『氷の微笑』(’92)

『氷の微笑』1992年

『ロボコップ』『トータル・リコール』と、バイレオンス・アクションでヒットを飛ばしてきたポール・ヴァーホーヴェン監督が、ヒラリと撮ってしまった悪女モノのサスペンス。観た直後の感想としては「ちょっと分からない」というものだった。

『氷の微笑』は、難解映画とは少し違う。物語の決着自体はちゃんとつく。最初に男が美女にめった刺しにされて死に、容疑者のキャサリンは明らかに犯人と思われる。しかし彼女は異常に超然としており、捜査に怯えるどころか刑事を挑発・誘惑してくる(図1)。そして次々に殺人事件が発生するが、最終的に事件は「解決」するし、全ては終わってメデタシということになる。

図1:捜査に対しても余裕しゃくしゃくのキャサリン(『氷の微笑』)

ところが物語は明らかに完全に説明されてはいない。劇中に描かれたことが全てだとするとパズルのピースが余ってしまうし、また事件の説明には相当のモヤモヤ感が残る。

本作はこの意図的な「説明不足感」が絶妙。「ほら、事件解決ですね」と言いながら、観客にはこれが「未解決事件」に思えてならない。劇中にはいくつもの殺人事件が起きる。その全てを一度で説明できる、という人はほとんどいないと思う。

だから2度観ることになる。『氷の微笑』は、劇中の探偵が全てを解き明かしてくれるような明解なサスペンスではなく、観客自身がピースを集めて推理し、推測していかなければならない、観客を煙に巻くミステリー作品だ(図2)。

図2:キャサリンを追う過程で彼女の虜になっていき、全然事件解決してくれない刑事(『氷の微笑』)

ネタバレしない範囲で、もう少し詳しく説明しよう。映画は観客の視点からも劇中人物の視点からも、「キャサリンが犯人でほぼ間違いないであろう」という演出で一貫している。そもそも最初の殺人シーンから、キャサリンらしき人物が映っているのだから明白に思える。

ところが殺人事件は全て、心理学者であり作家でもあるキャサリンの著作を模倣したものであることが判明してしまう。彼女はそれを一種のアリバイとし「そんなあからさまなことを自分でするはずがない」と主張。一方分析者は「キャサリンが犯人であれ、彼女を犯人に仕立てようとする別人が犯人であれ、いずれにせよ犯人は異常で危険な人物」と語る。

物語はスタッフロールまで、この「キャサリン犯人説」と「別人犯人説」が並列して破綻なく進んでいく二重性を持っている。さらに「重要そうに見えて、表面上は何の働きもしていない人間」の存在も目につく。そういった人物の行動も考えながら、観客自身が全ての証拠を整理し、推理して事件を解明しなければならないミステリーである。

一方、この作品はシャロン・ストーンの伝説のパンチラとか(図3)、メインビジュアルに見られるほどのエロ要素は持っていない。一応エロ・サスペンスであるのも確かなのだが、どちらかと言うとミステリー重視である。

図3:足を組み替えただけで伝説と化したシャロン・ストーンさん(『氷の微笑』)

本作が面白い作品かどうか。映画を観た直後の「早くもう一度観て確認したい」という欲求を考えれば、面白い作品であるのだろう。満足度:7/10

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投稿日時: 2020/05/19 ― 最終更新: 2020/05/20
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