投稿日時:2019/04/06 ― 最終更新:2019/04/09
図1:ヴェノムに覆われたエディ(『ヴェノム』Sony Pictures Entertainment, 2018)

昔から自在な変形能力を持つ悪役に憧れていて、当然スパイダーマンの宿敵であるヴェノムやカーネイジも大好物。不定形のキャラクターが持つ変形能力の魅力は、工夫次第であらゆる状況を生み出せる創造的な戦闘スタイル、液状のまま生物や排気口に忍び込んでくるスリルにあると思う。変形能力は、人の持つ変身願望や万能感をみだりに刺激する。

『ヴェノム』の主人公であるエディは、シンビオートと呼ばれる液状の地球外生命体「ヴェノム」(図1)に寄生されてこの変形能力を手に入れる。といってもアメコミと違い、映画版だと寄生側のヴェノム側にほぼ主導権があり、宿主のエディはその力に引きずり回されているという表現がふさわしい。そのためエディが謝りながら、身体から伸びたヴェノムは逆に相手をタコ殴りにしたり、戸惑いながら超人的なスタントを披露したりといったコメディなシーンも多い。

図2:手から触手を伸ばしてエディを守るヴェノム(『ヴェノム』より)

この映画の面白さは、変形能力を駆使する万能感、CGによる迫力とスピード感、これに尽きるだろう。特に中盤のハイライトとなるバイクと車のチェイスシーンは、ヴェノムが変形して追跡者をなぎ払い、宿主がコケればシールドやロープになって守り切る(図2)。まさにジェットコースター映画の典型という感じである。

一方で作品全体としては変形能力をぶん回しているせいで、終始ハチャメチャという印象も受ける。つまり無秩序とも言える変形を繰り返すヴェノムに対し、変形能力を持たない正統派のヒーローが不在で、それどころか敵も変形し放題のシンビオートとなるため、無秩序 vs. 無秩序という「なんでもアリ」の構図になっている(図3)。そのためインフレーションが激しく、細かい知恵やスリルが働く作品ではない。

図3:変形能力を持つシンビオート同士が殴り合う無秩序(『ヴェノム』より)

で、なんかこの無秩序な全能感の表現は既視感があるな、と思ったら主人公が無敵の変形能力を振り回して好き放題にするゲーム『Prototype』(’09)にソックリなのである。触手伸ばしたりする感じとか全く同じだし。まあ順序的には『Prototype』の原型がヴェノムのような悪役にあるのだが、映画で再現される前にビデオゲームがその世界観を再現してしまったというわけである。『ヴェノム』を観て「俺にもシンビオートが寄生してくれねーかな」と思ったあなたは『Prototype』をプレイしましょう。

たびたび指摘されるように、ヴェノムの心理描写が不十分で共闘動機が曖昧な一方、エディ側は人物像が細かく描写されていて感情移入できる。ところが戦闘になるとエディが主体的に戦っていると思われる描写はほとんど無く、ヴェノムが仕方なく宿主を引きずり回しながら戦っている感じなのである。描き方としてはエディが主人公なのだが、戦うのはヴェノム。このちぐはぐな噛み合わせと、チュートリアルを終えて5面のボスを倒した辺りでスタッフロールが始まるようなアクションの不完全燃焼感が惜しい作品。ただ繰り返すが、変形して戦いまくる描写は大好きだ。

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