『レッド・オクトーバーを追え!』解説文字起こし

2020/11/03 ・ 映画 ・ By 秋山俊
『レッド・オクトーバーを追え!』1990年

2020年10月、俳優ショーン・コネリー永眠。最もダンディな俳優の1人であり、出演するだけで作品の品格を上げてしまうスターであった。この訃報を受け今回、本チャンネルが彼の出演作のイチオシとして推薦するのは、1990年公開の、潜水艦映画の傑作『レッド・オクトーバーを追え!』。

この映画、『ダイ・ハード』(’88)を成功させた直後のマクティアナン監督が、トム・クランシーのミリタリー小説を映画化し、007で名を馳せたショーン・コネリーが主役を演じるという、かなり豪華な顔ぶれなのだが、映画の出来栄えも、面子に恥じない納得の出来栄えである。

この動画では、そんな本作のあらすじと「『レッド・オクトーバーを追え!』はなぜ面白いのか」を徹底解説しよう。

『レッド・オクトーバーを追え!』あらすじ

東西冷戦真っ只中の1984年、ソ連のある新型原子力潜水艦が出航を開始する。その艦の名はレッド・オクトーバー。艦長はベテランのマルコ・ラミウス。早くもその動きを察知していたCIAの分析官、ジャック・ライアンは、このかつてない規模の巨大潜水艦が、実は米ソのパワーバランスを揺るがしかねない、とんでもない性能を秘めていることを発見する。

『レッド・オクトーバーを追え!』1990年

なんとこの潜水艦、新型の「キャタピラー・ドライブ」の搭載により、居場所を探知することがほとんど不可能!海中から何の前触れもなくアメリカを核攻撃が可能だというのだ。

しかし一方、ソ連の方でも異常事態が起きていた。驚くべきことにラミウス艦長が、レッド・オクトーバーの出航直前に突然、潜水艦に乗っていたソ連の監視役を、熊の如き一撃で強襲し殺害。そのまま強引に出航してしまったのだ。実はこの艦長、あろうことかレッド・オクトーバーをそっくり奪ってアメリカに亡命する計画を立てていたのである。しかしここには、いくつもの重大な問題があった。

  1. 亡命するのは彼と腹心の部下のみであり、乗組員のほとんどはソ連に忠実な兵士であるため、彼らを騙しながら航行せねばならない
  2. アメリカに亡命したいが、その意思をアメリカ側に伝達できていない
  3. よってソ連に背いた彼らは目下、米ソ双方から追われるハメになる
  4. さらに乗組員の中には、KGBのスパイも存在する

しかし切れ者のラミウス艦長は、アメリカに己の意図を悟らせるべく、巧妙に亡命のサインを発していた。彼はアメリカには、そのサインを見抜ける切れ者がいるはずだと信じていたのである。

『レッド・オクトーバーを追え!』1990年

抜群の頭のキレと膨大なデータベースを頭に入れてラミウスの意図に追従し続けるジャック・ライアン。さらに生粋のサウンド・オタクであり、4,000万ドルの機械を超える聴き分け能力を持つ男、ロナルド・ジョーンズが、人智を超えたアナログの音感と執念で、追跡不能なはずの原子力潜水艦の痕跡を嗅ぎ分けていく。しかしそこには、裏切り者を撃沈すべくソ連の主力艦隊も集結していた。

果たしてアメリカはラミウスの意図に気がつき、彼とレッド・オクトーバーを確保できるのか。

情報量とテンポ

このように、互いの知恵を振り絞っての探り合いや出し抜き合いが繰り広げられる『レッド・オクトーバーを追え!』だが、2時間15分があっという間に感じられるほどの面白さはどこから来るのだろうか。

いくつか語りの切り口が考えられるが、この映画はまず、作中で流れる情報の量とスピードが圧倒的である。作中には様々な謎や伏線が張り巡らされているが、それらのミステリーは比較的短時間で解決されながら、続いてすぐさま次の謎にバトンタッチしていき、観客に退屈を感じる暇など与えない。

レッド・オクトーバーを追うライアンたちには、ソ連の潜水艦がどのようなポテンシャルを秘めてるかといった、「小ミステリー」が常に目前に与えられ、それは次々に解決されていくが、同時に、いきなり味方を殺したラミウス艦長の真意のように、解決までに長いスパンを必要とする「大ミステリー」も伏流しており、それらは解決を保留されたまま、謎として長く残存する。

さらに物語を追う視点が米ソ両陣営の潜水艦クルーたち、さらにアメリカの司令部へと、目まぐるしく往復を繰り返し、事件を複数の視点から立体的に解き明かしていくという、異なる場面を並走させて進める複雑な構成になっており、そのテンポの速さは、20年後の米国TVドラマを先取りしているかのようである。

トム・クランシーがこの作品を書くのに費やしたのはなんと9年間であり、それだけ費やして練り上げられたこの立体パズルを、たった2時間15分で駆け抜けるのだから、その情報密度は極めて高い。

さらに映画は最初のショットからして既に伏線が張られており、また劇中で起こるあらゆることに対し、前もってその“前兆”が示され、実は先んじて事態が説明されている。しかしそれらは、いかにも伏線めいた、わざとらしい示され方はされておらず、2回目を観て初めて伏線だったことに気づくものも多い。

本作はこのように、極めて高密度に圧縮された、情報量の多い映画となっているが、その情報量の多さゆえに、初見で全てに正確に追従していくのは大変であり、80年代の筋肉アクション映画に慣れきっていた人たちの頭は爆発しただろう。そのため伏線の理解も含めて「『レッド・オクトーバーを追え!』は2度観れば2度おいしい」ということが言える。

カウントダウンが熱い

『レッド・オクトーバーを追え!』で最も白熱するシーンは、なんと言っても「カウントダウン」である。劇中では、迫りくる魚雷や障害物を回避するために、何度もカウントダウンが入るが、そもそもなんでカウントダウンばかりしているかというと、潜水艦というのは何も見えない乗り物だからなのである。

『レッド・オクトーバーを追え!』1990年

潜水艦は文字通り見つからないよう潜ることが仕事であり、したがって自分から何らかの信号を発してしまうような行動は、極力慎まねばならない。自分が信号を発しないということは、その反射も起こらないということであり、したがって潜水艦は何も見えない水中を、音とタイミングを頼りに行動しなければならない。

劇中で幾度も挿入される、このカウントダウンのシーンの緊張感と、勝負師のように虚空を見つめながら、タイミングだけに全神経を集中させるショーン・コネリーは、「世界一セクシーなおじさま」の地位をほしいままにしている。このカウントダウンの美学に痺れた人は、本作を鑑賞後、日常の変哲ない場面で、意味もなくカウントダウンを開始して、レッド・オクトーバーごっこを始めてしまうほどである。

大胆な設定と細部へのこだわり

軍事オタクをも唸らせる緻密な考証や描写に定評のあるトム・クランシー小説だが、話を部分的には大胆にフィクショナルに描き、エンタメとしてブラッシュアップしているのが映画版『レッド・オクトーバーを追え!』の魅力である。

たとえばソ連の一部士官たちが一斉に亡命をする展開などは、非現実的だと批判されることもあるが、そういった部分でのリアリティにはこだわり過ぎず、胸アツな展開を用意するバランス感覚こそ、テクノスリラーである本作が一般受けした大きな理由の1つと言えるだろう。

一方でその後の追跡劇や政治劇に破綻らしい破綻はなく、作中に挿入されるパガニーニの話やコルテスの新大陸での逸話、素人にはよく分からん専門用語が艦内を乱れ飛ぶ様子などは、監督やトム・クランシーのオタクトークに追従できない観客を知的に煙に巻きながらも、観るもののパトスに火をつけ再鑑賞を促すミスティフィカシオンの役割を果たしている。

『ダイ・ハード』を撮ったマクティアナン監督がそのまま艦上アクションを撮ると、ともすれば『沈黙の戦艦』的ダイナマイト・アクションと化してしまう恐れがあったのだが、そこにトム・クランシーの原作が加わることで、話良し、テンポ良し、頭良しの三拍子が揃った痛快な娯楽大作が生まれたのである。

ショーン・コネリーがダンディ過ぎる

本作の主人公は、ジャック・ライアンシリーズの第一作ということもあり、米国CIAのジャック・ライアンのようにも思えるが、もちろん真の主役はパッケージにもなっている、ラミウス艦長ことショーン・コネリーと言えるだろう。

『レッド・オクトーバーを追え!』1990年

ショーン・コネリーがダンディであるというのは論をまたないことだが、艦長姿に身を包んだ彼の姿はまさにダンディ・オブ・ダンディ、ダンディの権化であり、目の前を通りかかっただけで、フェロモンにやられて立ちくらみが起きんばかりである。そもそも艦長や船長といった海の男は、無条件にヒゲを蓄えて遠くを見つめているといったイメージであり、ショーン・コネリーはまさに適任なのである。

さて、駆け足ながら『レッド・オクトーバーを追え!』の魅力を解説してきたが、壮年期のショーン・コネリーの魅力が味わえるのが007シリーズなら、高年期の魅力が詰まったのが『レッド・オクトーバーを追え!』であり、彼の歴史を振り返る中で、是非手にとっていただきたい作品である。

映画の記事一覧

LINEで送る
Pocket

投稿: 2020/11/03 ― 更新: 2020/11/07
同じテーマの記事を探す
関連記事
コンテンツ
文客堂について