三島由紀夫の考えるベスト映画と映画論

2020/09/18 ・ 映画 ・ By 秋山俊
三島由紀夫(1925-1970)

30歳のときのベスト

三島由紀夫の映画についての言及はかなり多いので、網羅してリストアップするのは難しいのだが、1955年に『小説公園』内の対談で挙げたベスト映画だと

  • 『毒薬と老嬢』
  • 『女だけの都』
  • 『イヴの総て』
  • 『殺人狂時代』
  • 『フィラデルフィア物語』
  • 『ホフマン物語』のヴェニスの場だけ

戦後では『毒薬と老嬢』がベストとしている。ちなみにこの映画は、本国では1944年公開で戦中映画で、日本では1948年に公開された。なお上記のリストは、あくまで三島が死ぬ15年前のものである。

『毒薬と老嬢』(1944)

フランス映画を愛し、イタリア映画は嫌い

各国ごとの評価では、フランス映画を最も好んでおり、これは彼がフランス文学を愛読したことにも通じるかもしれない。

フランス映画がやはり一番好感が持てます。あの情緒はフランス映画でなければ出ませんが、日本人にもピンとくるものなんですね。先日コクトーの『オルフェ』をノースーパーで見ましたが、言葉はわからなくても画面の美しさだけで感激させられました。フランス物に次いでは往年のドイツ・ウーファーのオペレッタ物ですね。リリアン・ハーヴェイのよくやったウイーン物はむしろフランス物よりコクがあって非常に楽しいものでした。

「アサヒ芸能新聞」昭和26年3月18日号

三島由紀夫はコクトーの映画を好んでおり、言及が多い。

また映画化されたラディゲの『肉体の悪魔』には「90点を与えてもいい」「戦後のフランス映画の最上の傑作の1つ」と賞賛。というか三島は多分ただのラディゲ・フリークなので、ラディゲ本人が出演した『狂った年輪』に関して「1,2秒のレイモン・ラディゲの出場だけのために、必見の名作となった」とまで述べている。

ただしフランス映画といっても、ヌーヴェル・ヴァーグやゴダールの映画は好きではないと言っている。

他方、イタリア映画は嫌いだと言っており、名作と名高い『自転車泥棒』をけなしている。

(イタリア映画は)嫌いなんですよ。なぜかというと見え透いていてね。あんなに見え透いたもの芸術じゃないと思うね。そうしてね、ひとつひとつ言えば、あの『自転車泥棒』なんか、父子の義理人情からすぐさま共産主義へ持ってゆく、理論的な飛躍の権に障ること。それから「無法者の掟』の結末の浪花節的なこと。実につまらぬものだと思う。『パイサ』を見たときは非常に面白かった。

「人間」昭和26年5月号

フランスの映画は、露骨な理論的飛躍がない。そこで止めておくから、見る人が理論的に追求して自分のほうへ持ってゆくでしょう。『自転車泥棒』には理論的な押しつけがましさがセンチメンタルの後ろにあるので、一面から質的相違に見えるけれど、センチメントはセンチメント。シモンズが文学論で言ってるけれど、芸術がわれわれに訴える涙ぐましさは猥褻さの効果とあまり変らない。そういう意味での涙脆さにすぎぬ。社会問題なんかは、もっと理論的にイデオロギッシュに考えるべきものですよ。

「人間」昭和26年5月号

近ごろ流行のイタリー物は嫌いです。『戦火のかなた』を見た時は感激しましたが、その後はどれを見てもただ熱狂的で……プリミティブな冷酷なリアリズムは底が浅く、人情浪花節といった感じがします。本質的な惨酷さがないんです。むしろフランスの『しのび泣き』などの方が本質的惨酷さを充分描いていると思います。

「アサヒ芸能新聞」昭和26年3月18日号

イタリア映画の巨匠であるフェデリコ・フェリーニの『甘い生活』についても「『鏡子の家』にあんまりよく似ているので、盗作されたかと思ったくらいである」「ひどくつまらなかった」と述べている。ただしヴィスコンティの『地獄に堕ちた勇者ども』に関しては「生涯忘れがたい」と絶賛している(自決する半年前の言葉なので、深読してしまうが)。

西部劇が好き、日本映画はテンポが遅い

アメリカ映画や日本映画もそれぞれ評価している。アメリカ映画で好きなのは西部劇。またヒッチコックも褒めていて『鳥』を称賛している。日本の監督では、市川崑は贔屓にしていて新作が出るたびに観に行ったそうだが、小津安二郎や黒澤明への言及は全くと言っていいほどない。

アメリカのもので一番面白いのは西部劇だな。あれは手法が単純で、人間を必要以上につっ突かない、その点は羨ましいほど立派なものだと思いますね。

「人間」昭和26年5月号

アメリカ映画は深刻なものでないソフィスティケーテッドストーリィが面白いと思います。『フィラデルフィア物語』とか『結婚五年目』とかは、他国の映画では出せぬ味を持っています。日本映画は近頃大分進歩したようですが、とにかくテムポが遅いですね。シークエンスのうまさは見られるから、もっとスピーディになってもらいたいと思います。

「アサヒ芸能新聞」昭和26年3月18日号

ちなみに石原裕次郎については「ジェームズ・ディーンを日本で換骨奪胎したのが石原裕次郎」と述べている。

三島原作映画のベスト

三島作品は数多く映画化され、特に『潮騒』は異常なほどリメイクされているが、そんな三島映画の中で彼のベストが『炎上』『潮騒』『肉体の学校』である。

『炎上』大映, 1958年

初期のベストには『潮騒』(最初のやつ)を挙げておりロケ地を訪れた記録まで残しているが、その後作られた『炎上』を高く評価しており、三島は市川崑を最大に評価しているので、恐らく生前の三島に訊けば『炎上』を最上に挙げたのではないだろうか。『肉体の学校』については「実にソフィスティケイテッドな作品が生まれた」と賞賛。

逆に中平康が映画化した『美徳のよろめき』に関しては「これ以上の愚劣な映画というものは、ちょっと考えられない」とこき下ろしている。

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投稿: 2020/09/18 ― 更新: 2020/09/28
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