『フォロウィング』(’98) / 才能と情熱に溢れた、ノーラン監督の超低予算映画

『フォロウィング』1998年, Next Wave Films, Christopher Nolan

クリストファー・ノーラン監督のデビュー作。制作費60万円とは思えないほど楽しませてくれる作品で「白黒」「予算の都合上、映像や音響が貧弱」といった点を許容できるノーラン好きには勧めたい映画(特に『メメント』みたいな時系列シャッフル系が好きな人)。

本作はイギリス映画だが、ハリウッドの世界なら予算20億円くらいでも余裕で低予算扱いされるので、60万円というのは「ノー・バジェット映画」と呼んでいいくらいの「桁外れ」である。

映画は主人公の独白から始まるが、まずビルと名乗るこの男の「貧乏な作家志望で、街の中で見かけた人を無意味に追跡するようになった」という設定が、奇妙なようでリアリティがあり面白い。実際、こういう人物は本当にいるだろうと思う(図1)。そして、彼が追跡した男・コッブが逆に自分に話しかけてきて、彼が泥棒であることが判明する……というサスペンスの流れが、序盤から観客を惹き付ける。

図1:他人を無意味に追跡するようになる主人公(『フォロウィング』)

何より駆け出しのクリエイターだけが放つ、知恵に知恵を振り絞り、自分の脳ミソの汁を一滴残らず出し切りオールインしたという雰囲気が最高。創造性と切迫感のせめぎ合いが、作品に独特の生命力を与えている。何しろ予算が絶望的に少ない。あらゆる場面に何らかの“工夫”がなければ、あっという間に預金残高は底を突き抜ける。一般的な撮影手法は使えない。だからこそ1998年にも関わらず白黒映画なのである(粗い照明や細部の雑さを誤魔化せる)。

低予算ゆえに脚本勝負な部分が強く、いきおい小説的な凝ったものが感じられる。物語は次作『メメント』(’02)のプロトタイプとでも呼ぶべき「時系列シャッフル型」の複雑なものである。つまりこの映画、時間が何度もジャンプする。それも、お行儀の良い、わかりやすいジャンプではなく、いきなり時間が飛ぶし何往復もするので、一回目で完全に把握し切るのは不可能に近い。

物語の中軸はカリスマ的な魅力を放つ泥棒のコッブに感化された主人公が、彼の真似をして泥棒を始め、陰謀に巻き込まれていく、というもの(図2)。

図2:自分が追った男の魅力に惹かれ、共に泥棒を始める主人公(『フォロウィング』)

予想を連続して裏切り、一気に結末まで進む怒涛の展開や、泥棒コッブの変テコな泥棒哲学など、十分楽しませてくれる。細部に目を配ると、物語にやや強引さを感じたり、音響が雑(少なくともDVD盤では)といった粗さもあるが、単に監督の歴史を知るという歴史性だけでなく、純粋に作品として楽しめる。評価:8/10

こんな人にオススメ

  • 凝ったシナリオのサスペンスやミステリーが好き
  • どんでん返しで騙されるのが好き
  • ヘンテコな美学を振り回す犯罪者が好き

ここが見どころ

  • パンティーを顔面に押し当てるカリスマ泥棒のコッブ
  • 主人公の挙動不審っぷり
  • フィルム・ノワール風の極端なコントラストを用いたショット

関連・類似作品など

次作の『メメント』(’02)は、本作に似て時系列が複雑だが「記憶を短時間しか保存できない男が、結末から話の発端を遡る」というもの。同じノーラン監督の『インセプション』(’10)も、他人の夢に侵入し、夢の中でさらに夢を見るなど、話が多層的で凝っている。またタランティーノ監督の初期2作品『レザボアドッグス』(’92)と『パルプ・フィクション』(’94)も時系列シャッフル型である。

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投稿日時: 2020/05/12
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