえするかを考えるのは最高の贅沢だ。
町中華で腹ごしらえする
この日入ったのは、通りから厨房が丸見えという、究極のアットホームを体現した町中華である来集軒。こじんまりした店内だが、居心地は悪くない。ラーメン大盛りを頼んだ。

ここで初めてラーメンを食べたときは感動した。お盆に乗って豆腐付きで出てくるのだ。無造作にどんぶりだけ寄こす、都内のエコノミカル・ラーメンに慣れていた私は、それだけでこみ上げてくるものがあった。
しかも大盛りでも690円しかしない。ラーメン大盛りというのは露骨にコスパ重視の注文なのだが、それでも笑顔で豆腐をつけてくれる。
味は昔ながらの支那そば。中央に乗った巨大な鳴門を「昭和のラーメン」と、人は笑うかもしれない。しかしこの透き通った静謐なスープが味わい深い。私はこのスープを出されれば、無条件に全部飲み干すと決めている。
堀切菖蒲園駅前を歩く

堀切菖蒲園駅前は、道路のイメージが強い空間だ。交差点の存在感も強いし、そこからガーンっと突き抜けるように続く直線道路が、奥にあるハイウェイに接続している。一方、歩行者にとってはガード下や、背の低い建物など、こじんまりした印象がある。

駅前の信号を渡ると、「堀切十二支神」というSaGaシリーズに出てきそうな中ボスたちとエンカウントする。
私が訪れた日は、このオブジェの裏側にある電話ボックスで、ジイさんがしきりに電話帳を見ながらダイヤルしていた。私が20分くらい周囲をウロウロしてから帰ってきても、まだ電話しようとしていた。彼は1985年からタイムスリップしたマーティ・マクフライなのか?
いや、やはりこの街自体がタイムカプセルなのだ。

七福神の像は1994年に造られたらしい。妙に豪華なオブジェの多い通りだ。この道を進んでいくと、すぐ堀切菖蒲園に着く。このルートは町中に比べてちょっと風情があるので、別に堀切菖蒲園に用がなくとも散歩して損はない。
商店街を歩く
「ラッキー通り」という、いかにも町内会的ネーミングの通りもあるが、ここは正直寂れている。地元の人以外が訪れるような店がほとんどない。しかしこの衰退した商店街に「ラッキー通り」という皮肉な名前がついていることに、ディストピア的なロマンを感じてしまうのは私だけだろうか。

ほりきりんというのは堀切商店連合会の公式ゆるキャラらしい。またしても町内会的な親父臭いネーミングセンスである。

道を駅方向に少し引き返して赤札堂の方へ向かう。この街における赤札堂は、葛飾区のその他の駅前におけるイトーヨーカ堂のような存在か。店内もやはりこじんまりしている。まるで堀切菖蒲園駅前という空間を象徴するのかのように。しかしこのスモールスケールな感じも、人によっては魅力となるのだろう。
上の写真の奥で右折した後に続く、飲み屋などのある道も気に入っている。なんとなく風情があるのだ。

ところで駅前の交差点付近に「あるふぁ書店」というあやしい店がある。書店とは言うが実質ビデオ屋みたいなもので、私自身がここを利用することはないが、密かに好いている。このような絶滅危惧種のアングラな店こそ、地域に特有の魅力をもたらすものなのだ。
2020年8月25日に探訪