黒沢清『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(’85)

2021/06/05 ・ 映画 ・ By 秋山俊

大学っておかしなところですね。いつもお祭りみたい。ていうか、遊園地みたい。戦場かなあ。

『ドレミファ娘の血は騒ぐ』

どうしようもない……快作!そう、それは雲ひとつない青空のように……っ!

黒沢清監督はホラーの人として認識されているが、『ドレミファ娘の血は騒ぐ』のような路線の方が面白い。

『ドレミファ娘の血は騒ぐ』

理想の男性であった吉岡を追いかけて大学にやってきた秋子(洞口依子)。ところがその吉岡は大学ですっかり変質しており、さらにそこで出会った心理学の教授の「恥ずかしさ」に関するあやしげな実験に参加させられる。なぜなら羞恥心のない他の大学生と違い、純粋な心を持つ秋子なら教授の実験を完成させられるからである。

内容は学園コメディ。もっと言えばゴダールのマネごとをしたナンセンス系の前衛。でも元々は日活ロマンポルノとして撮影されていたエロ映画(なんだそれ?)。当初は『女子大生・恥ずかしゼミナール』という、聞いたこっちが恥ずかしいタイトルだったが、納品を拒否されたので大幅に内容を変更して「普通の」映画にしたらしい。まっ、ヌードはあるけど。生まれ変わった『ドレミファ娘の血は騒ぐ』というタイトルから溢れるパワーよ。

成人指定を外すために男女のからみのシーンをごっそり切って、それだと一時間に満たなくなって短すぎるので、二十分ほど撮り足しました。それらのフィルムを強引につぎはぎして出来たのが『ドレミファ娘の血は騒ぐ』です。あれを見て、「そりゃにっかつロマンポルノでは通らないでしょう」と誤解する方もいますが、「女子大生・恥ずかしゼミナール」は題名通りの映画として成立していたので、全然別物です。

黒沢清『黒沢清の映画術』
『ドレミファ娘の血は騒ぐ』

60年代のゴダール映画を知ってる人には「あれで学園コメディをやった感じ」という説明で済むのだが、そうでない人には非常に説明が難しい。棒読みのセリフ。絵画のようなポーズで不自然に硬直した人物たち。唐突に挿入される意味不明な主張や演説。登場人物たちの異常かつ支離滅裂で非現実的な行動の数々。教室内に唐突に風が吹き荒れて(どう見ても扇風機)「きゃあー!風が!」とか棒読みしているアレ。

『ドレミファ娘の血は騒ぐ』

「なぜですか?どうしてですか?」
「いやだからさぁ。そういうふうにその、なぜですかっていう具合に訊かれるとね、結局、なぜでもないっていうふうに答えることになっちゃうだろ」
「……なぜですか?」

『ドレミファ娘の血は騒ぐ』
『ドレミファ娘の血は騒ぐ』

『ドレミファ娘の血は騒ぐ』は、愉快な映画である。映像やセリフのリズムから繰り出されるシュールな雰囲気が、全編を貫いている。模倣されているゴダールの映画も、全体としてコメディっぽいシュールさが漂っているのだが、本作はそれをもっとコメディに寄せた感じで、あえて言えば『ウィークエンド』にノリや雰囲気は近い。テーマ的な話をすると、おそらく学園内に漂うどうしようもない「空虚」や「無意味性」を扱っているが、まあ、そんなことはどうだっていい。

初主演を果たした洞口依子の「絶対的美少女っぷり」は、常にこの映画の中心にある。彼女の魅力で無理やり映画として結束させている作品。この頃の洞口依子は、最近で言うと平手友梨奈に近い。常に無表情で、三白眼気味にニラんでくる。黒沢清監督の話によると、指示を出すと全くぎこちなく動くが、自由にさせるとすごく良く動く、というタイプの女優だったらしい。

洞口依子は天性の女優だったんです。[…] 洞口さんのような人はめったにいないものです。

『黒沢清の映画術』

自由自在に撮っているという感じがする。監督が楽しんでいる。なんというか、若さとパワー。そういったものをもらえる作品。「オレは映画が撮れる」という確信に満ちた映画。

内容はメチャクチャ。というかデタラメ。人は本作を駄作とけなす。そもそも最初の予定とは違うものを、無理やり作ったから、それは当たり前。だからどうした?ゴダールだってそうだっただろう。構成なんてクソくらえ。頭で作ったものからは底の見透かせるものしか生まれない。豪腕。『ドレミファ娘』は突き抜けて面白い。豪快に面白くて、笑える映画だ。黒沢清監督のどうしようもなく不遜な快作だ。監督、これ面白いよ!ククククク……ハハハハハ……ッ!!

満足度:9/10

新リマスター盤DVDと配信再開を祝して記す(Blu-ray出そうよ?)

だけど僕は破綻してる映画の方が好きなんだよ。凡庸な映画は救いようがない。だけど破綻している映画は色んなことを学べる。だから破綻してる映画は大好きなの。それに、何かをやろうとすれば破綻するリスクを冒すのは当たり前なんだよ。[…]勢いがある映画が破綻するのは当たり前じゃん。

押井守『押井守監督が語る 映画で学ぶ現代史』

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投稿: 2021/06/05 ― 更新: 2021/06/09
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