投稿日時:2019/04/02 ― 最終更新:2019/04/17
図1:主人公メイトリックス / アーノルド・シュワルツェネッガー(『コマンドー』)

「あんた一体何なのよ!車は盗む!シートは引っぺがす!私は拐う!娘を探すのを手伝えなんて突然メチャクチャは言い出す!かと思ったら人を撃ち合いに巻き込んで大勢死人は出す!挙句は電話ボックスを持ち上げる!あんた人間なの!?お次はターザンときたわ!警官が、あんたを撃とうとしたんで助けたわ。そうしたら私まで追われる身よ!一体何があったのか教えてちょうだい!」
「駄目だ」

『コマンドー』(吹替版より)

ナンセンスな筋書きにド派手な演出を盛り込んだハリウッド映画を観ながら、バケツサイズのポップコーンを抱え、くだらねぇくだらねぇと爆音に咀嚼音を紛れさせて頬張ることが、映画娯楽の1つの理想的な消費の仕方だと、子供の時から信じている。誰にとっても映画の原体験は、一種の「祭り」であったに違いない。

『コマンドー』が生み出すのは、まさにこの「祭り」の空気である。冒頭から「これからとてつもない脳筋ハリウッド映画が始まる」という予感しかしない。疲弊した現代人の脳細胞を、鑑賞中は一切使用しなくていいだろうという安心感がある。悪党は悪党として完全に記号化され、分かりやすいクソ野郎っぷり(図2)を披露してから全員気持ちよく殺されるし、複雑な心理描写とか苦渋の決断とか、意味深な台詞とか、そんなものは全くないので脳が全然疲れない。

図2:「ぶっ殺してやる! ガキなんて必要ねぇ、へへへ…… ガキにはもう用はねぇ!へへへへ…… ハジキも必要ねぇや」(『コマンドー』吹替版より)

例えばオープニングのあざとすぎる父と娘の幸福描写で、この娘が100%誘拐されるのだと分かる。案の定、謎の武装集団により娘と共に拘束された凄腕の退役軍人である父親、メイトリックス(図1)は、南米のどっかの国の大統領暗殺を強要されてしまう。仕方なく要求に従い、監視下で飛行機に乗るのだが、離陸する直前にいきなり監視役を瞬殺して主人公は脱出に成功する。武装集団の企みは飛行機の離陸と共に即行で空中分解し、後は単にシュワルツェネッガーが悪党どもを殺しまくるだけである(図3)。

図3:「何が始まるんです?」「第三次大戦だ」(『コマンドー』吹替版より)

『コマンドー』というトリプルB級のアクション映画が、公開から30年以上にわたりカルト的な人気を維持している理由として、2つのことが挙げられる。1つはアーノルド・シュワルツェネッガーというスターに大衆が求める役割、すなわち無表情でマッスルを誇示しながら悪党どもをダイさせて建物を爆破せよ!という需要を本作が完璧に満たしていること。もう1つは、コテコテのアメリカン・ジョークやユーモラスな掛け合いが全編にわたり散りばめられていて、それが抜群にハマっていることである。

『コマンドー』の台詞は、異常な状況にそぐわない日常性を帯びているので妙にシュールで、例えば車の販売店を訪れた悪党が「一番気に入っているのは価格だ」と言って、売り手を轢き殺してそのまま車を100% OFFで持ち去ったり、あるいは主人公が崖からぶら下げていた悪党を落として「放してやった」と言い放ったりする(図4)。こういうネタ性の強い掛け合いはインターネット・ミームとして匿名空間で繰り返し引用され、本作が地上波で放送されると2chのサーバーを落とすほどトラフィックが増大したという話がある。TV放送における吹き替えの質の高さと翻訳センスが抜群で、国内では『コマンドー』と言えば主に吹替版が想起される。

図4: 「お前は最後に殺すと約束したな」「そうだ大佐……助けて……」「あれは嘘だ」(『コマンドー』吹替版より)

この映画も『ターミネーター』(’84)と同じく、まさにシュワルツェネッガーの存在感が作品そのものと化している。「すぐ戻る(I’ll be back)」と言って車に乗ったまま警察署内に戻ってきたあの名作のように、決め台詞をボソッとつぶやいて、そのままとんでもないことを実行するクレイジーなキャラクターが見事にハマッている。これは寡黙でマッチョな彼の専売特許とも言えるユーモアで、本作ほどこのシュワルツェネッガー節が炸裂した作品は他にないと思う。

『コマンドー』は、人々が「ハリウッドのアクション映画」から想起するステレオタイプを全て体現している。それは複雑性や芸術性を放棄しての意図的なB級宣言に見えるのだが、むしろこのような剥き出しの安っぽさでこれほどのエンターテイメントを実現した手腕は、下手なA級タイトルよりも遥かにA級的だと思うのだ。実際、星の数ほど存在する単純娯楽アクション映画で、本作ほど楽しめるタイトルがどれだけあるだろう。『コマンドー』は、B級に擬態したA級タイトルと表現しても、あながち間違いではないだろう。

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