『マウス・オブ・マッドネス』(’94) / カーペンターの撮る「虚構と現実」のクトゥルフもの

2021/10/31 ・ 映画 ・ By 秋山俊

世界中でベストセラーを連発している人気ホラー作家、サター・ケインの本を読んだファンたちが狂気に駆られて凶悪な事件を起こし始め、当の作家は失踪してしまう。彼を調査しに行った主人公たちは、やがてケインが書いていた物語が現実を侵食していることに気が付き、彼の物語に出てくる不気味な街に迷い込むことになる――

奇妙な映画である。怖いわけでも特別グロいわけでもない。いわゆるホラー映画とは少し違い、異界を垣間見てしまったような気分を味わえる映画。ラブクラフトのクトゥルフ神話をベースにしており、実際、雰囲気は『インスマウスの影』に近いし、それを確信的に演出していることは、映画の原題 “In the Mouth of…”の部分の発音が「インスマウス」みたいになることからも明らか。

図:小説内に出てきた街を「発見」してしまう主人公たち(『マウス・オブ・マッドネス』)

虚構と現実が入り交じる。「世の中の大半の人間が狂えば、残った人間のほうがむしろ異常者だ」というセリフが出てくる。作家の物語が現実化していることに気がつくが、作家はむしろ「現実を書かされていた」のだと主張する。虚構が現実化したのか、現実だったものを虚構として表現していたのか。

迷い込んだ「架空」の街で、主人公は完全な「異邦人ストレンジャー」と化す。「異邦人」である主人公は、街の中で全くの置いてきぼりを食らう。銃を持って教会に集合する住民、疾走する黒い犬、奇妙な宿のおかみ。やがて一緒にやってきた相棒も狂気の世界に引きずり込まれ、「彼岸の人」と化す。狂っているのは自分か、周囲か。

昔観たときは全体のB級臭さやオチの弱さが気になってピンとこなかったのだが、「虚構と現実」というテーマに着目して再鑑賞すると、すんなり愉しめた。『マウス・オブ・マッドネス』は、プロットは不条理だし、映像的な引きがあるわけではないので、好みはかなり分かれるだろう。押井守や寺山修司の映画が好きな人は楽しめると思う。最終的にはこの世界観に浸れるかどうかの映画。

ジョン・カーペンター映画としては、本作は『パラダイム』の精神的な後継作と言える。不条理な世界観、周囲の人間が次々に「彼岸の人」となり孤立する主人公たち、そして「あちら側の世界」と通じることが世界の破滅に通じる点など、多くの要素が共通している。

満足度:8/10

BD 日本語盤レビュー

映像的にも文句ないし、なによりサウンドが素晴らしい。低予算ホラーとは思えない5.1ch サラウンドの完成度で、サラウンドスピーカーも結構活用されている。

映画の記事一覧

初版:2021/10/31

同じテーマの記事を探す