『ゾンビ』(’78) / ゾンビって人間のことだよ、の意味

『ゾンビ 日本初公開復元版』ポスター

『ゾンビ』は結婚詐欺なのか

世界が原因不明のゾンビ化現象に襲われる中、ショッピングモールに立て籠もった4人の男女のサバイバルを描いた『ゾンビ』(図1)。

北米劇場公開版から作品を読み解くと、実は『ゾンビ』という映画は、サバイバル・ホラーというよりブラック・コメディだったりする。

図1:『ゾンビ』1978年

映画を観てすぐおかしいと思うのは「ゾンビがなかなか噛みつき動作に入らない」という点。これは明らかにヘン。10年前の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(’68)のゾンビすら、もっとマジメに襲っていたのだから。

加えて、主人公たちもゾンビに迂闊に接近していて、非常に危なっかしい。銃を持っているクセに、いらないリスクを負っている。さらに妙にポップなモールでの戦闘シーン。極めつけは、エンディングでたむろするゾンビを映しながら流れる、異様にお気楽なエンディング・テーマ(北米劇場公開版のみ)。

『ゾンビ』は壮大な世界観に、強烈な風刺を利かせた「楽しい」映画なのだ。

『ゾンビ』をホラー映画の最高傑作とおじ達から伝達された若き映画好きたちは、勝手に「究極の緊張感に包まれたサバイバルホラー・アクションに違いない」と夢想した挙げ句、鑑賞するやいなや、結婚詐欺に遭ったような気分になってTSUTAYAに返却してしまうのだが、それはそもそも、現代に広がる「亜流の」ゾンビ映画の刷り込みに基づく誤解である。つまり結婚詐欺ではなく人違いなのである。

『ゾンビ』は世界観

ロメロのゾンビ作品は“ゾンビ映画”でも“ホラー映画”でもなく“ロメロ映画”である。

ジョージ・A・ロメロは『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』で0を1に変え、『ゾンビ』で1を10にした。『ナイト・~』でモダン・ゾンビのデザインと文法を確立させ、『ゾンビ』で「ゾンビによって世界中が覆われた世界」という独自の世界観を映像として収めることに成功した(図2)。ゾンビはバリエーションからジャンルになった。

図2:次第に増加し、モール周辺を埋め尽くすゾンビたち(『ゾンビ』)

この映画はSWという世界観を確立した『スター・ウォーズ』(’77)や、サイバーパンクの世界観を定着させた『ブレードランナー』(’82)のような“世界観系映画”に分類できる。そしてゾンビを生きている人間たちの腐敗した写し鏡として用いた。

「地獄が満員になったとき、死人が地上を歩くんだ」

“When there’s no more room in Hell, the dead will walk the Earth.”

『ゾンビ』

この有名なセリフで言い表されているように、ロメロのゾンビは不条理である。彼らは感染症で増えるわけではない。死ぬとわけも分からず強制的にゾンビになるのである。ウィルスがゾンビを作るのではなく、ゾンビそのものがウィルスのメタファーなのだ。

消費者とは、資本主義社会を踏み鳴らす生ける屍

ロメロ・ゾンビ最大の特徴は「ゾンビが生前の行動に強く執着する」という点(図3)。だからゾンビたちはショッピングモールに集結し、意味もなくうろつきまわる。ロメロは70年代に、アメリカでモールが次々に誕生し、人々が地元の商店街を捨てて、モールを目的もなくうろつく姿に衝撃を受けたという。

図3:たまたま手に入れたライフル銃に執着し始めるゾンビ(『ゾンビ』)

ゾンビにとってモールなんて意味がない。しかしゾンビのモールへの執着は、消費行動そのものを目的化するモールという空間に一致する。実際映画の中でモールを遠目から映すシーンでは、ゾンビがあてどもなく彷徨う様子が、あたかも現実のモールを生きた人間がうろつく様子に重なる。

それを見て主人公たちは「彼らにとって生前、大事な場所だったんだろう」と推測する。ところが彼らがモールからゾンビを追い出して行うのが「消費活動」なのである!

図4:経済が崩壊した社会で大金を喜ぶ男たち(『ゾンビ』)

既に資本主義社会は崩壊している。にも関わらず、レジから現金を引き出してピースする主人公たちの間抜け面といったら、ない(図4)。つまり、それ以前の価値観を引きずりながら、形骸化した行動を反復するという点において、人間はゾンビと同じことをしている。

ここで「『ゾンビ』はブラック・コメディ」という冒頭の提言に戻ると、この映画は緩やかに人類が滅び行く黙示録的な世界において、人間とゾンビが実は相似形であることを暴きながら、人間側が意地やらエゴやらで、科学者はTVで好き勝手な内容を放送し(図5)、同士討ちを繰り返して、勝手に自滅していく様を描いたドタバタ・ブラックコメディなのである。

図5:TVでトンデモないことを言い出す科学者(『ゾンビ』)

そもそも「合理的思考をする人間たちが、閉鎖空間において、限られたリソースを最大限活用しつつ、極限状態を戦い抜く」なんていうテーマのゾンビ映画は、ロメロは処女作『ナイト・~』の時点で傑作を撮ってしまっている。常に斬新で、新しい映画を求める芸術家肌のこの監督にとって、もはや10年前に通過した地点に引き返す意味なんてない。だから『ゾンビ』に対し、サバイバルホラー的ゾンビ映画を求める人には「『ナイト・~』観れば?」という結論にしかならない。

よって「真摯にサバイバルしてない」という理由から『ゾンビ』を「古い・チープ」と呼ぶのは、ナンセンスであると思う。真実はむしろ、21世紀以降も作られ続ける『ナイト・~』フォロワー的な、オールド・ゾンビ映画の模倣に対し、『ゾンビ』が未だに新奇ということではないか。

ロメロ映画とマイノリティ

良い映画がヒットする唯一の条件は誤解されることだ。

ジャン・リュック・ゴダール

『ナイト・~』で黒人のベンが、間抜けな白人を叱咤し導くことが、公民権運動と結び付けられたことは偶然だった。だがここで映画には社会を強烈に風刺する力があるのだと気づいたロメロは、以後ゾンビという装置を風刺のプロジェクターとして活用していく。

図6:最も頼りになるのが黒人なのは前作と同じ(『ゾンビ』)

『ゾンビ』や『死霊のえじき』(’85)では、主人公が社会的立場の弱い黒人や女性であり、支配的立場にあるはずの白人が野蛮で暴力的に描かれる(図6)。「世界を牛耳っている白人男性は、別に民族的に特別優秀でもジェントルマンでもない」ことが示されている。20世紀のアメリカ映画はあくまで白人中心的な価値観だから、これは珍しい。

例えば『ロッキー』(’76)でも、黒人というのは肉体は強くても強欲で、意地汚く描かれる。最後の場面では、みっともなく自身の勝利をアピールする黒人王者を尻目に、純潔の白人男女が愛を叫んで黒人野郎の勝利なんか忘れ去る、という黒人「逆」差別的な構図になっていたのだ(念のために書くと『ロッキー』は良い映画である)。

それと『ゾンビ』序盤のヘリから眺める、人間たちによるゾンビ狩りのシーンはベトナム戦争そのものである。このシーンが、翌79年の『地獄の黙示録』で戦闘ヘリがベトコンを一掃し、上官がサーフィンを始めるシーンにそっくりなのは偶然ではない。

ゾンビ映画、無限の停滞

ゾンビの初期3部作を観て分かるのは、ロメロという人は、一人でどんどん先に進んでしまう人だということ。

ロメロの創造したゾンビの可能性や世界観がどんどん広がり「ゾンビって何だ?その世界で人類はどう生きるんだ?」という思索が深められた。結果、『死霊のえじき』では先に進みすぎて「もう分からないよロメロ」と言われてしまった。ところがロメロは「『死霊のえじき』が一番良く撮れたかもしれない」と述懐しているのである(『ゾンビ』は編集が煮詰めきれずにバージョンが乱立して、結局ファイナル・カットが生まれなかった)。

このような経緯で、結局ゾンビ映画というのはロメロ・ゾンビのエッセンスを部分的に抽出して、分かりやすいサバイバルホラーの面だけがもっぱら強化されるジャンルと化した。“ゾンビもの”は未だに、ホルマリン漬けにされたロメロ・ゾンビから遺伝子を抽出して「いかに目新しいゾンビの亜種を生み出すか」ということに熱中していたりする。

ゾンビはその昔、生命の象徴だった。ゾンビは生き生きとしていた。しかし革新の後、多くの人がゾンビの骸を貪り続け、ゾンビの骸を骸にし尽くした。ゾンビという存在は、今日ではあたかも生ける屍のようだ。死んでも死んでも、何度も同じテーマのために再出演させられている。ショッピングモールにたむろしていたゾンビたちは、かつて、まさしく人間であった。しかし今日のゾンビは、化け物に成り果てている。

よみがえれ、ゾンビ。

見どころ

  • ローターで頭チョンパされるゾンビ(アルジェント版にはない)
  • エスカレーターに乗ったまま寝てるゾンビ
  • ゾンビの食事風景全般
  • 死んだ人間の血圧が0なところ

バージョンについて

大きく分けると

  • 北米劇場公開版
  • ダリオ・アルジェント監修版
  • ディレクターズ・カット版

の3つがある。『ディレクターズ・カット版』とは名ばかりにロメロ的には不満の残る出来らしく、実際このバージョンは冗長。北米劇場公開版はホラー映画寄りであり、アルジェント版はアクション映画寄り。最大の違いはカットより音楽。オススメは北米劇場公開版である。

なお日本初公開版はダリオ・アルジェント版が元になっており、一部残虐表現が抑えられ(ゾンビが噛みちぎる直前に、突然画面が静止する)、オープニングに配給会社のつけた説明などが付け足されている。

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投稿日時: 2020/07/11 ― 最終更新: 2020/07/13
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