タランティーノ批判ももっと聞かせてくれ / 『ユリイカ』2019年9月号感想

『ユリイカ』2019年9月号,青土社, 2019年

見かけるたびに何度もスルーしていたものの、ジュンク堂の池袋本店へ久々に立ち寄った際に気まぐれで買った本。理由は特にない。

……

帰りの電車内で読んで面白いと思ったのは「予想外を愛せ」というエッセイ。日本の映画監督の小林勇貴が執筆しているのだが、雑誌全体が「クエンティン・タランティーノ映画はなぜ素晴らしいのか」というムードに包まれる中、一人だけ逆行して「タランティーノは映画に対してもっと誠実になれ」という内容を書いており、インパクトが強い。

『キル・ビル』の世界観は自分から遠く、盛り上がる友人についていけなかった。逆に『キル・ビル Vol.2』が公開された時は皆キョトンとしていたけれど、俺はこっちのほうが遊びがきいていて面白いなと思いました。それから『ジャッキー・ブラウン』、『ジャンゴ 繋がれざる者』なども面白く観ましたが、いまに至るまでついぞタランティーノの作家性というものはさっぱり意識していません。

『ユリイカ』2019年9月号,青土社, 2019年 p.167

タランティーノは癖が極めて強いし、作品ごとに味も違い過ぎるので、称賛や研究一辺倒という構成だと、何だか気持ち悪い。タランティーノ作品は激しく称賛されると同時に、激しく批判もされるべきだし、そうでないと不自然である。小林監督による批判調のエッセイがなかったら、この『ユリイカ』はつまらないと思うところだった(監督やディカプリオ、ブラッド・ピットへのインタビューも内容が薄くてイマイチ。蓮實重彦は平常運転)。

ところで『キル・ビル』なら、私は直球のエセ・ジパングなB級映画調のVol.1の方が好きなのだが。

映画が好きだと自覚したころ勉強のために観た『レザボア・ドッグス』は、一カットたりとも好きなところがなく、何度も寝落ちしました。『パルプ・フィクション』も同様です。素晴らしい監督の作品には、驚かされるようなひらめきのカットが必ずあると思うのですが、タランティーノには唸るカットがないんです。

同上, p.167-168

この点について、同じ号の蓮實重彦は「だらしなく流している」(p.72)と表現している。「緊密な演出とむしろだらだら流す演出の両方ができる」(p.72)と。

タランティーノは全体の構成やトリック、メタ的な語りで楽しませるタイプの監督だ。『キル・ビル』や『デス・プルーフ』が代表的だが、彼のカットは大抵どこかパロディめいた安っぽさがあり、引用に満ちた既視感の強いカットをコラージュ的に繋いでシーケンスを構成している。従ってそこには「驚かされるようなひらめきのカット」というものは少ない。

ただ、オマージュをどれも嫌味くさくなく綺麗に入れているのは作家の技だと思います。好きなことを本当に楽しそうに喋っている映画マニアの姿そのものが映画になっているというか。俺はその話を聞くのが退屈だから家に帰りたいと思うだけなんです(笑)。

同上, p.168

タランティーノ作品というのは、観ているものに、常に監督の存在を傍らに感じさせるものだと思う。他の監督作品が「映画そのもの」に没入させるのに対して、タランティーノ作品は横で監督が頻繁に「今の分かった?」と聞いてくるような感じ。

タランティーノは映画以外に音楽も車も大好きだと言っていますよね。これは完全なる偏見なのですが、俺はこのふたつの趣味にも不信感を抱いてしまいます。自分自身から芽生えた関心ではなく、教育の一環で触れた父親の趣味を引き継いでいるだけのように感じられて、ハングリーさに欠けるなと思ってしまうんです。

同上, p.168

確かに「完全なる偏見」なのだが、『実録・不良映画術』という自伝を出版した在野の映画監督からすれば、こういった趣味にはペダントリーの匂いを感じてしまうのかもしれない。

一方タランティーノはやりたいことが明確に決まっていて、予想外を愛していないように見える。『ヘイトフル・エイト』も部分的に急に元気な気持ちにさせられるけど終わるころには均一化しているし、『ジャンゴ 繋がれざる者』もずっとアクセル全開でスピード上がりっ放しではあるんですが、コースは絶対にはみ出さない。そのように順当にやられると、不誠実だなと感じます。[…]俺がびっくりしないものに観客がびっくりするはずがないし、まずは俺自身がびっくりしたいと思ってます。

同上, p.168

タランティーノ映画は徹底的に作り込まれている分、作家の見えざる手が介在して、物事が綺麗に収束していっている臭みは常にある。これについても蓮實重彦が「『パルプ・フィクション』には、込み入った物語が最終的に収束するというあざとい見事さがあった」(p.71)と表現している。

小林監督は独自感覚を言葉にしているので、何を指しているのか判然としない部分もあるが、 こういう自分の言葉を持った人は、日本では貴重な存在だ。彼の撮った映画を観てみたいと思った。

この特集号の評価:5/10

***

最後にタランティーノのインタビューから「映画監督は10本で終わり」発言について。

そうだな、俺は自分のすべてを捧げて映画を作ってきたし、そういうやり方しかできないから、終わりを定めないと息が上がってしまうんだよ(笑)。[…]それには十本はいい節目だと思う。この作品(編注:『ワンス…』のこと)で自分のキャリアの統括ができたと思うし、クライマックスを迎えられたと思うから、十本目はもっと小さな低予算の映画になるかもしれないな。

同上, p.31

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投稿日時: 2020/01/14 ― 最終更新: 2020/01/15
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