籠城戦映画『要塞警察』と『アサルト13 要塞警察』解説文字起こし

2020/10/29 ・ 映画 ・ By 秋山俊
『ジョン・カーペンターの要塞警察』

『ジョン・カーペンターの要塞警察』は、現在では巨匠の1人に数えられるジョン・カーペンターの、初のヒット作と呼べる映画で、B級映画の面白さが詰まった作品と言えるんじゃないかと。「素晴らしきB級」とか「上質のB級」とでも呼べるような、そういう作品になっているんですよ。本作を監督したジョン・カーペンターは、「B級映画の巨匠」とも呼ばれ、低予算で面白い映画を作る達人として知られてます。

それで『要塞警察』には1976年のオリジナル版と、2005年のリメイク版があるんですけど、先にオリジナル版の話をしましょうか。

『要塞警察』あらすじ

『要塞警察』がどんな映画かというと、簡単に言えば男たちが警察署に立て籠もって戦う、籠城戦を描いた映画。カリフォルニア州にあるアンダーソンという地区で、ある移転準備中のガラガラの警察署に、その日たまたま寄ることになった数人の警官と囚人たちが、武装したストリートギャングに包囲されて、完全に孤立した状態になってしまう。電話も通じず助けも呼べない状況で、周囲から攻めてくるギャングの攻撃に協力して耐え続けるという話です。

『要塞警察』1976年

警察署にやってきた面々というのは、移転の間の留守を任された黒人警官のビショップと、護送中だったけど病人がいて急遽立ち寄った囚人たちと護送警官、あとは警察署で事務仕事をしていた、お色気担当の胸を強調するお姉さん2人という具合で。最初は男の警官たちだけで対処しようとするんですけど、あまりに敵が多すぎて、ついには囚人を解き放って共同戦線を張ることになります。この警官と囚人の協力関係という緊張感が、本作の持ち味の1つになります。

内容としては基本的にB級。つまり低予算だし、カーペンター監督の作品はどれもそうだけど、あまり凝ったシナリオとか巧妙な伏線とかいったものはない。基本的には狂信的なギャング集団がいて、それに絡まれた中年男性と若干の美女が、汗ダラダラ流しながら銃を撃ってドンパチするという映画。要するにただの「戦う映画」なんですけど。

『要塞警察』1976年

映画を印象深くする変テコさ

なんでそういう、単に戦うだけの低予算映画が面白く仕上がっているか、というのが不思議なところなんです。本作を監督したカーペンターという人は不思議な監督で、低予算を渡されて、一見ありきたりなテーマで安っぽい映画を作るんだけど、観た人がなぜかファンになってしまう、独特の味わいを出してるんですよ。

で、自分の中ではカーペンター作品を色々観てきて、その人気の秘密を結構言語化できていると思うので、それをいくつか話しますね。

まずこの『要塞警察』では、登場人物にカーペンターらしい変テコさが加味されていて面白い。具体的には警察署に閉じ込めれていたナポレオンという犯罪者なんですけど、こいつがちょっとおかしなヤツで、同じセリフを何度も言う。出会った人全てに「タバコあるかい?」って訊いてたり。それでいて戦闘になるとすごく頼りになるという、よく分からん人物が造形されていて。

『要塞警察』1976年

カーペンター作品ってそういう変なズレ、典型から微妙に外れた、理屈で説明できない部分を楽しむというのが常にある。他のハリウッドの監督だったらつい他の映画で観たような、よく見るキャラクターというのを登場させて、よくある記憶に残らない映画にしてしまうところを、カーペンターは常に味のある演出を加えて「あれは何だったんだろう」と思うような作品に仕上げる。

たとえば他のカーペンター作品でいうと、『ゼイリブ』(’88)の、話の本筋に全く関係ないのに長々と続くプロレスとか、『スターマン』で地球人に化けた宇宙人が、ローリング・ストーンズのサティスファクションを変顔で熱唱してたりとか。そういう「どっから出てきたの?」っていう、説明のしようがない演出を、臆面もなく加えるところがカーペンター風味としてあると思います。ちなみに本作は脚本も音楽も、全部カーペンターが担当してるんですけど。

セリフも全体的にウィットがあるというか、ちょっと気の利いたやり取りがあって「何だコリャ?」というのがあるんですよ。たとえば劇中のある場面で、危険を冒して外の車に乗り込んで外部に助けを求める作戦を実行する際、主人公たちがいきなり、変なじゃんけんをノリノリで始めたりする場面とか。

こういう「定型や月並みからズラす技巧」というのは、最近では日本の漫画界で人気があると思います。たとえば最近の漫画家でいうと『チェンソーマン』の藤本タツキとか『進撃の巨人』の諫山創とかは、このズラす技巧というのを作家性の中心に置いてますね。

カーペンター監督の演出術

カーペンターという監督はそういう、作品のユニークさとか面白さを出すための、定型からの外し方というのを実に心得ている監督なんですけど、一方で演出方法が非常に巧みで如才なく、奇抜さに自己満足して基本を疎かにしている監督ではない、というのが、彼の安定したクオリティを支えていると思います。つまり、部分的には奇想天外でありながら、実は技巧派で、彼の作品は計算され尽くされてるんですね。

たとえばこの映画では、実際に人が死ぬ瞬間まで、誰が死ぬのかというのが分かりにくいんですね。あんまり露骨な死亡フラグを立てない。で、死ぬのかな?っと思うと、助かるんですよ。だから観客が「死なないのか…」っと思って注意が外れた次の瞬間、その人物が唐突に死んでしまう、という演出が巧み。あるいは、振り向いたらいつの間にか死んでたとか。

ちなみにこの、何も起きないと見せかけて、直後にいきなり事が起こるという、ミスディレクションのテクニックは、監督の代表作である『遊星からの物体X』でも何度も使われていて、人間に擬態したエイリアンを捜す映画なんですけど、人間を化け物かテストしていって、「こいつは本物の人間なのかな」っと思って、ふっと気を抜いた瞬間に、エイリアンが「ピギャーッ!」と飛び出てくる。

そういった監督の演出術が、一番光っているのが、『要塞警察』の中での少女が撃ち殺されてしまう場面。この映画では、そもそもなんでギャングに絡まれたかというと、少女を殺された男性が復讐でギャングメンバーを殺して、警察署に駆け込んだからなんですけど。その事件の発端となる少女のシーンで、死なないと見せかけて死ぬ、という演出が巧みになされていて、少女が本当に唐突に死んでしまってショッキングなんです。

『要塞警察』1976年

さらにこの場面だと、少女を死へ誘うのが、アイスクリームを売るトラックというのが、演出として非常に効いてますね。アイスクリームトラックの周囲に明らかにヤバそうなギャングがうろついているのに、宣伝のためのアイスクリーム屋のメロディが鳴ってしまう。緊張感漂う場面に、異様にカワイイ音楽が鳴り響いて、アイスクリーム屋のメロディが、言わば死神の旋律となって、少女は地獄に足を運んでしまう、という印象的な場面が出来上がっている。

リメイク版『アサルト13 要塞警察』

『アサルト13 要塞警察』2005年

っと、それがオリジナル版の『要塞警察』の話で、この映画のリメイク版が、およそ30年後の2005年に作られたんですよ。話の全体の構造としては同じで、クリスマスに警察署に残っていた警官たちが、謎の武装集団から攻撃を受けて、孤立する中で囚人たちと協力しながら生存を目指す、という話なんですけど。

このリメイク版の一番のウリは、なんと言っても俳優。イーサン・ホークが警官役で、ローレンス・フィッシュバーンが囚人役として出演しています。で、ぶっちゃけて言えば、予算と俳優パワーで押すハリウッド映画という印象が強いです。特にフィッシュバーンの方は、本作が『マトリックス・レボリューションズ』(’03)でのモーフィアス役の、次の出演作だったので、相当存在感があるし、彼のドスの利いたカリスマ犯罪者の演技で、この映画は随分救われていると思います。

あとは味方として出てくる金髪美女が、取り乱さないために数字を数えて落ち着くという、プッチ神父みたいな変な癖を持ってるんですけど、この人が、味方が必死で車のエンジンかけようとしているのに、横で相変わらず数字を数えているのが妙にシュールで、いつまで数えてるんだよ、っと、カーペンター映画みたいに印象的でしたね。

元ネタになった『リオ・ブラボー』

まあただ、オリジナル版では半分くらい費やしていた戦いの前の場面が、ほとんど省略されていて、純粋にアクションに特化していたのが残念で。そもそもオリジナルの『要塞警察』は、1959年の『リオ・ブラボー』という西部劇の現代版として作られていたものなんですよ。『リオ・ブラボー』は、悪党に包囲された街で保安官たちが持久戦をするという2時間20分の映画で、戦いよりヒューマンドラマを重視していました。

『リオ・ブラボー』1959年

それでオリジナルの『要塞警察』には『リオ・ブラボー』の演出をアレンジしたシーンが何箇所もあるんですけど、リメイク版はそういった元々のコンセプトから完全に離れてアクション映画になってましたね。1回観てスカッと楽しむには悪くない映画なんですけど、2回以上観たくなるタイプの映画ではない。

ちなみに元ネタとなった『リオ・ブラボー』は本当に良い映画なんですよ。ハワード・ホークス監督の撮った西部劇の傑作で、保安官たちの男の友情が逆境を跳ね返していくという、勧善懲悪の娯楽大作で。主演は名優のジョン・ウェインで。今観てもすごく面白い。だから『要塞警察』が好きな人には、是非『リオ・ブラボー』も観て欲しいですね。

ちなみに本作のもう1つの元ネタは、最近何度も紹介している元祖ゾンビ映画の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(’68)で、建物に閉じこもって襲撃に耐えるという設定がそっくりなんですけど、そっちは以前のラジオや、ロメロのゾンビ映画を解説した動画を参照してください。

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投稿: 2020/10/29 ― 更新: 2020/10/30
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