結局エメゴジこと1998年版のハリウッド・ゴジラの何が悪かったかと言うと、その辺の巨大イグアナに誤って”Godzilla”とネーミングしてしまい、ゴジラの文法を完全に無視してしまったことに尽きるのであって、これがゴジラ作品であるという暗い事実を核廃棄物と一緒に太平洋に流し去り、改めてガッズィーラ映画として鑑賞し直すと、酷評を受けるほど不出来の映画ではないことが分かる。無論、傑作とは言えないが「割と良く出来た佳作」くらいは言っても全然バチは当たらない。ローランド・エメリッヒはポップコーンの味を増幅する天才なのだ。

ストーリーについて話すことは特にない。巨大生物が出現してみんな思い思いにパニクり、USAの作戦も空振りが続くが、最後は皆が星条旗を乱舞させ、俗物は裁きを受けて退場し、オタク科学者の下にもブロンドガールが帰ってくる、王道のパニック映画である(図1)。ハリウッド映画としてはビキニ水爆実験が原因でガッズィーラが爆誕したとするのは政治的にまずいので、犯人はフランスであるという酷いなすり付けが行われているが、おかげでジャン・レノが出演してくれたので私は一切不服を唱えない。

図1:『GODZILLA』1998年

パニック映画としては非常に90年代テイストが強い。ユーモア色の濃い作品で、分かりやすいフラグを立てていき、それが次々に回収される(例を挙げると「危なかったぜ……」みたいなことをつぶやいたやつは大抵3秒以内に死ぬ)。物語に悲劇性や緊張感は全然なく、緩めのジェットコースターでテーマパークを走り回る、お気楽なエンターテイメントといったところである。

一方でゴジラ作品として観た場合はクソだとしか言いようがない。火を吐かないから背びれはただの飾りだし、USアーミーのミサイルすらまともに受け止める度量はなく、隠れて卵をぶりぶり200個くらい産み落としている。怪獣の王としての貫禄がない。核で生まれた悲劇の怪物というよりは、宇宙から飛来した節操を知らないエイリアンを彷彿させる(図2)。少なくともこの巨大イグアナが「ゴジラ」を名乗る必然性はどこにも見当たらない。小さい頃の私は、大抵の大予算映画なら楽しんで観られるお気楽なガキだったが、ゴジラを期待して劇場へ足を運んだだけに、このガッズィーラには失望の念強く、有楽町の人混みを下向いて帰ったものである。

図2: 『GODZILLA』1998年

「ゴジラらしからぬゴジラ」と言えば『シン・ゴジラ』(’16)も同じだが、あれはあくまで既存のゴジラの文法を十分に理解した上で、それを庵野一流の手法で破壊・新解釈して見せたからこそ観客は驚嘆したのであって、このエメゴジはまるで「ゴジラの概要だけ聞いたアメリカ人がその日の夕方に見た夢」である。

4K UHDで再鑑賞した際に思ったのは、やはりこの映画にはプロットの面白味はほとんどなく、物語は映像と音の迫力を引き出す場をお膳立てしているに過ぎないので、画面と音響の質が映画の面白さに直結する、ということ。従ってできるだけ大画面で、音を贅沢に流して鑑賞した方がいい。そしてその時にはもちろん、今見ている映画がゴジラに連なる作品だということは、露程も思い出してはならない。

パッケージレビュー

4K UHD Blu-ray 北米版

『ゴジラ:キング・オブ・モンスターズ』(’19)公開に便乗して、古のなかったことにされたヤツが、まさかのUHD BDで復活!『GODZILLA ゴジラ』(’14)は通常BDのままなのにな!オー・マイ・ガッズィーラ!

解像度はネイティブ4K。ただUHD BDとしてはちょっと残念な出来。あまり陰影を強調した場面などがなく、もっぱら雨降りしきるニューヨークで、怪獣やヘリをカメラが慌ただしく追いかける場面が多いので、繊細な映像美を堪能できる作品ではない。場面によってはフィルムグレインも目立つ。またフランスのエージェントらが映る場面では一部、なぜかVHS並に画質が劣化してしまう(数秒だが)。

一方でDolby Atmosによるサウンドは迫力満点。これだけでもUHD化の価値があるというもの。開幕の雷が落ちる場面からして「これはただ事ではない!」と期待が高まる。ガッズィーラの振り回した尾がサラウンドスピーカーを疾走し、その巨大な足が地面に触れるや、サブウーファーが緊急爆発して、まるで悪魔の地響きのように低音を鳴り響かせる。ヘリが大量に出撃するので「空間を飛び回る音」は存分に楽しめる。「サラウンドに投資して良かった」と思わせるスピーカーのご馳走。サラウンドの饗宴。

作品紹介の部分にも書いたが、映像と音が全てと言っていい作品なので、今から鑑賞するならUHD BDを選択したい。もっとも、買い直すほどの作品かと問われるとちょっと困るが……北米版には字幕が30カ国語くらい収録されているが、よりによって日本語だけ見当たらなかった。メニューやローディングアイコンが凝っているのは嬉しい。

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投稿日時: 2019/06/23 ― 最終更新: 2019/10/10
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