『死霊のはらわた』(’81) / 人はなぜスプラッターを観るのか

昔の私はスプラッター映画を理解しなかった。人は過剰なほどの惨殺に、生理的嫌悪感を引き起こすはずである。つまり映画が美しい映像、豪奢なアクションを大金を投じて追い求めるのは、それらのイメージが「快」だからであり、わざわざ特殊メイクを駆使して「不快」な映像を作るのは、映像表現の自傷行為である。これはホラー映画全般に当てはまることでもある。

しかし『死霊のはらわた』を観て感じる、この「吐き気がするが、もっと観たい」という感覚はなんだろう。切断表現は、依然として「不快」なままである(図1)。人体が持ち運びに便利なサイズまで加工される様にエクスタシーを感じる一部の御仁はさて置き、これらの映像表現を「不快」の感覚のまま享受しているスプラッターファンが大半だと思う。

図1:斧を振りかざして女性を「解体」する男(『死霊のはらわた』1981年)

私は非日常性の追求の行き着く結果なのだと思う。観客は映画館へ、非日常の疑似体験を求めて足を運ぶ。そこで「不快」にして非日常的な光景であるスプラッターは、他の映画でも表現を避けるから、このジャンルはフィクション世界にいても希少である。つまり「非日常の中の非日常」がスプラッターというジャンルなのである。

非日常を追求するもう1つの大きな世界と言えばコミックだが、あちらの世界では意外にスプラッターやホラーの傑作というのは生まれない。マンガはペンで描いたドローイングによる映像であり、最初からそれはフィクション的な画であって、従って漫画キャラの手足を切断して血がドバーッ!と出ても、よほどの画力で緻密に掻き上げない限りは「目を背けたくなるような残酷描写」とはならない。マンガの画は白紙からの足し算であるから、現実に肉薄するのは至難であり、下手するとただの漫☆画太郎と化してしまう。一方で映画は現実の上に嘘をペーストするから、その映像は現実からの引き算である。映画だけが、映像の現実性と物語の非日常性を同時に持つことができる。

『ジョジョの奇妙な冒険』で知られる漫画家の荒木飛呂彦は、クリエイターの立場からホラーやスプラッター映画が作られる理由として「人間の極限状況の描写」「死が生命をより際立たせる」「誰も描いたことのないものを見たい欲求」などを挙げている。

映画監督や画家は、過去に描かれたものの限界を超えて、誰も描いていない、踏み込んだことのない領域へ到達したいと思う心理を作品で表現している。そして観客や鑑賞者は、彼らの作品を通してその深淵を垣間見るのです。

荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』p.38 ,集英社, 2011年
図2:死霊に取り憑かれるガールフレンドたち(『死霊のはらわた』1981年)

低予算ホラーの筋書きというのは、大抵馬鹿げている。小屋の中に一晩閉じ込められて様々な超常現象に襲われる『死霊のはらわた』も、筋書きそのものは非常にクラシカルでナンセンス。脳天気な男、ヒステリックに喚き散らす女といった類型が、暗黒の中で悪霊どもに襲われる(図2)。不条理に脱出を阻まれる陸の孤島で、女たちは白目を剥いて発狂しながらボーイフレンドにナイフを突き立て、男たちは斧で恋人の腕を胴体から切り離す。死霊たちが首を切り離されても異常にハイテンションなので、怖いのか可笑しいのか途中で分からなくなってくる。

本作は「極めて現実的な映像表現」と「ナンセンスなシナリオ」の両極を往復するから、恐怖や不快はあくまで上映中にとどまるのであり、平和な現実世界にパッと帰ったときに、なんだかあの気持ち悪い体験をまたしたくなってしまうのだ。

本作の最大の見所は、主人公が孤立してからの不気味なカメラアングルやポルターガイスト現象の連続、そして怒涛のストップモーション・アニメ。仲間がいるうちは導入に過ぎない。低予算を表現力で補ったサム・ライミの手腕に乾杯。

パッケージレビュー

『死霊のはらわた』4K UHD北米版パッケージ

4K UHD Blu-ray 北米版

UHDディスクには1.33:1の映像のみ収録。

元が16mm撮影のブローアップなので、ソースの情報量には絶対的な限界がある。解像感は通常のブルーレイとあまり変わらない。全体的にボケた感じの映像。フィルムの状態も悪くノイジーで、アスペクト比も1.33:1なので、古いTV映画を観ているような印象だが、後半でアッシュが孤立しアップになる場面では、ハッとするような鮮やかさも見せる。脂汗で光る迫真の表情がベストショット。

良くなったのは色である。全体的に赤みがかって明るめなBDに対して、暗く現実的なトーンのUHDという、よくある違いだが、ホラーにはUHDの方が合う。BDだと若干白飛びしているような場面もくっきり浮かぶ。

問題は一部の場面でノイズが酷く、BD版より劣化してしまっていること。具体的に言うとオープニング~小屋到着までの箇所に関しては、常に暗雲が立ち込めているような感じになってしまっているし、白い衣服にもノイズが目立つ。

メニュー画面はイメージアートがほんの少しアニメーションするのみで、インターフェースも汎用のものが使われ、BDよりグレードダウン。結局この映画は元が元なのでUHD化の恩恵はわずかにとどまる。

UHD付属のBDは 1.85:1の映像も収録しているが、縦がカットされているだけなのでオリジナルのアスペクト比で鑑賞するのがオススメ。

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投稿日時: 2019/06/23 ― 最終更新: 2019/10/10
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