『さらば愛しきアウトロー』(’18) 紹介動画文字起こし

2020/10/28 ・ 映画 ・ By 秋山俊
『さらば愛しきアウトロー』2018年

『さらば愛しきアウトロー』は日本では2019年公開のクライム映画で、2019年の作品の中ではベスト10に入るくらい、かなり気に入っている作品で。犯罪ものだけど、アクション映画ではなく、生き様映画。何のために生きるのか、ということを考える映画なんじゃないかと。というわけで今回は『さらば愛しきアウトロー』の面白さを紹介します。

フォレスト・タッカーという豪傑

主人公は犯罪者で、銀行強盗を繰り返している人物なんですけど、これは実在の人物のフォレスト・タッカーという人物の伝記的な映画になっていて、映画内では「ほぼ実話」という風に表現されています。

それで、このフォレストという人物はただの銀行強盗ではなくて、生粋の銀行強盗です。どういうことかというと、彼はお金がないから仕方なく強盗に走ったとか、あるいは一気に大金をせしめたいがために銀行強盗するような、そういった外的な実利目的から来る、消極的な理由で強盗をしている男じゃないんですよ。そうではなくて、フォレストは銀行強盗をするために銀行強盗をしている男。もっと言えば、銀行強盗をするために生き続けているような男。

『さらば愛しきアウトロー』2018年

だから例えば、普通の人は宝くじの1等が当たれば銀行強盗する必要はないけど、フォレストは宝くじが当たった翌日でも、当たり前のように銀行強盗に走ってしまうような人間。彼は金があろうとなかろうと、強盗がしたい。

だから彼は、何度逮捕されようと、わざわざ強盗するために脱獄して、また銀行強盗を繰り返すんですよ。この話のすごいところは、この「何度も脱獄と強盗を繰り返していた」というエピソードが、実在したフォレストの本当の話であって、ほぼノンフィクションという部分。映画では16回脱獄したという話になっているんですけど、実話だとさらにすごくて、計18回も脱獄している。しかもその中には、監獄島として有名な、あのアルカトラズからの脱獄も含まれている。彼は脱獄王でもあり、海外ではエスケープ・アーティストと呼ばれます。

だから奇妙な話なんですけど、彼に強盗された銀行の人は、決まって彼が「とても幸せそうに見えた」と表現している。フォレストは強盗している間、幸福なんですね。子供の遠足みたいな。彼には1つのポリシーがあって、強盗はするけど、拳銃は見せかけだけで、実際には弾丸は込めず、決して誰も殺さない。つまり彼は金を強奪しているというだけで、暴力面ではクリーンな犯罪者なんですよ。誰も傷つけないから、彼は幸福そうに犯罪ができる。

『さらば愛しきアウトロー』2018年

非合理な生き方に幸福を見出す

『さらば愛しきアウトロー』という映画は、この豪傑型強盗のフォレストと、彼を追い続ける刑事の対決を描いた物語なんですけど、それである時、彼を逮捕した刑事が、フォレストに対して「もっと他に生き方があるだろう。なぜそんなに脱獄と強盗を繰り返すんだ」と問うたわけですね。それで、ここが本作が「生き様映画」であるところの所以なんですけど、フォレストがそれに対してなんと答えたか。フォレストは「オレは楽に生きたいわけじゃないんだ。楽しく生きたんだ」と答えたんですよ。

これって、効率主義や消費主義の世の中への強烈なアンチテーゼだと思うんですけど、つまり世の中の大多数の人は、「いかに楽して生きるか」ということを年中考えていて、より少ない労力でより大きな富を手に入れられるスマートな人間、言うなれば「軽やかな消費者」になることを理想と考えているじゃないですか。俗に言う「要領よく生きれる」やつがスマートでカッコいいし、素晴らしいと思っている。さもなくば何となく人生が失敗しているような気を抱いてしまう。

『さらば愛しきアウトロー』2018年

一方でフォレストの生き方は、そういった思想と真逆。要領が良い悪いとかそういう次元じゃなくて、逮捕されるたびに全てを捨てて、積み上げてきたものを何度も崩しながら、また一から積み上げるという豪傑的な生き方を実践していて、でも不思議なことに、そういう全てを賭け続ける刹那的な生活を続けて、全てを賭ける行為自体に幸福を見出した時、つまり銀行強盗や警察からの逃亡といった、本来は行為の過程でしかないものが目的と化した時、彼にはもうその結果として得られる金は、半ばどうでもよくなってしまった。

これって無敵の生き方だと思うんですよ。だって強盗自体が目的化しているから、彼が幸福になるのは止めようがない。

フォレストの主体性

つまり、およそ人生の不幸というのは、労働というのがあくまで手段でしかないということにあるわけでしょう。だからまず苦しみながら労働して、さらにその後で幸福を掴むという、二段階のステップを踏む必要があるし、もし労働してお金すら満足に手に入らなかった場合――たとえば自営業とか作家とかは、そういうことがしょっちゅうあるわけですけど――その場合、労働したのに幸福を手に入れる権利すら掴めないということになる。それが貧困というものじゃないですか。

そういうことが頭では分かっていても、じゃあ仕事自体を生きがいにして生きれるかというと、そうは簡単にいかない。なぜなら相当の豪傑肌の人間でない限り、そこまでふっきれて生きることはできないから。どうしても周りの価値観に左右されてしまう。

そういうことから考えると、このフォレストという男のスゴさというのは、彼の揺るぎない主体性にあると言えるわけです。おまえらがどう生きているかは知らんから、と。別に他人からどう見られてもいい。フォレストという男は、実はかつて家庭を持ったのに、自身の強盗人生を生きるために、家庭の幸福すら捨ててしまった男なんですね。別に銀行強盗を推奨しているわけじゃないですよ。でも現代人は、人生を主体的に生き抜いたフォレストという男に学ぶものがあるんじゃないかと思うわけです。

『さらば愛しきアウトロー』2018年

逮捕されるたびに盗んだ金を失って、でもその行為自体に幸福を見出したときに、無敵の世界が広がっていた、というのが「オレは楽に生きたいわけじゃないんだ。楽しく生きたんだ」というセリフの意味だと思います。自己破壊的な活動の中に幸福を見出す、非合理な価値観という点では、何の利益にも殴り合いをすることに救済を見出した『ファイトクラブ』(’99)にも通じるものがある。

ちなみにこの「楽に生きたいわけじゃない」というのは日本語版での意訳で、原文だと、「兄弟、オレはmaking a livingのことを話してるんじゃない、livingのことを話してるんだ」となっています。making a living、つまり生計を建てるための強盗じゃなくて、それはliving、生きることそのものなのだと。これをそのまま日本語訳すると味が出ないところを、日本語訳は意味を汲み取りながら上手く訳してますね。

映画ではその後、フォレストと彼を追う刑事が偶然店で出くわすシーンも挿入されるんですけど、そこでフォレストは少し迷った後に、わざわざ刑事に話しかけに行くんですよ。このシーンで、フォレストは言外に挑発しているわけです。オレはここにいるぞ。さあ追ってこい、と。それがオレの生きがいなんだと主張している。

それで、映画は最終的に、彼の逃走劇に一応の決着がつくんですけど、それで話が終わりじゃなくて。長い逃走劇を終えた後に、生粋の銀行強盗として生き続けた彼が取った行動、というのがあるんですね。これが非常に印象深くて、あぁやっぱりなと。そこが大好きなシーンなんですよ。これは是非、皆さんに自分で確認してもらいたいと思います。

周辺の映画話

それで、ちょっと映画話をするとですね、主人公のフォレストを演じたのはロバート・レッドフォードという有名な俳優で、彼はこの作品が彼の俳優引退作であると公言しているんです。レッドフォードという人は、『明日に向って撃て』という、アメリカン・ニューシネマのめちゃくちゃ有名な作品で主役の1人、サンダンス・キッドとして出演して有名になった人なんですけど、この人物は実在した西部のアウトローで、レッドフォードという俳優は、そのキャリアの始まりから、実在したならず者を演じてきたわけです。

『明日に向って撃て!』

だからレッドフォードが、再び実在したならず者を演じてそのキャリアを終えることによって、彼の俳優人生の始まりと終わりが重なるわけです。日本語のタイトルが『さらば愛しきアウトロー』になっているのは、そのためなんじゃないかと。原題は全然違っていて『老人と銃』というタイトルで、これは明らかにヘミングウェイの『老人と海』にかけてますね。

この作品はどうしても同じ年に公開された、イーストウッドの『運び屋』(’18)とかぶるところが大きくて、比べないわけにはいかないんですけど、個人的には『運び屋』より本作の方が気に入っています。『運び屋』も今まで3回ほど通して観ていて、4Kブルーレイも買ったほどなんですけど、『さらば愛しきアウトロー』はそれをさらに超えてきて……。

どっちの作品も、老齢に達したアウトロー親父が、老人らしい大胆不敵さで犯罪を行うという共通点があって、『さらば愛しきアウトロー』は、さらに全体が非常にスマートなんですね。無駄がない。本当にエッセンシャルな部分だけ描いて、90分でサッと終わってしまう。この歯切れの良さが最高なわけです。

そんなわけで、今回は『さらば愛しきアウトロー』を紹介したんですが、とても良い映画なので、是非観てみてください。以上、文客堂の秋山がお送りいたしました。ありがとうございました。

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投稿: 2020/10/28 ― 更新: 2020/10/29
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