簡単に言えば「巨額の報酬を求めて、命知らずの4人の男たちがニトログリセリンを積んだトラックで500kmの道のりを往く」というサスペンス映画である。

貨物がわずかな衝撃でも全てを吹き飛ばす危険性があるため「スピードを出し過ぎると死ぬ」という制約がある中で、数々の障害に出くわすことになる。後年の『スピード』(’94)のような「スピードを落とすと死ぬ」タイプのサスペンスはこれの反転バージョンと言える。

図1:『恐怖の報酬』1953年

一般的にこの手のサスペンスやパニックでは、観客をどうハラハラさせるかの脚本上の仕掛けや演出にばかり力が入り、人物描写はなおざりの単純エンタメ作品になりやすいのだが、本作ではむしろニトロを運ぶ恐怖の描写を通して、人のエゴや弱さを描くことに眼目が置かれている。人を描いたために不朽なのである。

「恐怖に耐えることへの対価として巨額の報酬が支払われる」という設定。「恐怖に晒され続ければ、あっという間に100歳になるさ」という台詞が実に印象的である。

そして恐怖が浮き彫りにする人間の虚勢、弱さ。「歳を取れば仕方ないんだ!」と吠える老兵の哀しみ。若者からの軽蔑の視線。それでもなお、死線を共にかいくぐる経験が何より人間を強く結びつけることが、本当に巧みに、見事に描かれている(図2)。そして最後は……

図2:『恐怖の報酬』1953年

男たちは困難な状況に対し、死力を尽くして立ち向かうが、むしろ困難を乗り越えた先の何でもないような場面で、あっけなく命を落としてしまう。その様子が嘘のように唐突であり、出し抜けで、さよならの言葉もなく風になっていくのが人生そのもののようだ。

若い主人公と初老の相棒がタッグを組んでいるのも偶然ではないだろう。4人の男たちのこの無謀な数日間の旅が、人生の縮図であるかのように感じる。

前半に関して少し追記

ネットの意見を読んでみたら「運送が始まるまでの前置きが長い」という不満が多かった。

先述したように『恐怖の報酬』は人間描写に拘った映画で、ここは友情の反転とか、男同士の嫉妬などが見どころである。バーでのケンカのシーンとか。淀川長治は案の定「ホモセクシャルな描写」と評していた。前半は脚本家の人間観が出ている文学的なパートと言えるだろう。

個人的に一番印象的なのは、洒脱な都会のプレイボーイを田舎娘が追いかけ回す場面。これは結構リアルなんじゃないかと思う。最近では「男が女を追いかける」というパターンばかり描かれるから、これは貴重な描写。

ブルーレイ 日本盤 レビュー

『恐怖の報酬』(株式会社アイ・ヴィー・シー)

映像:AVC / 35mmネガフィルム / 1.33:1
音声:LPCM 2.0ch – 16bit
言語:音声はフランス語、字幕は日本語のみ
備考:2層 50GB / 152分

4Kリマスターによる日本語盤。「アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督傑作選Blu-ray BOX」に収録されていた3本のうち1本として、状態良好の中古品として1本およそ1,300円で入手。

古い白黒映画でありながら、映像は非常に解像感があり4Kリマスターの威力を感じる。フィルムグレインはあるが、全体を通して目立った傷やゴミはない。一部の場面で少しボケた感じになるのを除けば、文句のない出来である。音声はオリジナルのフランス語のステレオのみだが、音質も十分でオープニングの太鼓の音からオッ、っと思わせる。これは買い。

なお1977年のリメイク作品が、邦題だと完全に同名なので間違えないように注意。

リーフレットはミニポスター仕様で、裏面に遠山純生による解説文あり

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投稿日時: 2019/10/13 ― 最終更新: 2019/10/14
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