投稿日時:2019/04/19 ― 最終更新:2019/05/03
図1:『友達のうちはどこ?』ポスター

子どもたちにとって、大人なんてクソである。私も幼少の頃は、大人は敬なければならない、言いつけを守らなければならないと、愚かにも信じていた。ところがある時から、大人たちの不条理な要求や、自家撞着に満ちた身勝手な振る舞いに我慢できなくなった。そして回想してみると、自分が出会った大抵の大人たち(特に教師)の子供への舐め腐った接し方はクソ以下のものであったと気付かされ、腸が煮えくり返った。子供を端から嘘つき扱いし、己の過ちは徹底的に棚に上げる不遜に激怒した。その日からクソ大人たちへの公然とした反抗が始まり、学校の廊下に清々しい気分で立つ機会が増えた。

アッバス・キアロスタミ監督の『友達のうちはどこ?』は、少年の冒険譚に寄せてイランの形式主義的で不条理な大人社会を諷刺しながらも、少年の目に映る見知らぬ土地の心細さや孤独感、そして友情を鮮やかに描き出す快作である。

形式主義の空虚性

主人公のアハマッドの住むイランのコケールという村では、想像を絶するクソぶりを発揮するクソ大人たちが、今日も得意顔で教育という名のハラスメントに勤しんでいる。アハマッドの隣に座っていたネマツァデ少年は、不幸にもノートが使えず1枚の紙切れで宿題をこなしたために、教師の理不尽な叱責に晒される(図2)。

図2:教師から理不尽な責められ方をするネマツァデ(右)と、主人公のアハマッド(左)(『友達のうちはどこ?』1994年より)

この教師は「“ノートに”宿題を書くことが重要だ」とトンチンカンなことを抜かす、形式主義の熱烈な信奉者で、少年は宿題の紙を破り捨てられ、次に同様のミスをすれば退学だと通告されてしまう。

ノートに書く理由は、まず決められた規則を守ることを学ぶため。次に書き取りがどんなに進歩したかを知るため。

『友達のうちはどこ?』

この一見もっともらしいゴタクは重要な伏線になっており、主人公が後に見せる機転によって、この教師が子どもたちの成長にまるで気を払っていなかったことが暴露される。このようにコケールの村は、自分に都合の良い理由をでっち上げて子供たちを虐げる大人で溢れている。

理不尽な縦社会の再生産体制

主人公アハマッドはこの不幸な少年のノートを誤って持ち帰ってしまったため、彼の家を探しに出かけるのだが、行く先々で大人に振り回される。不条理の象徴が彼の祖父である。主人公には時間がないのに「煙草を買ってこい」と無理やり命令し、主人公が行った後で「実は煙草は持っている」と仲間に話す(図3)。

図3:祖父の自分勝手な教育論(『友達のうちはどこ?』)

「問題は煙草じゃない。孫を礼儀正しくしつける事なんだ」

『友達のうちはどこ?』

言うことを聞かなければ殴る。殴ったことは忘れないから教育にいいとまで言い切る。 厚顔無恥な老人は、それが社会のためだ、と臆面もなく演説をかます。トドメが以下の一言である。

「礼儀正しい子だったら?そういう時はどうしたらいい?」
「何か理由を見つけて4日に1度殴ることにする」

『友達のうちはどこ?』

彼らにとって重要なのは、自分が優位なのだと誇示して見せることであり、口癖のように言う「自分も昔はそうやってしつけられた」は、ハラスメントの免許証だと思っている。ようやく威張れるポジションを確保できたのだから、死ぬまでその権力を行使する。体育会系的な縦社会の負の再生産がこうして循環する。

クソ祖父はこのように気持ちよく持論を垂れるのだが、直後に訪れる仲間への理不尽には何のリアクションも起こせない。ゲンコツを受けて育った「立派な大人たち」の、なんと無力なことか。体制に従順な彼らが得意なのは、自分以上の弱者をいたぶることだけである。

この大人の醜さは、友達のために言いつけを破って家を飛び出した主人公の勇気と対比的に描かれている。こう解釈することもできるだろう。主人公の祖父は、このような理不尽の連鎖によって「きちんと教育」された結果の、アハマッド少年のあり得る末路の1つとして現れている。体制の理不尽さを呪っていたのに、いざ自分がその立場を手に入れればミイラ取りがミイラになってしまう。

図4:イランのエキゾチックで魅力的な村の様子(『友達のうちはどこ?』)

前半は大人たちがもたらす理不尽に怒りを感じるシーンが多いのだが、癒やしとなるのが全編を覆うイランの村の素朴な美しさである(図4)。石で造られた白い村の様子からは、砂の香りがする。迷路のような村を少年が力いっぱいに駆けていく。日が沈んでいく。暗くなる。そんなときに出会った頼りなさそうなおじいさんの、なんと心強いことか。

主人公は、最後に最高の方法で友人を危機から救う。その瞬間は実に美しく、大人たちへの痛烈な批判ともなっている。これほど見事なオチのつけ方はそうそうない。

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