スラッシャー映画の演出術――『13日の金曜日』解説文字起こし

2020/11/15 ・ 映画 ・ By 秋山俊

『13日の金曜日』あらすじ

1980年6月13日、金曜日。あるのどかな町に、一人の少女がやってきた。彼女の名はアニー。この近くの湖、クリスタルレイクのキャンプ場で働くために遠くから来たのだ。

しかし町のダイナーでキャンプ場について訊ねると、地元住民は一様にしかめっ面をする。さらに湖に向かう途中、湖は呪われていると叫ぶ酔っ払いや、アニーにキャンプ場で働くのは止めたほうがいいと警告する人間も現れる。

『13日の金曜日』1982年

実はクリスタルレイクでは昔、不幸な事故で死者が出てからというもの、不気味な事件が多発し、ついには殺人事件まで起きていたのだ。しかし事件で誰も寄りつかなくなったキャンプ場を現会長が再開させ、アニーはそこで働くために向かっていたのである。

警告にも関わらず、無視してクリスタルレイクへとヒッチハイクを繰り返して向かうアニー。しかし次の車に乗り込んだとき、様子がどうもおかしい。車はキャンプ場を通り過ぎて進み続けるのだ。降ろしてくれというアニーの頼みも聞かず走らせ続ける運転手。ついに飛び降りて助けを求めるアニー。しかし恐ろしいことに、わざわざ彼女を追撃しにきた運転手は、手にした兇器で彼女の首を切り裂いてしまう。呪われたキャンプ場で再び惨劇が巻き起こるのか。

一方その頃、アニーより先にキャンプ場に着いていた他の青春野郎どもの下にも先程の酔っ払いが現れて警告し、クリスタルレイクに不穏な空気が漂い始める。しかし怖いもの知らずの彼らは、セックス、マリファナ、インディアンのコスプレ、死んだフリなど、呪われたキャンプ場で所狭しと跋扈して、われも遅れじと死亡フラグを立てていくのだった。そんなアバンチュールの夜に、大雨でキャンプ場は封鎖状態に陥り、ついにここでも謎の殺人鬼による連続殺人が開始されるのである。

ここで『13日の金曜日』シリーズ、およびそれに類似するスラッシャー映画の特徴と楽しみ方を解説すると、これらの映画はズバリ、調子に乗った人間たちの豪快かつユニークな死に方を楽しむ、殺人博覧会的見世物感と、セックスや浮気、過剰な善人やリア充アピールなど、乱立する死亡フラグから誰が次に死ぬかを予想し、また登場人物たちも競うかのように死んでいく、殺人負け抜きトーナメントを楽しむ映画である。

例えばヒッチハイクをしたアニーが、脈絡なく出し抜けに「私は子供のためなら何でもできる」と発言するシーンが挿入されたり、過去の犠牲者のシーンで、殺される前の女性に「彼女はハーバード出だ」と唐突に紹介が入るのは、よく考えると物語的な必然性も繋がりもなく不自然。

実はこのようなアピールは、スラッシャー映画では殺される前フリとして挿入されているのだ。他にもカップルがところ構わず始めるセックスや、年長者の警告を無視して小バカにするのは、大体死ぬ前フリだと思っていい。

クリスタルレイクで繰り広げられる、この壮絶な死亡フラグの立て合いによるバトルアリーナで、あなたは次の被害者を的確に予想できるか?

ここで『13日の金曜日』で華麗な死に様を披露する犠牲者たちを紹介しよう。

全犠牲者入場!

最初の犠牲者は生きていた!実は一作目では出番無し!ジェイソン・ボーヒーズだぁ!

クリスタルレイクは既に再開している!呪われた湖の責任者、スティーブ・クリスティだぁ!

殺し次第投げまくってやる!実は肉体派の殺人鬼、パメラだぁ!

殺せるものなら殺してみろ!歩く人間死亡フラグ、ネッドだぁ!

冥土のみやげにアックスとはよく言ったもの!可愛い顔面がいま、さく裂する!マーシー・カニンガムだぁ!

特に理由はない。セックスしたいのは当たり前!奇跡の永久発情期、ジャック・バーレルだぁ!

『13日の金曜日』1982年

予言をしたいから湖まできたッ!自らが神の使いである根拠、一切不明!神出鬼没の酔っ払い、クレイジー・ラルフだぁ!

脱衣モノポリーなら私はいつでも全盛期だ。お色気担当は死への道程!ブレンダだぁ!

監視員の仕事はどーしたっ!冒頭からいちゃついて死亡フラグ全開、バリー&クローデッドだぁ!

クリスタルレイク連続殺人はこの男が完成させた。いつの間にかドアと一体化していた最後の犠牲者、ビルだぁ!

どうして死んでしまったんだ主人公!善人が死ぬのはホラーの鉄則!ミスリードを誘う偽主人公、アニーだぁ!

殺人鬼の心技体

以上、『13日の金曜日』で個性的な死に方を披露する犠牲者たちを紹介したが、この作品のブラックユーモアを支えるのが、連続殺人鬼の心・技・体である。この映画の犯人は、その正体を考えるとかなりハードな肉体労働をおこなっている。

死体を何体も運搬して登場人物をビックリさせ、窓から死体を投げ込み、あるいら被害者を弓を射抜き、さらにターゲットがセックスしている間中、息を殺してベッドの下に潜伏し続けるなど、肉体だけでなく精神力においても、一流の忍に匹敵するものを持っている。しかしスラッシャー映画における殺戮百般は、このような殺人鬼の壮絶な自己研鑽に支えられているのだ。

『13日の金曜日』は計算された傑作

さて、スラッシャー映画ブームの火付け役である『ハロウィン』の影響のもとに、『13日の金曜日』が確立・完成させた、このような定番やお約束は、その後星の数ほど出てきたフォロワーによって模倣されつくされ、こうした粗雑に濫造された映画群を「テンプレ的な展開をなぞって低予算で作られた、安っぽいポップコーン・ホラー」のように見なす向きもあるだろう。

『13日の金曜日』

しかしそれらスラッシャームービーの映画文法を整え、面白さを定式化したこの『13日の金曜日』という作品、実は過去の名作を踏まえてかなり計算して作られており、少なくともこの一作目は、まさに傑作と呼ぶに相応しい娯楽性と革新性を兼ね備えていたのだ。

一体、『13日の金曜日』が傑作たるゆえんとは何なのだろうか?それはズバリ「視点移動」にある。そしてそのカギを握るのは、実は最初の被害者であるアニーなのだ。

物語の「視点」の奪い合い

映画の冒頭のシーンを思い出してみよう。物語はクリスタルレイク周辺にやってきたアニーが、あたかもこれから始まる物語の主人公であるかのように始まり、物語は彼女の「視点」から描かれる。

しかしこれはミスリードで、彼女は開始たった20分で殺人鬼に殺されてしまい、物語の「視点」は強奪され、以後の50分間、観客の視点はむしろ殺人鬼の視点に同化し、物語の興味は「犠牲者たちがいつ、どのように殺されるのか」という点に移る。

このようにダミーとして用意された人物の類型を「偽りの主人公」と呼び、あるいは物語の真の狙いから注意を逸らして、鑑賞者をミスリードする手法そのものを「燻製ニシンの虚偽」と呼ぶ。

『サイコ』との共通点と相違点

この「主人公の殺害による強制的な視点移動」という作劇上のトリックは、初期スラッシャー映画の傑作であるヒッチコックの『サイコ』を模倣している。『サイコ』においても、前半は主人公の女性と、彼女を巡るサスペンスが物語の焦点であるかのように装いながら、しかしそのプロットは殺人鬼に殺されることによって唐突に強制終了してしまい、それまで張られていた伏線共々沼に沈められる。以後は殺人鬼の視点を中心に新しいプロットが進められ、物語の視点は乗っ取られてしまう。

『13日の金曜日』が『サイコ』のオマージュであることは他にも、どちらの殺人鬼も類似した精神疾患を患い、人格的な両性具有を生じていることからも分かる。

しかし『13日の金曜日』が優れているのはこの後である。まず殺人鬼が物語の視点を専有してからは、登場人物が襲われるマゾヒスティック・ホラーから、むしろ殺人鬼のサディズムを共有するスプラッターへと、映画の形質そのものが反転してしまう。この形質反転は『サイコ』には見られない。『サイコ』は視点が移動した後も、主人公が追われる立場のサスペンスである点には変わりないのである。

『13日の金曜日』は「勧善懲悪」である

『13日の金曜日』の続編における観客の反応を見たある記者は、観客の中には犠牲者に同情したり悲しむ者は一人もおらず、むしろその殺され方に喝采を送っていたと記している。ここにも映画の作り手による、巧妙なトリックがある。

『13日の金曜日』

『キャリー』や『ハロウィン』の流れを汲んだ、青春ホラーのバリエーションである本作では、犠牲者たちはもっぱら性的に奔放な、軽率な若者たちで、スクールカーストの上位に居座ってそうな美男美女である。観客が彼らに感情移入できそうなバックグランド・ストーリーは描かれず、彼らは単に「調子に乗った、少しイラッとさせられる人間」として記号化されている。

実際、クリスタルレイクの最初の犠牲者は、彼らがセックスに溺れたゆえの監督不行届によって生まれてしまっている。本作はある意味では、そのようなカースト上位層に対して殺人鬼が反撃に出るという、逆立ちした勧善懲悪の物語なのである。だからこそ観客は殺人鬼の視点に問題なく同化でき、調子に乗ってしまった登場人物たちの死に、むしろ溜飲の下がる思いがするのだ。

最後の視点移動とファイナル・ガール

しかし『13日の金曜日』の演出の仕掛けはそれだけではない。この映画では殺人鬼による殺戮が最後の生き残りにまで迫る段階に入ると、再び物語の視点がスイッチして、逃げる側の人物に移るという構造になっている。

つまりこの映画は3段構造になっており、まず偽りの主人公によるミスリードでスタートして、ありふれた怪談話に擬態しながらも、その話はすぐに終了して殺人鬼による殺戮ショーを愉しむ映画へと変貌する。しかし必要な殺戮が終了すると、再び視点は犠牲者側にスイッチし、襲われる恐怖を感じられるマゾヒスティックなホラーに回帰するのだ。それぞれの視点への時間の割り振り方を見ても、本作がしっかり計算して視点を移動させていることが分かる。

このような、主にスラッシャー映画において、最後まで生き残って反撃に転じる生存者を「ファイナル・ガール」と総称する。ファイナル・ガールの類型は以下のようである。まずこの人物は基本的に女性であり、性的な魅力にはやや欠けているものの分別があり、他の人物のように無思慮ではない。土壇場で勇気を発揮し、殺人鬼に立ち向かうなどの男性的な強さを備え、人格面でも例外的に感情移入しやすい正統派の人物として描かれる。

実際、最後の犠牲者が出て殺人鬼が正体を現してからの展開は、かなり緊張感ある、手に汗握る本格ホラーとなっており、観客はあっという間に立場を変えて、ファイナル・ガールに同化してしまう。そして彼女が殺人鬼の魔の手から逃れると、心から安堵するのである。

スラッシャー映画を完成させた『13日の金曜日』

この視点の移動に関して、先駆者である『ハロウィン』ではまだ完成されていなかった。『ハロウィン』においては、殺人鬼ブギーマンとファイナル・ガールの視点が等価で並行的であり、物語は2つの視点をザッピングするような形で進んでいき、物語は単層構造に近かった。

また犠牲者についても、『ハロウィン』はそもそも犠牲になる人間が少なく、展開は容易に推測可能である。一方、『13日の金曜日』は犠牲者を大幅に増やして、単純に殺戮シーンを倍増しただけでなく、それによってファイナル・ガールをも包み隠して、展開の予想難易度を上昇させている。アイドルで喩えると『ハロウィン』がモーニング娘なら『13日の金曜日』はAKB48であり、ここから乃木坂や欅坂に相当するフォロワーが出現したのである。

『13日の金曜日』はなぜ傑作か?それは『ハロウィン』が広げたスラッシャー映画というフォーマットを、その2年後にいきなり完成させてしまったからなのだ。

スラッシャー映画は逆・推理映画

スラッシャー映画は一見、殺人鬼の正体を探る映画であるかのようにも見えるのだが、大抵の場合、殺人鬼は都市伝説的な超人であり、また物語にもあまりに唐突あるいは平然と登場するので、特定のしようがない。実際、本作を鑑賞しながらその存在を推理しても、ほとんど無意味である。

一方、犠牲者たちとファイナル・ガールについては多くの推理材料が与えられており、本作においても、ホラー映画について楽屋裏的な考察を行えば、比較的簡単にファイナル・ガールを特定することができる。つまり『13日の金曜日』やそのフォロワーというのは、殺人鬼を推理するのではなく、数々の犠牲者や死亡フラグの中に混じった、覚醒を待つ真の主人公、ファイナル・ガールが誰かを推理する、メタ的な逆・推理映画なのだ。

そもそも『13日の金曜日』は、出だしから非常にメタ的な映画である。最初の偽りの主人公、アニーに関しても、あれが偽りの主人公として機能するためには、観客に王道的なホラー映画のドラマツルギーが了解されていることが前提となる。

もっと言えば、数多のホラー映画の積み重ねの果てにブームとなったスラッシャー映画自体が、最初からメタ的なジャンルであり、『ハロウィン』は『サイコ』についての引用に富んだ自己言及的な映画であったし、それは『13日の金曜日』でも踏襲されている。そして後続のスラッシャー映画は、スラッシャー映画のお約束自体をネタにする、さらに高次の自己言及映画となっていくのである。

ファイナル・ガールと「戦う女主人公」

最後にスプラッター映画におけるファイナル・ガールについて、もう少し突っ込んだ考察を行うと、彼女らは『エイリアン』のリプリーや『ターミネーター』のサラ・コナーのような、70年代後半以降にアクション映画で増え始めた「戦うヒロイン」と同種であると見なせる。これが『サイコ』のような60年代ホラーのヒロインと決定的に異なる。

ファイナル・ガールという、覚醒を果たして男性的強さを発揮するヒロインが1つの型として普及し、広く受け入れられるためには、フェミニズム運動の高まりのような、女性の権利上昇が社会的条件として必要なのである。そのような時代精神をまとわなければ、最後に凶悪な殺人鬼に反撃する女性像は定着せず、あいも変わらず無力に泣き叫び続ける子羊として、死せるヒロインたちの墓標に参列するより他にない。

つまり『13日の金曜日』やそのフォロワーの誕生は、たまたまこの時代にランダムに発生した映画現象ではなく、社会と連動した1つのムーヴメントであり、そして映画とは常に、それが作られた時代と無関係ではいられないのである。

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投稿: 2020/11/15 ― 更新: 2020/11/21
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