主人公たちの堕落・陵辱・不道徳!『フロム・ビヨンド』(’86)【解説書き起こし】

2021/03/12 ・ 映画 ・ By 秋山俊

今回ご紹介するのは、昨年、全世界のホラーファンに惜しまれながら亡くなった変態映画の巨匠、スチュアート・ゴードン監督が人類に残していったハレンチな忘れ形見。「変態による、変態のための、変態映画」。『フロム・ビヨンド』!

『フロム・ビヨンド』あらすじ

禁断の実験

夜中にある薄暗い研究室の一室で、若き天才科学者がキーボードを叩いていた。彼の名はクロフォード。必死の作業の末、彼はついにある研究を完成させる。それは怪しげな共振器、「レゾネーター」を作動させることにより、「あっち側の世界」と「こちら側の世界」を繋いでしまうものだったが、テスト起動しただけでヤバそうなモンスターが大挙してきたので慌ててスイッチを切ってしまう。

『フロム・ビヨンド』

ところが研究主任でありマッド・サイエンティストなプリトリアス博士は、プレステ感覚でレゾネーターを再起動させ、次元を繋く。すると機械は暴走を始めて制御不能になり、あっち側の世界に魅了された博士はそのまま実験を続行。クロフォードは絶叫しつつその場から脱出し、後に残された実験室には、頭を不自然にねじ切られた博士の死体が横たわっていた……

博士の復活

その後、事件の容疑者となったクロフォードの説明があまりにも常軌を逸していたため、彼は分裂症であると診断され、病院に放り込まれてしまう。ところが彼の脳をスキャンした結果、脳の中で性欲をつかさどる松果体が異常に肥大していることが判明。実験により松果体が肥大したことで、幻覚を見たのではないかと考えた担当医のキャサリンは、監視役にブランリー巡査長をつけ、3人であの夜の実験を再現すべく、再び屋敷へと向かう。

『フロム・ビヨンド』

屋敷の中はよく見ると博士の残したSMの道具や、自作のポルノビデオが流れる奇妙な空間だったが、後にこれらの影響でキャサリンがとんでもないことを彼らはまだ知らない。

クロフォードの警告にも関わらず再現される闇の実験。するとあの夜と同じく次元が繋がり、死んだはずの博士が全裸で姿を現したではないか。博士によれば、喰われたことで魂があっち側の世界に移動しただけで生きているのだという。しかしどう見てもバケモノになっていたので、3人はたまらずケーブルを抜き実験を強制中断。

『フロム・ビヨンド』

クロフォードたちの進化

全員が異常現象を確認したことにより、クロフォードの正気が確認されて実験終了と思われたが、なぜか担当医のキャサリンが実験の続行を主張。実は実験の影響により彼女の脳の松果体も肥大し、性欲が異常に強くなって変態と化しつつあったのだった。

勝手に装置を再起動させてエロい気分になり、クロフォードを誘惑し始めるキャサリンだが、再起動により、またしても出現した全裸博士は、あっち側の世界で進化を遂げた第二形態に移行しながら、キャサリンの服を破って全裸にしてしまう。すると悲鳴を聞きつけたブランリー巡査長が、これまたなぜか全裸で救出に駆けつけ、2人を助けるべく奮闘する。

『フロム・ビヨンド』

こうして何とか博士の野望を食い止めようとするクロフォードらだが、度重なるレゾネーターの起動による脳への影響が確実に顕れ始め、物語後半からは自分の性欲や食欲を制御できなくなり、キャサリンは女王コスチュームに身を包んで男たちを誘惑する悪女として覚醒。

主人公であったはずのクロフォードは、松果体が肥大しすぎて触手が伸びてしまい、その影響で周囲の人間の脳みそがハンバーガーのように美味しそうに見えはじめ、誰彼構わず襲い始めて脳みそを食べだす人食いモンスターと化し、ついにはキャサリンをも拘束して襲い始めるという、もはや誰が正義で、なにを倒すべきかも全くわからない、混沌の極みと化していく。

『フロム・ビヨンド』

そして主人公らが人々に襲いかかるのをよそに、事件のあった屋敷では、プリトリアス博士が最後の復活を遂げようとしていたのである……

変態映画界の巨匠、スチュアート・ゴードン

お下劣監督

ここで賢明なる観客の多くは、80年代の低予算映画とは思えない、迫力に満ちた博士の変身描写や、いかにも怪しげで雰囲気抜群な世界観の構築に感心しつつも、やたら全裸になりたがる登場人物や、美人のヒロインの露骨な変態化について、なぜこれほど確かな作品世界の演出と、エロ同人誌のような変態描写が同居しているのか、不思議に思うかもしれない。

実はこの作品を監督したスチュアート・ゴードン、監督としては確かな手腕を持ちながらも、映画を撮るからには不道徳でお下劣な作品を作らずにはいられないという、宿命的な性癖を持つ変態監督なのである。この監督にとっては、登場人物を堕落させ、スクリーンを不道徳で埋め尽くすことによって、人間はみな変態であると主張することが目的と言っても過言ではないのだ。

ゴードン監督作品の特徴

  • その①:主人公が外道と化す
  • その②:真面目だった人物が変態堕ちするか、徹底して陵辱される
  • その③:登場人物が服を着たがらない
  • その④:ポルノ映画並のエロ・グロシーンは当たり前
『フロム・ビヨンド』

このチャンネルでも紹介した前作『死霊のしたたり』も、カルトホラーとして熱狂的なファンを生み出しつつも、登場人物がひたすら命をもてあそびながら不道徳の限りを尽くし、最後はみんなスッポンポンで取っ組み合いをするという、お下劣極まりない映画であった。ゴードン監督にとって、人間というのはみな倒錯者であり、どんな紳士淑女も聖人も、一皮むけば背徳的行為に耽溺する野蛮人と化してしまうのである。

登場人物紹介

ここで本作に登場する愉快な仲間たちを紹介しよう。

前作『死霊のしたたり』と同じくジェフリー・コムズ演じるクロフォードは、主人公でありながら周囲の人間を襲う外道に堕ちていく点でも共通しており、ゴードン監督作品の顔と言えるだろう。

これまた前作から続投してキャサリンを演じるバーバラ・クランプトンは、今回も見事な脱ぎっぷりと堕落ぶりを見せ、ホラーマニアにとっての脱衣アイドルと化している。

ブランリー巡査長を演じたケン・フォリーは、あの超有名ホラー映画『ゾンビ』の主人公を演じた俳優でもあり、周囲が全員堕落する中、全裸で奮闘して笑いを誘ったり、後半はなぜかポップなコスチュームに着替えつつ、最後まで人間の心を失わずに戦うなど、『フロム・ビヨンド』唯一の良心として八面六臂の活躍を見せる。

最初と最後に出てくる犬好きのおばちゃんは、ネット上では「マツコ」や「ミニラ」などの愛称で親しまれ、おもむろに怪奇の現場に現れては泣き叫んで取り乱すという、ホラー映画に欠かせないモブキャラ要員である。

事件の元凶であるマッド・サイエンティストのプリトリアス博士は、劇中でレゾネーターが起動するたびに人間としての姿が崩壊して形態が進化していき、最終的には首が異常に発達した究極生命体と化していく。頭から触手を伸ばして顔だけウネウネ動かすその姿は、10年以上後になって日本のゲーム会社が発売し、全国各地で話題になった「あのゲーム」に出てくる人面魚、シーマンにクリソツである。最終形態まで進化して巨大な手足にシーマンの顔が生えたようなその姿は、言わばパーフェクト・シーマン。

『フロム・ビヨンド』

ちなみにとんでもない事件を引き起こしたこの博士だが、あっち側の世界に行って超生物に進化した後も、やっていることは若い女の服を破いたり顔をなめたりと、その辺のエロ親父と変わりなく、結局この博士がなにを成し遂げたかったのかは今ひとつ判然としない。

『フロム・ビヨンド』の評価

このように個性豊かな人物たちが、イカれた実験をしたり、全裸になったり、SMを始めたりと、相変わらずのお祭り騒ぎで、気分が落ち込んだときに観ると元気をもらえる『フロム・ビヨンド』だが、作品全体のクオリティとしては、ストーリーが狭い屋敷の中でほぼ完結しており、レゾネーターのスイッチを切る、切らないをめぐって全裸の男女が延々と騒いでいるだけで、スケール感や変化に欠ける印象は拭えない。この点では、他人を次々にゾンビ化させてオモチャにしてしまうことで、登場人物の立場がどんどん入れ替わっていった前作『死霊のしたたり』に劣ると言えるだろう。

反面、博士の身体がどんどん怪物化していく様子や、異世界の生物が見えるようになるSFXなど、予算が大幅に増えたことでビジュアル面は強化されており、ゴードン監督による、目眩のするような変態ワールドが炸裂している。そのためこの作品は、ストーリーを愉しむ作品というより、愉快な仲間たちが本能の赴くままに堕落して大騒ぎする様を愉しむ、視覚的な変態映画としてオススメである。

なおストーリーが変化に欠けると述べたが、元になったラブクラフトの小説はたった6ページの小説であり、それを元にここまで妄想を広げて強烈に映像化して見せた点。少ない予算を最大限活かすために、わざわざイタリアまで移動して撮影しつつも安定したクオリティに収めている点など、スチュアート・ゴードン監督の手腕は今作でも光っているが、内容が内容だけに、一般受けは望むべくもなかったのである。

映画の記事一覧

初版:2021/03/12

同じテーマの記事を探す