変人宇宙人・愛を授ける『スターマン/愛・宇宙はるかに』【解説文字起こし】

2021/03/24 ・ 映画 ・ By 秋山俊
『スターマン/愛・宇宙はるかに』1984年

今回紹介するのは、どんな少ない予算からでもヒット作を生み出す、ハリウッドの錬金術師にしてB級映画の帝王、ジョン・カーペンター監督が84年に手掛けた、まさかの感動系宇宙人モノ。キーワードは、宇宙人・変身・ドラゴンボールにローリング・ストーンズ……『スターマン』!

『スターマン』あらすじ

宇宙人来訪

かつて人類が宇宙へ飛ばした友好メッセージ。教科書にも載っているかの有名なNASAの無人惑星探査機・ボイジャーを、宇宙人が発見するところから物語はスタートする。

ウキウキ気分で地球にやってきた宇宙船。ところが冷戦の最中で短気になっていたアメリカは早とちりし、自分で招待しておきながら、やってきたアンバサダーをミサイルで殴るというド派手なサプライズをかますことで、地球人が誇り高き戦闘民族であることを全宇宙に知らしめてしまう。

『スターマン/愛・宇宙はるかに』

宇宙船を失って困り果てた宇宙人・スターマンは、仕方なく湾岸の近くに住んでいた一人暮らしの未亡人、ジェニーの家へと避難する。早くから夫を失ったジェニーは、その日も酒浸りで生前の夫のビデオを眺めつつ眠りに落ちていた。寄る辺のないスターマンはひとまず、アルバムに残されていた死んだ夫の髪の毛からDNAを読み取り、短時間で急速に生前の姿に擬態する。

手からこぼれ落ちる7つのドラゴンボール。実はこのボールにはとんでもない力が秘められているのだが、それはひとまず置いておこう。

『スターマン/愛・宇宙はるかに』

夫に擬態したのを見てパニクったジェニーは、相手がなにを言っているのかも全然分からないので、ひとまずパワーオフ。眼を覚ますと……死んだ夫に擬態した宇宙人がなんか髪を逆立てて宇宙と交信していたのでドン引きして逃げた。

『スターマン/愛・宇宙はるかに』

…が、捕まったので、3日後までに待ち合わせ場所に行って星に帰ると言うスターマンに無理やり同行させられるのだった。

美女と宇宙人の珍道中

ところで彼が持ってきた謎の7つの球、通称ドラゴンボールは、1個消費するたびに遠い星と交信したり、バリアを張ったり、人の傷を直したりと、作中の描写を見る限りは、おおよそ何でも願いが叶うっぽいスーパーテクノロジーのブツであり、おそらくヤフーオークションに出せば100兆円は下らない代物だが、彼の星では家電量販店で売っているレベルのオモチャなのか、グーグルマップの代わりに使ったり、道端で出会った人をビックリさせるために使ったりと、メッチャ雑な使い方をされていく。

『スターマン/愛・宇宙はるかに』

さらにこのスターマン……困ったことに、最初に学習した地球人の姿が、よりによって変顔を披露してふざけていた男の映像だったので、これ以降、出会う人々に変顔をキメてドン引きされていく残念星人と化してしまう。

またこの映画では、惑星探査機にあの超有名ロックバンド、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」を載せて宇宙に発信したことになっているが、これを気に入ったスターマンが顔をカクカクさせながらこの曲を熱唱し、ジェニーをドン引きさせるシーンは、本作を象徴する珍場面として、見た者に粘り気のある記憶を残すことだろう。

さて、そんなこんなで3日以内にアリゾナ州まで行き、救出に駆けつけたスターマンの仲間たちと落ち合おうとする二人だが、この珍道中で次第に二人の間に特別な絆が芽生えたり、地球のアップルパイが気に入って好物になったりと、異星人モノの定番っぽい文化交流や成長物語が描かれていく。

『スターマン/愛・宇宙はるかに』

一方で、そんなふるゆわな空気をガン無視してスターマン捕獲に邁進するカタブツの軍人や、スターマンを追う中で次第に理解を示し、二人の協力するようになる科学者など、エイリアン来訪系の話の定番キャラクターたちが二人を追いかけていく。

しかし地球では3日間くらいしか身体がもたないという、ウルトラマンのたった1440倍の活動時間に過ぎない、ホタルのように儚いスターマンは次第に衰弱していき、ドラゴンボールも散々無駄遣いがたたり、いざという時に使えずピンチになっていく。そんな中、またしても夫の姿をした人物と別れなければならないジェニーに対し、スターマンが手渡したものとは?

その結末は、ぜひ映画本編を鑑賞して確かめていただきたい。

『スターマン』の魅力

『スターマン』最大の魅力、それは紛れもなく、主人公スターマンが見せる数々の珍妙な言動や奇行にある。顔がラジコン操作されているのかと思うほどカクカクしたその動きは、主演のジェフ・ブリッジスによる、「地球人の動き学習中」なエイリアンを演じた周到なる怪演であり、アカデミー主演男優賞にノミネートされるほど高い評価を受けている。文字通りオスカー級の演技力は、スクリーンを完全に占拠してしまっている。

ジェニーを演じるカレン・アレンは、『インディ・ジョーンズ / 失われたアーク』でもヒロインを演じ、一躍有名になった女優である。しかし実はその後有名作品にはほとんど出演していないので、『スターマン』は全盛期の可憐なアレンがヒロインを演じた、密かに貴重な作品と言えるだろう。

解説役として二人を追い続ける、オタクっぽい科学者のシャーマン。なぜかマフィアのボスみたいに葉巻をふかす、大物なのか小物なのか分からないチャーミングな彼は、地球の風習を盛大に勘違いしたスターマンによって唇を奪われた、本作の裏ヒロインである。

『スターマン/愛・宇宙はるかに』

フォックス局長は、スターマンに親でも殺されたのかと思うほど執拗に追跡と攻撃を繰り返すウォーリアーであり、最後は『地獄の黙示録』ばりに戦闘ヘリを動員し、感動の場面を地獄の業火で埋め尽くさんと暗躍する。そのアグレッシブさにより、スターマンからも「知性があるのに野蛮なのは地球人くらい」と辛口レビューで戦闘民族認定されてしまうが、局長のせいでぐうの音も出ない。

スピルバーグとの因縁が生んだ『スターマン』?!

スピルバーグ vs. カーペンター

『スターマン』という作品をジャンルに当てはめると、異星人と人類の初の接触を描いた『未知との遭遇』のような、いわゆる「ファースト・コンタクトもの」に分類される作品であり、また同時に『E.T.』からブームになった「善良な宇宙人もの」でもある。

このように一見、スピルバーグ起こしたブームに乗じた80年代SFに見える本作の裏には、巨匠同士のドラマがあった。

実は本作が出る2年前、本作を監督したカーペンターと、同世代で当時同じく勢いのあったスピルバーグの二人が、ほぼ同時にエイリアン映画を出すという事件が起きていたのである。

奇しくも発生した、20世紀アメリカを代表する監督2人の直接対決。ところが善良なエイリアンとの友情を描いた『E.T.』があまりにもヒットし過ぎた影響もあり、その2週間後に公開された、ゲテモノ・エイリアンが人類をガバガバにする話である『遊星からの物体X』がコケて大惨敗に終わってしまう。

『遊星からの物体X』1982年

『遊星からの物体X』の反省が生んだ『スターマン』

今でこそSF映画の傑作としてほまれ高い『遊星からの物体X』だが、当時は失敗作とみなされ、カーペンター監督はその後に決まっていた仕事を降ろされるという、順調だったキャリアで初の挫折を経験。後に監督はその衝撃を「天と地がひっくり返った」と語る。

スピルバーグが述べていた、「観客は自分たちを元気にさせてくれる映画を求めている」という先見こそが的確だったのであり、「彼の言う通りだった」「(スピルバーグは)当時の観客がなにを必要としていたのかが分かっていたんだ」と認めている。

そのため、たちの悪いエイリアンや怨霊が人類を泣いたり笑ったりできなくする映画ばかり撮っているカーペンター監督にしては珍しく、直接対決の2年後に撮られた『スターマン』は、ヒューマニズム溢れる作品になったのである。

『スターマン』の評価

さて、それでは『スターマン』はそんな監督が自分のスタイルを崩して観客に迎合しただけの作品なのかというと、そんなことはないのである。

そもそも「感動系」と聞くと、それだけで人によっては安手のヒューマンドラマを想像するかもしれない。だが本作は全体としては友愛を描いていながら、主人公が変顔をキメて顔をカクカクさせているせいで、常にシリアスとギャグが同居したシュールな空気が漂っている。

『スターマン/愛・宇宙はるかに』

また他にも、不思議アイテムのドラゴンボールが強烈なインパクトとツッコミどころを残している点など、カーペンター監督独特の味わいも存分に発揮されているのである。さらにドラマとしても宇宙人の優しさや心の触れ合い、それに伴うヒロインの態度の変化などが丁寧に描かれていて、押し付けがましくない。

そのため本作は「カーペンターと言えばドライな作風のB級映画」というイメージを打破する作品であり、癖の強い映像作家としてよりかも、どんなジャンルもそつなくこなせる、職業監督としての幅広さが発揮されていると言えるだろう。彼の代表作とは言えないが、多くの人に薦めやすい佳作である。

最強のB級映画監督、ジョン・カーペンター

最後に補足しておくと、このジョン・カーペンター監督は、映画好き以外に名前を言っても、90%の確率で「誰それ?」っと聞き返される監督ではあるが、低予算で映画マニアを唸らせる作品を連発した、20世紀後半を代表する重要監督の1人である。

特に代表作『ハロウィン』はその後、それを模倣した『13日の金曜日』を始めとするスラッシャー映画ブームを巻き起こし、また『ニューヨーク1997』のキャラクターが、あの有名ゲーム『メタルギア』の主人公スネークのモデルになるなど、映画を中心としてサブカルチャー広域に影響を及ぼしている。最近では、「エイリアンが実は地球を既に支配している」という陰謀論のストーリーを通して、資本主義社会を痛烈に批判した『ゼイリブ』が、SNSなどの口コミを通じて再評価される動きも見られる。

昔洋画劇場などで流れていたような、「バカげているけど味のあるB級映画」を求めている人は、カーペンター監督の作品をチェックしよう。

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初版:2021/03/24

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