『ドント・ウォーリー』2018年

事故に遭って四肢麻痺になった実在の風刺漫画家が、自分自身への“許し”を得る映画である。主人公のジョン・キャラハンは、若くして大事故に遭った己の不運を呪い、アルコール中毒の苦しみを呪い、周囲の人間の共感が少ないことを呪うが、呪うことによって問題は少しも解決しないことを悟る。

キャラハンの自分への“許し”は、周囲との“和解”という形をとって訪れる。自分のかつての非礼を詫び、あるいは逆に、自分に対して罪悪感を抱えて生きる人々を許し、和解することによって、キャラハンは自分自身をも“許す”ことに成功する(下図)。

図:『ドント・ウォーリー』2018年

自己愛の暴走と“欠乏”の錯覚

映画を観ていて、なんて豊かな作品なんだろうと感じた。この映画は、他の欲望を惹起し、無限に膨張する富に溺れる、狂騒の実話を描いたタイプの映画(『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(’13)『バリー・シール』(’17))とは方向性が真逆である。

つまり、キャラハンの人生は事故によって大きく縮小してしまう。そして縮小した人生の中で、彼はそれまでの欲望を放出する生き方を捨てる。「欲望を放出する」というのは、例えば、俺はもっと金持ちになれるはずだとか、他人が自分にもっと親切にしてくれていいはずだ、と自己愛を増大させることである。

これを止めることによって、キャラハンは自分の心の中で無限に膨張する自己愛から生じる“欠乏”を抑えることに成功する。“欠乏”は“欲望”の関数である。彼の人生は欲望の膨張を止め、現状を肯定することによって、「自分は他人から十分に与えられていない」という苦しみから解法される。そして相対的な豊かさを増していく。“欠乏”は実在しないのである。

現代は自己愛の時代だと言われる。インターネットが、SNSが、増大する「共感」の数字が、人の自己愛を増大させ、それをビジネスとする人たちによって、常に欠乏を感じるように仕向けられている。そのような「欠乏の虜囚」である現代人が思い出すべき何かが、この映画にはある。

『ドント・ウォーリー』ブルーレイ北米盤 レビュー

映像:AVC / 3.4K撮影 / 4Kマスター / 1.78:1
音声:DTS-HD Master Audio 5.1ch
言語:日本語字幕なし、英語難易度中
備考:2層 50GB / 114分

Amazon.comから2,200円ほどで購入。

この映画、意外なことに(?)4Kマスターの作品であり、海外のAmazonだと4K UHD版が配信されている。ただ今のところ4K版はソフト化されていない様子。日本でもマイナー作品扱いで、もちろんIMAX 4Kレーザーでの上映などなかった。勿体ない。映画としての質が高く、俳優陣も結構豪華なので、もっと注目されてよかった作品である。

映像は全編クリアで破綻もブレもない。映像的に特別な見せ場というものはなく、あえて言えば異なる時間軸の映像がスクロールして同時に流れていくシーンだろうか。音声も聴き取りやすく、十分な水準にある。

まあ映像・音響的に魅せようという作品ではまったくないので、あまり特筆すべき点のない「フツーに良くできたディスク」である。

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投稿日時: 2019/10/26 ― 最終更新: 2019/10/29
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