
『マトリックス』(’99)は私のNo.1映画で、これまで何十回鑑賞したか数え切れないし、サントラも全部買い、以前はスクリーンセーバーを文字が流れるやつにしていて、お気に入りのシーン(道場内でのカンフーなど)に限れば軽く100回以上リピートしている。
そんな本作が、なんと、あろうことか『ブレードランナー』と同日から再上映されることになった。これは、事件である。もっとも向こうはIMAXで、こちらは4DX (MX4D)だが。
この両手に花な望外の状況を前に「両方とも魅力的過ぎて、どっちを観ればいいか分からないよ……」と、キャバクラのおっさんみたいなボヤきをSNS上で発したSFファンは多かっただろう。もちろん正解は両方観ることであり、それ以外の選択肢はない。
なに?女の子とデートの約束がある?明日から海外出張?妻が出産間近?目を覚ませ、ネオ。それは現実じゃない。マトリックスが君を捕らえている。なんとしてでも映画館<現実世界>にたどり着くんだ。って、もう上映終わったけど。
そんなわけでオープンしたばかりの、池袋のグランドシネマサンシャインの「4DX with Screen X」にて『マトリックス』を鑑賞してきた。今年に入ってから既にホームシアターでUHD BD盤を何度も観てるが、そんなことはどうだっていいのだ。何しろあの『マトリックス』の新バージョンなのだから……

まず4DXの体験については、正直「椅子が動き過ぎ」と感じた。そもそも『マトリックス』は4DXを前提に作られていないというのもあるし、乗り物に乗ってビュンビュン動くようなSFでもないので、多くの場面で「ここで椅子を動かす必要ある?」と感じてしまった。単に会話をしているようなシーンですら椅子が傾くのだ。
一番効果的に使われていたのは、ネオがレッドピルを飲んだ後に、カメラがネオの口内に入り込んで現実世界で目覚めるシーンと、ネブカドネザルが航行するシーン。こういったジェットコースターに乗るようなシーンは、昔のディズニーのアトラクションのような臨場感が生まれるので4DXも楽しい。あとは雷鳴が轟いたり、発砲時のフラッシュなどで、壁際の照明が光るのが良かったくらいである。なおScreen Xには非対応なので、サイドスクリーンには当然なんの映像も映らない。

映像と音。うーん、普通。UHD BD盤を何度も鑑賞した身としては、別に感動するほどじゃないなぁ、と。もちろん低ビットレートで出来の悪かったBD盤に比べれば遙かにいいが。
本作のネガは35mmフィルムなのだが、約14mのスクリーンであっても輪郭などはややボケ気味で、白飛びしているシーンが多かった。また『ブレードランナー』を鑑賞した同じグランドシネマサンシャインのIMAXシアターは、IMAX 12chシステムがかなり素晴らしいサラウンドを体験させてくれたが、4DXシアターの方はそんな大したものだと思えない。UHD BD盤のレビューで書いたように、家庭用の方が完璧なポジショニングによるDolby Atmosを堪能できるので、サラウンドに関しては完全にホームシアターの方が上。モーフィアスを助けにいった建物1Fでの銃撃戦には期待したのだが、そっちもフツー。
総評として「あの『マトリックス』を最新の映画館と4DXで体験する」ということに関しては、やや期待はずれ。ただ私は、それとは全く別の次元で「あの『マトリックス』を、20年の時を越えて映画館で、大勢で鑑賞する」ということに感動していた。シアターに十分な人が入り、皆熱心に鑑賞している様子を観ただけでも『マトリックス』フリークとしては感無量である。だから観に行って良かったかどうかについては「良かった。感動した」ということしか言えないし、また上映される機会があれば必ず観に行くつもりである。