『氷の微笑』完全解説・文字起こし

2021/01/26 ・ 映画 ・ By 秋山俊

今回ご紹介する『氷の微笑』は、伝説のエロ・サスペンスである。何が伝説なのかというと、なんとヒロインがノーパンで脚を組み替えただけで話題になり、3億ドルの興行収入を叩き出してしまったのだ。

しかしそれだけでなく、実は悪女モノの殺人ミステリーとしても大掛かりな仕掛けがあり、観た後で必ず真相が分からなくなる、油断ならない作品である。『氷の微笑』は本当は何がスゴいのか?真犯人は誰なのか?この動画で全て説明しよう。

『氷の微笑』あらすじ

元ロックスターの死

サンフランシスコで残忍な殺人事件が起きた。元ロックスターの男が全裸で両手を縛られ、31箇所もアイスピックで刺されて死亡しており、周囲には男の血液と精液が飛び散っていたというのだ。このアブノーマル殺人事件を調査するためやってきた二人の刑事、ニックとガス。容疑者は、状況が状況なので、もちろん殺されたロックスターの恋人・キャサリンである。

恋人が殺されたにも関わらず、海岸付近の別荘で悠々と過ごすキャサリン。刑事たちの訪問にも全く動じる様子はない。この不敵な様子、やはり彼女こそが犯人なのか?

というか観客には冒頭でいきなり、セックスを行いながらケダモノのように興奮してロックスターをめった刺しにしたキャサリンらしき金髪女が映っていたので、彼女が犯人であることは自明であるかのようにも思えるのだが、実はこれこそが本作の最大のキモ。

この映画はシラを切り続ける彼女を軸に「キャサリンが犯人なのか?そうではないのか?」を追いかけ続けるミステリーであると同時に、「犯人が二重に存在する」という、トリッキーかつ立体的なミステリーになっているのだ。いったいどういうわけなのか?

容疑者として挙げられたキャサリンは作家であり、彼女の著作を調べた結果、驚愕の事実を発見する。彼女の小説のストーリー、それは元ロックスターがハードプレイ中に腹上死というロックな死を遂げる、という内容であり、今回の事件と全く同一の内容だったのだ。

これについて捜査本部は次のようなプロファイリングをする。今回の事件の犯人は

  1. 自分の書いた殺人事件を現実に実行してしまうサイコ野郎
  2. 物語通りの殺人事件を実行して作家を陥れようとするサイコ野郎

のいずれかであり、つまり、どっちにしろ極めて異常で危険なサイコ野郎である。本格的な捜査に乗り出すニックとガス。さらにこの捜査をサポートするのは、ニックとスポーツ・ファックする間柄の、たまにキレる心理学者、ベス・ガーナーである。

キャサリン・トラメルの尋問

さて、あまりにも堂に入ったシラの切り方から、一度は引き下がったサンフランシスコ市警だったが、やはりキャサリンが最も怪しい容疑者であることに変わりはないため、彼女を署に呼んで尋問することが決定する。

さて、ここから『氷の微笑』最大の見せ場である、キャサリンが刑事たちの尋問を、ノーパン脚組み換えをすることによって華麗にかわすレジェンダリーなシーンに突入するのだが、当然、従来の動画良識的には、このシーンを公共の場で語ることなど不可能であった。しかし今回……あらゆる撹乱を駆使することにより、この動画を監視する“ヤツら”を欺くことに成功した。シャロン・ストーンの女優生命を賭けた伝説の21フレームを、その眼に焼き付けるがいい。

(ここは動画を観てください。キャサリンが足を組み替えて刑事たちを動揺させ、尋問を切り抜けます)

さて、ノーパンで足を組み替えたことによって、まんまと正義をよろめかせたキャサリンは、尋問を有耶無耶にしたまま颯爽と帰宅してしまう。、彼女に対しては、両親や恋人たちすらも、彼女の書いた小説のストーリーに沿って殺した容疑がかけられていた。彼女の豪奢な暮らしぶりは、死んだ両親から莫大な遺産を相続したためなのである。

正義のよろめき

己の欲望を満たすために、一体何人の罪なき人々の血をすすってきたのか。義憤に駆られたニックは、捜査のためと言い張って昼も夜もなくキャサリンを尾行し、彼女の犯罪を洗い出さんと孤軍奮闘する。勇み足でつい別荘まで侵入し、彼女の着替えを一部始終眺め回してしまったのも、全くの英雄的動機からなのである。

しかし実はこれらのポロリ目撃は全てキャサリンの仕組んだ罠であり、彼女の悪魔的な誘導によって何度も裸を見せつけられたニックは、案の定ドツボにはまり、しだいに彼女の魔性の虜になってしまい、スポーツ・ファックしたベスにもそのことを指摘されてしまうのだった。

美魔女の沼に肩まで浸かった男やもめ・ニックは、それからも正義のためと己を偽り、キャサリン家へのお勤めに精を出すが、しかし彼女がニックのプライベートな過去を、なぜか知っていることに気づいて激怒。警察内部から情報が漏れていると考え、自身のカウンセラーのベスを問い詰める。ところがベスによれば、ニックの調査ファイルを強引に奪っていったのは、内務監査局の局員・ニールセンだというのだ。

さらなる殺人事件

自分の情報をキャサリンに売ったとしてニールセンと大喧嘩するが、情報漏えい者と思われたそのニールセンはその後、何者かに射殺され、直前に騒動を起こしていたニックが容疑者になり、一時停職処分を言い渡されてしまう。

停職された後も執着を捨てきれず、性技執行のために足繁くキャサリン家に通う淫欲の虜囚・ニックは、なんだかんだで着実にキャサリンに教育され、彼女の言動を真似するようになって同化を始める。しかしそんなニックも、彼女が現在書いている小説の内容に戦慄する。

それはなんと「堕ちるべきでない恋に堕ちた警官が破滅する」というストーリーであり、その物語は完成間近だと言うのだ。そう、この女、特定の男をダシにして小説化しては、用済みになったら下着のように捨てて、次々に穿き替えていく大悪魔系女子だったのである。

(お早めにお召し上がりください。ニックという商品がゴミ箱にポイ捨てされるイメージ)

ニックのポイ捨て期限が確実に迫るなか、どう考えてもヤバ過ぎるので、ベスが「キャサリンは男を巧みに操る女だ」と散々警告を加えるが、「他の男は知らないが、オレだけは大丈夫」という、根拠不明な個別的例外の幻想に生きるニックは、値千金の助言も右から左へと聞き流し、どこ吹く風で、キャサリンと永遠の愛でも誓う空想に耽溺するのであった。

そんな時に再び事件が起こる。呑気に帰宅しようとしていたニックを、何者かが車で執拗にひき殺そうと突進してきたのだ。慌てて自分の車に飛び乗り、激しいカーチェイスの末に逆に相手の車を大破させたニック。犯人の正体は、キャサリンのレズビアンの恋人、ロキシーだった。彼女もまたキャサリンに毒された人間の一人であり、ニックへの激しい嫉妬に駆られていたのである。

ロキシーを失った悲しみに暮れるキャサリンを下半身で慰めるニック。そこで彼は、キャサリンの口からポロリとこぼれたエピソードから、衝撃の事実を突き止める。なんと警察内で自分のカウンセラーとして働き、恋人でもあるベスもまた、死んだロキシーのように、かつてキャサリンと特別な関係にあったというのである。しかもベスはかつてはキャサリンを崇拝し、髪型まで真似していたというのである。

ベス・ガーナー犯人説

それが事実であったことを確かめたニックは、さらに捜査の末、ベスの夫は数年前に路上で撃ち殺されており、それがベスの女性の恋人をめぐる事件であった可能性、さらに殺されたニールセンはベスの素性を探っており、彼女の過去の事件を探っていたことなどを突き止める。つまりこの連続殺人は、自分を捨てたキャサリンを恨むベスが仕組んだものであり、彼女が小説に沿った殺人を犯すことでキャサリンをハメようとし、さらに自分の過去を探っていたニールセンを殺害した疑惑が急浮上したのである。

ベスの意外な正体を知ったニックだが、ベスに詰め寄ると、関係があったことは事実だが、真似をして近寄ってきたのはむしろキャサリンの方であり、ニックを操っているのだと反論する。しかし下半身ばかり充血して頭に血が通わないポンコツ刑事のニックに、そんな可能性を受け容れるキャパはないので、キャサリンの純愛を信じて二人の愛の巣に舞い戻ってしまう。

しかしそこでキャサリンから告げられたのは衝撃のポイ捨て宣言。「もう小説書き終わったし、あんたがモデルの主人公は死んだから」と冷たく言い放つキャサリンに、かつて終わらない夜を過ごしてきた女の面影はなく、代わりにそこにいたのは彼女の友人であるヘイゼルだった。このヘイゼル、実はキャサリンの周囲にさりげなく何度も登場している、引退した連続殺人鬼なのだが、特に何をするというわけでもないので、どんな人物なのかほとんど分からない。

絞りカスと化したニック~結末

ボロ雑巾のようにしおれながら、かろうじて相棒の車に乗るニック。ガスは調査により、ベスと殺されたロックスターにも繋がりがあったという情報を得ており、これからベスの情報を握っている人物に会うのだと意気揚々と語るが、助手席に座っていたニックは、もはやそれまでの彼ではなく、夢見る男やもめの残骸に過ぎなかったので、いくら話しても上の空で全然埒が明かない。

仕方なく、かつてニックであった物体を車に残して、情報提供者のいるホテルの一室に駆けつけるガスだが、呆けたままホテルを見ていたニックが、そこに不審な人物がいることに気がつく。しかし時既に遅く、エレベーターで待ち伏せしていた何者かによってホトケにされていた。

絶望するニック。そんな彼の前に、どういうわけか同じホテルにいたベスが姿を現したではないか。やはりベスがガスを殺したのか。ポケットに手を突っ込みながら近づいてくるベス。パニクったニックは、とっさに銃を撃ち、ベスをうっかりあの世へ送ってしまう。その場でおだぶつするベス。しかし彼女のポケットに入っていたのは、凶器ではなく、ニックとの合鍵を繋ぎ止めていたキーホルダーだった……

この事件の後、ベスの自宅からはキャサリンに関する大量の資料が押収され、事件の全ての辻褄が合い、一連の殺人事件はベスを犯人として解決。キャサリンは晴れて容疑者から外れたのだった。やはりあの場に現れたベスが真犯人で、かつての恋人であったキャサリンに執着し、彼女を陥れるべく殺人を重ねていたのだろうか。

その後、キャサリンともどういうわけか仲直りできたニックは、気兼ねなく一緒になれることを喜び、相変わらず彼女と永遠の愛を誓う妄想を募らせる。キャサリンは、そんな彼が今後自分を束縛する気がないことを知り、ベッドの下から手にした何かをそっと隠した。そう、それは事件の発端となったロックスターを殺害した凶器、あのアイスピックだったのである。

二重の犯人

真犯人は誰なのか

こうして、事件は幕を閉じた……っが、ちょっと待ってもらいたい。この事件は一体どのように解釈すべきだろうか。犯人は、物語の世界で名指しされたようにベスだったのだろうか。それとも、最後にニックを殺す素振りを見せていたキャサリンが全てを操っていたのだろうか。

ここからは、映画のストーリーの二重性を踏まえた上で、誰が最も犯人らしく、各人物がどう関わっていたのか、できるだけ納得できるように深堀りしていこう。

キャサリンもベスも犯人になり得る

まず大前提として、この映画では、誰が犯人であるかを100%の確信をもって結論づけることはできない。全ての殺人に対して誰が殺したのかが明示的ではなく、またキャサリンとベス、どちらが犯人と考えても、解釈としては破綻なく成立してしまうためである。

また同時に、ベスが黒幕であったならキャサリンの周囲の殺人や最後のアイスピックが説明困難になり、キャサリンが犯人だとすれば、ベス周辺の出来事がよく分からないという感じになってしまう。つまりこの物語は揺るぎない解釈を求めると、メビウスの輪のように推理が循環してしまい、だからこそ、映画を観た多くの観客が「結局誰が犯人かよくわからなかった」という感想を残すのである。

このような各人物の証言が食い違い、物語内で全てを完璧に整合できないストーリーの類型として、黒澤明監督の『羅生門』および、その原作となった芥川龍之介の『藪の中』などがある。これらの作品でも、登場人物が各自に矛盾した証言を行っていき、最後まで何が真実なのか全く確定しない。このような一意に定まらない物語を、観客はどのように受け止めるべきなのだろうか。

これについて、古来より様々な評論家たちも多様な意見を出してきた。その中で…は「読者が物語の正解を見つけ出すのではなく、物語が読者に対してどう解釈するかを試す作品である」という考えを打ち出した。

実はこのような、解釈を観客にゆだね、観客が解釈することで初めて物語が収束するタイプの物語は、ポール・バーホーベン監督が『氷の微笑』の前に撮った作品である『トータル・リコール』(’90)とも共通する。あの映画でも、実は全体のストーリーが○○で、主人公が××であるという解釈が成り立ち、最終的に観客が物語を結論付けなければならなかった。

より多くを説明できる考えを求めて

このように宙に浮いたシナリオは、脚本の「テクスト」としての性質を、意識的に前面に出した作りと言える。「テクスト」とは何か?

ある物語の意味や意図が、作者によって一意に定められていると考えるのではなく、物語それ自体は宙に浮いた映像や言葉の引用集合体であり、その意味は受け手に解釈されることで収束する、と考える、文学批評を中心に現在主流を成している解釈理論を「テクスト論」と呼ぶ。

もう少し簡単に言い直すと、「作者は自分の作品に対して特権的な立場を持たず、ある解釈が世界に対して説得力を持つなら、その説得力の影響範囲において、それは正しい解釈」という考え方である。先程の『藪の中』に関する論文も、本作『氷の微笑』も、共にテクスト論が広まった後の90年代前半に出てきているという時代の必然性に注目したい。

そのような解釈の多様性について認めた上で、この動画では「キャサリン真犯人説を突き詰めることが、最も豊かな解釈につながるはずである」という結論を提示する。

そもそも、ベス犯人説は映画の中でほぼ不足なく説明されており、物語を理解すれば事足りる。同時にそれは多くの消化不良を残すだろう。一方でキャサリン真犯人説は、より多くの謎について説明を与えることができる、より都合の良い解釈なのだ。

キャサリン犯人説

黒幕と実行犯

キャサリンが真犯人と考えた場合、まず終盤のベスに関するタレコミの電話をかけておびき寄せたのは彼女、もしくはその仲間であり、ベスとロックスターとの関係は虚偽である可能性が高くなる。ベスの部屋から見つかった数々の証拠品は、ベスの留守中にキャサリンが仕込んで偽装したものであり、そのための伏線としてベスのセリフに「家の鍵が壊れている」というセリフが存在する。

キャサリンが犯人だと仮定した場合でも、実行犯が彼女である可能性は微妙である。たとえばロキシーが実際にニックを殺そうとしていたように、心理操作を駆使するのが得意なキャサリンが他人を操って殺害させ、完全犯罪を成していたという説は『氷の微笑』の定説の1つである。

殺人の実行犯にしても何人かの候補が挙げられるが、最も込み入った推理としては、ベスすらもキャサリンに操られており、ニールセン殺害などを実行していた可能性もある。ただしこの考えには、ベス自身がニックに対して再三、「キャサリンは他人を操る」という警告を発していたことから、その発言者が簡単に誘導されるものかという傷は残る。

ヘイゼル・ドプキンスとは何者なのか

また本作の一番曖昧な存在は、ある意味では、本筋に一切絡まないにも関わらず、何度も姿を現すキャサリンの友人、ヘイゼルと言える。この女性はかつて、ある晴れたのどかな日に、何の意味もなく自分の家族を皆殺しにしてキョトンとしていたサイコキラーだが、彼女の物語上の役割は一体なんなのだろうか?

まず1つ目は、キャサリン犯人説を成り立たせるために、協力者として配置されている、というものである。というのも、最後の殺人においてガスを殺しつつ、同時刻にベスの部屋へ偽の証拠を仕込むため、最低2人いないとトリックが成立しづらいからだ。

もう1つの考えは、キャサリンが犯罪者になるよう影響を与えたのは年長者のヘイゼルであり、二人が親子のように親しげで服装も似ているのは、その影響の顕れだということである。キャサリンはヘイゼルから「殺人の衝動について教えてもらった」のだと語っているが、これは小説家として学んだという意味だけではなく、彼女自身が殺人に手を染めるキッカケだったのだと解釈することもできる。つまりヘイゼルこそがキャサリンの闇のマスターであり、ある意味においては、本作最大の黒幕という解釈も成り立つはずなのである。ただしヘイゼルに関しては劇中での情報が本当に少ないので、これは完全に推測の領域を出ない。

キャサリンが犯人ならば、当然、ラストにベッドの下に隠していたアイスピックでニックを殺す予定だったはずだが、彼の態度を見て考えを変えたということになる。

ファム・ファタール映画の系譜

『危険な情事』『白いドレスの女』からの引用

さて、本作の謎解きに関する解説は以上だが、最後に補足として、この『氷の微笑』の映画史における立ち位置を説明しておこう。

この映画は「魔性の女に惹かれた男が身を滅ぼす」という話のパターンを持つ、いわゆる「ファム・ファタールもの」の映画の1つと言える。ファム・ファタールとはフランス語で「運命の女」という意味であり、この「運命」という言葉には「破滅の運命」の意味合いが強い。

そしてそもそも本作の主演にマイケル・ダグラスが据えられているのは、1987年に大ヒットを飛ばしたストーカー映画である『危険な情事』で作られた、マイケル・ダグラスの「危険な女に振り回される男」としてのイメージを引っ張ってきたためだと考えられる。この『危険な情事』は、1971年にクリント・イーストウッドが初監督作品として発表した『恐怖のメロディ』を模したものであり、『恐怖のメロディ』はストーカー映画のハシリである。

さらに言えば、『氷の微笑』においてキャサリンが白い服装を好み、男たちを操っていくのは、1981年に公開されたファム・ファタール映画の傑作である『白いドレスの女』からの引用であると考えられるのだ。

このように本作は、映画史におけるファム・ファタール映画の文脈を踏まえて、引用を駆使しながら作られた作品なのである。ちなみに他のファム・ファタール映画の中では『白いドレスの女』の完成度が非常に高く、単なるエロ・サスペンスにとどまらない脚本の完成度の高さや、巧みな演出に注目してもらいたい作品である。

映画の記事一覧

初版:2021/01/26 ―― 改訂: 2021/02/03

同じテーマの記事を探す