『マジカル・ガール』(’14) / そこで『春はSA・RA・SA・RA』かよっ!

『マジカル・ガール』

カメラも人もほとんど動かない映画である。時折、静止画を映しているのかと思うほど画面が止まって見えることがある。眠っている人間を何秒間もただ映しているカットもある。そのため、映画の時間の流れは極めてゆったりしたものであり、サウンドもほとんど使われず、静謐である。

従ってこの映画は、表面的な情報量が大変少なく、ストーリー要素もわずかしかない。白血病に冒された12歳の少女・アリシアの幸福のため、貧乏な父親のルイスが、彼女の好きな日本のアニメ『魔法少女ユキコ』の高額な衣装セットを手に入れて喜ばせようと奔走し、ついには犯罪にまで手を伸ばす――そんな物語がゆったり、2時間にわたって緩やかに描かれる、ミニマルなものだ(図1)。

図1:アリシアの欲しがる衣装をネット検索する父親(『マジカル・ガール』)

「ズレ」と「裏切り」

日本の宣伝ポスターにある「独創的なストーリー、巧みな構成、予想を裏切る結末」というコピペ然とした賛辞は冗談みたいなもので、この映画は「物語の筋」で楽しませるような作品では全くない。

『マジカル・ガール』の面白さは、画面の中で起きる出来事が常に“ズレている”ことにある。

まずスペイン映画で、かつ登場人物も全員西洋人っぽいのに、映画の冒頭から突然流れる昭和のアイドルソング『春はSA・RA・SA・RA』(もちろん日本語)で、いきなり脳天をクロスボウで叩かれたかのような不意打ちを受ける(図2)。

図2:『春はSA・RA・SA・RA』に合わせて踊り狂うアリシア(『マジカル・ガール』)

続いて「ユキコ」だの「マコト」だの、日本語が当然のように飛び出すが、かといって別にこの映画は「勘違い日本」を前面に出すバカ映画ではなく、映画それ自体は極めてマジメに――というかむしろ美しく描かれており、いかにもヨーロッパの映画という感じを受ける。

白を基調とした、静謐な欧州映画的な画作りと、あべこべにスピーカーを暴走させてくる昭和ソング。この「ズレ」と「裏切り」こそが本作の作風と言えるだろう。このようなズレた演出を、マジメ面して芸術的に描写し続ける映画、それが『マジカル・ガール』。ジャンルとしては、表面的にはサスペンスながら、実態はシュール・コメディ。

映画は、どこまでも観客の予想を裏切り続ける。

渡すかと思えば、渡さない。帰ったかと思えば、戻ってくる。殺さないのかと思ったら、唐突に殺す。善人かと思えば、悪人。

とにかく「次に起こるアクションの裏切り」という点に関しては、裏切り度90%を超える、斜め上爆走映画。ゆったりとした上質な雰囲気の画面の中で小気味よく繰り出される、このような予想の裏切りの連続を楽しめるかどうかで、本作の評価が決まる。

時期的に明らかに『魔法少女まどかマギカ』に始まる魔法少女ブームの影響を受けているが、この映画にああいったアニメ文法やダークストーリーを求めると、完全に肩透かしを食う。「魔法少女」という素材はあくまで上述したような「ズレた感覚」を演出するために用いられており、映画はそれとは関係なく進んでいく。まあ、ダークなストーリーではあるが。

良い意味で予想を裏切られた、美しさと裏腹のとんでもないユーモアを抱えた一品。

満足度:8/10

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投稿日時: 2020/07/09 ― 最終更新: 2020/07/12
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