話の通じない蛮族は轢き殺すしかない / 『マッドマックス』(’79)

2020/09/20 ・ 映画 ・ By 秋山俊
『マッドマックス』

『マッドマックス』1作目はシリーズの中でも異端であり、続編に特有の、文明社会崩壊後の砂とガソリンにまみれた世界はまだ生まれていない。文明崩壊前のオーストラリアの田舎町を狂奔する暴走族と、改造パトカーに乗った警官マックスの闘いを描いたカー・アクション映画である。

つまりこの映画、あえて言えば「普通」なのである。舞台はあくまで文明社会であり、そこにはガソリンの争奪もなければ、奇妙な部族の奇体な慣習もない。監督として駆け出しのジョージ・ミラーが作った低予算のリベンジ・バイオレンスでしかない(図1)。それはちょうど、有名ミュージシャンが自身の音楽性を確立する前に出したファースト・アルバムのようなものである。

図1:改造パトカーに乗って暴走族を追跡するマックス(『マッドマックス』)

しかし、では本作に、後のシリーズに通じるものやキラリと光る可能性のようなものがないのかというと、そんなことは全然ないと言っておく。

むしろこの映画は全体の作りが粗っぽく、こなれていない分、シリーズの敵キャラクターが持つ、蛮族的な凶暴さが大っぴらになっていて、その点でひどく豪快である。B級リベンジ映画に特有の、悪党の悪としての純粋さとか、復讐する主人公の過剰な残虐さに溢れていて、洗練された続編にはない生々しさがある。

たとえばストーリーは、「ナイトライダー」を名乗るチンピラがパトカーを奪って暴走する展開から始まるが、この悪党の話の通じないことと言ったら限りがない。「オレはナイトライダーだ!オレは止めらんねぇー!」と叫びながら、ヨダレを飛ばしてひたすらアクセルを踏み続け、何の意味もなく公道に混沌を持ち込み、助手席の女も狂ったようにハイになっている(図2)。こんなやつらに比べたら、野生の熊の方がまだ文明的と言いたいくらいである。

「おれはナイトライダーだ!燃料噴射装置付きの自殺マシーンだ!おれはロックンローラーだ!」(『マッドマックス』)

『マッドマックス』シリーズに共通する、バイクで暴走しながら軟弱な文明人を襲う“モヒカン族”というのは、現代で言えば暴走族であり、そのような蛮族に特有の理解不能性、交渉不能っぷりが、この作品では全開である。

冒頭の暴走ヒゲ野郎はもちろん、途中で襲われる一般人も、主人公の家族があんな眼に遭うのも、理由らしい理由が見当たらない。逮捕してもゲヘヘとラリっているだけで全く埒が明かない。彼らはただ野蛮なのである。しかし野蛮過ぎるがゆえに純粋悪であり、その犯罪はほとんど「自然災害」的な無差別と化す。

この悪の無思想性、あるいは悲劇性の不在は、続編が出るにつれ弱まっていった。2作目には資源争奪という経済的理由が一応存在するし、3作目の悪は思想的に過ぎる。実に、『マッドマックス』の悪党どもは、時間が経つにつれ、悪として「堕落」して「悪を成す理由」を手にしてしまうのである!

「悪を成す理由」を手にした悪は「片一方の正義」でしかなくなる。したがって、続編でのヒューマンガスの死は英雄的であり、ブラスターの死は悲劇である。

ところが『マッドマックス』の悪党が死んでも、つまみの味はいや増すばかりで、これっぽっちも悲劇ではない。主人公マックスも、敵はとにかく交渉不能だからぶっ殺すしかないという状態で、後腐れが全然ない(図3)。このあまりにストレートな闘争の構図は『ロボコップ』(’87)に通じるものがある。

『マッドマックス』に特有の味とは、このような原始の野蛮にあると言えるだろう。

図3:とにかく暴走し続ける敵との闘いが続く(『マッドマックス』)

他にも、暴走族が壊したマネキンを後生大事に運搬していたりとか、ジョージ・ミラー作品に特有の意味不明なこだわりも随所に見られるのもポイント。それとこの映画は、90分経ったところで唐突に終わってしまい、投げ出された呆然とした感じがするのが良い。

スタントする人間のロープが丸見えだったり、カット割りが不自然だったりと、チャチなところもあるが、70年代のグラインドハウス映画的な復讐モノの醍醐味が詰まっている作品である。

満足度:7/10

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『マッドマックス』シリーズでは、やはり2作目と4作目が傑作。他に、同時代の暴走系のカーアクション映画としては『バニシング・ポイント』(’71)は「理由なき暴走」という点で、どこか通じるものがあるかもしれない。

この映画では暴走する側は主人公であり、つまらない理由から、国家権力の追跡を振り切って走り続けることになり、大した理由はないがアクセルを踏み続けるのだという「はた迷惑な『走れメロス』」とでも呼ぶべき内容である。

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投稿: 2020/09/20 ― 更新: 2020/09/21
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