「6500万年ぶりの彗星接近で、人類の大半が死滅するポスト・アポカリプス映画だ」と耳に挟んで本作を観ると、生き残ったティーンエイジャーには悲壮感や危機意識が全く欠落しており、しまいには男女でイチャイチャし始めるし、かと言って「終末後の世界で死に損ないが襲ってくるゾンビ映画だ」との言葉を信じて部屋を真っ暗にして観ていても、ゾンビなんて片手で数えるほどしか出てこないし、ヒロインに殴られただけで死ぬので驚異でも何でもない。

では『ナイト・オブ・ザ・コメット』はどんな映画なのかというと、大人たちが消滅した街で生き延びた若者がバイクを走らせ、ショッピングを始めてしまう青春映画なのである(図1)。

図1:『ナイト・オブ・ザ・コメット』1984年

鬱陶しい大人たちが勝手に消滅した世界

この作品にはいくつかの表層的なキーワードが漂っているのでポイントがボヤケているが、中核にあるのは10代の若者たちの大人との対立、そしてそのやかましい大人たちが勝手に消滅してしまい、その世界で「青春的な無責任さと楽観主義」を爆走させながらヒロインらが適当に生き残るという、終末的な状況と裏腹のポップな描写である。

物語の中心にいるのは「大人」に対置されるところの「若者」である。本作では「大人」という存在は、常に何かイケないことをしている胡散臭い存在として描かれる。継母のドリスは主人公姉妹に一方的に言いつけをしながら不義をはたらいているし(図2)、終末後の世界で唯一生き残った大人の研究者たちも、何やらよからぬ事をしている空気が最初から漂っている。そして主人公サイドには若い男女と子供たちしかいない。

図2:『ナイト・オブ・ザ・コメット』1984年

それで、この鬱陶しい大人たちが彗星接近で一斉に消滅してしまう。そうしてヒロインたちは生存者を探すついでにラジオ局を乗っ取ってDJを始め、サブマシンガンで路上の車を蜂の巣にし、無人のデパートでドレスをはしゃぎながら着まくるのである。

これはまさしく全ての人間が一度は抱く「もし自分以外の人間が街からいなくなったら……」という妄想世界のシミュレーション映画ではないか。言うなれば本作は女子高生版“どくさいスイッチ”のお話なのである(“どくさいスイッチ”は『ドラえもん』で、のび太が自分以外の人間を消滅させてしまうエピソード)。

無人都市をポップソングで駆け抜けろ

映画の特色としては、ヒロインらがバイクに乗って疾走する、赤茶けた無人の都市の描写が最高。砂埃舞う都市のど真ん中に放置されたベンツは、まさに文明の活き造りである(図3)。

図3:『ナイト・オブ・ザ・コメット』1984年

そして次々に流れる軽快な音楽、ワイヤーフレームで描画されるビデオゲームに熱中する18歳女子、若い姉妹のサブマシンガン・トーク。本作は80年代のポップカルチャーと「美女・銃・ゾンビ」のお約束をミックスした融合的なB級映画なのだ。

本作には低予算映画ならではのアイディアと工夫が随所にある。

なるほど、都市を丸ごと無人にしてしまうというのは、言わば逆密室劇のようなものであり人件費はかからない。脈絡のない人々のゾンビ化は「終末後の世界で環境的な驚異が一切ないのは困るから、ゾンビを出そう」という発想かもしれないが、「でも予算ねぇんだよ!」というわけで、彗星に晒された人間が10万人に1人くらいの割合でゾンビ化し、単体で寂しく襲ってきて女子高生に殴り飛ばされるという珍妙な構図が出来上がった(図4)。

図4:『ナイト・オブ・ザ・コメット』1984年

『ドラえもん』のどくさいスイッチのエピソードでは、寂寞とした世界の虚無に耐えられなくなったのび太が泣いて大人たちの復活を乞うという、教訓的なラストを迎えたが、『ナイト・オブ・ザ・コメット』は最後まであくまでポップである。砂に変わり果てた人々が雨で洗い流され、青空が無人のオフィス街の上に広がっても、人々は帰ってこず、ヒロインは「これから私達が文化の規範を担うのよ」とテキトーなことを抜かし、妹は新しいボーイフレンドをゲットして走り去る。

教訓などいらない。だって無知と無責任に由来する楽観こそが、青春を謳歌する者たちの特権なのだから。

ブルーレイ UK盤 レビュー

『ナイト・オブ・ザ・コメット』Arrow Video盤

映像:AVC / 35mm撮影 / 1.85:1
音声:LPCM 2.0ch – 24bit
言語:英語字幕のみ / 英語難度は低~中
備考:2層 50GB / DVD付属 / 95分

Amazon.co.ukから送料込みで1,700円程度で購入。2019年6月に日本でも待望の(?)ブルーレイ盤が発売された。それ以前にもVHS/DVDは存在したが、日本では劇場未公開の作品である。

映像はまずまずの出来。ところどころフィルムのゴミが出てくるが、あまり気にならないレベルで、DVDと比較すればその明瞭さは瞭然。A級タイトルのブルーレイと比較すればノイジーではあるものの、80年代カルトムービーのブルーレイとしては十分である。

サウンドはステレオのみだが良好。劇中で流れる音楽は結構爆音。しかし本作はこのBGMが良い。サントラが欲しいほどだ。

恒例のリバーシブルカバー仕様
Arrow Videoの廉価パッケージにしては珍しいBlu-ray + DVDのデュアルフォーマット。DVDいらないけど

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投稿日時: 2019/10/07 ― 最終更新: 2019/10/19
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