『かぐや様は告らせたい』17巻の伊井野ポエム解読

赤坂アカ『かぐや様は告らせたい』17巻, 集英社, 2020年

最近の話のクオリティのバラツキが激しくなっている感じはする。13巻くらいまではかなり安定している印象だったのだが、告白のあたりから路線がまた変わってきているし、ネタ的にも再生産的な話が目立ってきた。

個人的には17巻は前半の筋トレの話までは楽しめたが、その後の話がイマイチ。週刊連載でギャグをやり続けるのも苦しいと思うのだが、まだまだ面白い回は存在するので、アニメ第二期終了までは持ちこたえてほしい。ヒット作を生み出したら、『インスタントバレット』をまた描くと言ってたじゃないか!

文学トークの回

さて、17巻の中で私が一番楽しめた回は第165話「先輩くんと後輩ちゃん①」の、伊井野ミコと白銀が生徒会室で二人っきりになる話である。この話で私が面白いと思うのは

  • 新しい“あるある”シチュエーションで、初期のような“心理戦”を白銀が繰り広げる点
  • 文学トークに存在する微妙な距離感や探り合いがリアルな点

こういった点。

いやはや、今の時代に他人と文学トークするのって難しいのである。そもそも文学読んでいる人が少ない。作家の数もあまりにも多いので、メジャーな作家以外だと話が噛み合いにくい。私は先日、国文学の人と文学トークを交えてきたが、私の方はフランス文学の人間なので、お互いの専門に踏み込むと、やはり話がよく分からなかった。結局、主としてお互いに受講していた講義の話題になった。

あとこの回だと村上春樹にサラッと言及しているが、村上春樹は好き嫌いが激しく分かれるので、あまり親しくない人の前で評価を交換するのは結構気を使う。これは他人と『ワンピース』の意見交換するシビアさにちょっと近い(お互いの評価が両極端だとちょっと気まずい)。

伊井野ミコの詩に、白銀はどう応じるべきだったのか

で、話は伊井野が自作の詩集を作っていることをカミングアウトする方向へ向かうのだが、これが話題としてはかなりシビア(下図)。

図:『かぐや様は告らせたい』17巻

はっきり言って、こういう場で素人が出す自作の小説や詩というのは、十中八九つまらない。あなたも白銀のように、発表された内容があまりにもコメントしようがなくて困った経験がないだろうか。発表者にある、自作を読んでもらいたい気持ちは分かるのだが、こういうのは自爆テロに繋がりやすいので、相手を極めて慎重に見極める必要がある。

事実、秀才白銀も「素敵だな」という逃げに走るしかなかったし、その後も適当な感想をデタラメに述べて有耶無耶になってしまった。しかしここで妥協してはいけない!ここでは私が白銀の立場に立って、彼がどうレスポンスするべきだったのかを考えてみたい。

伊井野ミコの詩の意味を読み解く

伊井野の最初の詩は、以下のようなものである。

星がきらめく
トゥインク、トゥインク
流れ星がウィンク

あの星と私はきっと双子
時代を超えて百光年の彼方
誰の願いも叶えない流れ星
心臓の音と一緒に消えてゆく
きらめきと共に消えてゆく
ただ意味もなく流れていく
私と一緒

きっと天の川は願いの墓場
空に浮かべた誰かの祈り

トゥインク、トゥインク
今日も少女は流れ星に願う

『かぐや様は告らせたい』17巻

この詩を聞いた直後、「素敵だな」と迂闊な即レスをしてしまっているのが、まずいけませんね白銀クン。詩というものは創作者の心境や状況の暗号文なのだから、一回聞いただけで即結論が出るようなものではないのですよ。それに「良いね」みたいなふわふわした感想を創作者は求めてないので、この後追撃されてしまうのは当然なのです。

だからまずは伊井野から詩集を取り上げて「じっくり読ませてくれ」とでも言うのが無難な戦略。そうして読み解いて感想を作ればいいのです。

さて、それで詩の意味解釈に入っていくと、まず「トゥインク、トゥインク。流れ星がウィンク」などの攻め過ぎた部分はスルーして、できるだけ客観的な情報を拾って丁寧にまとめるのが手堅いのではないでしょうか。

この詩で面白いのは、前半部分が「女の子が流れ星を見て浸るメルヘン」みたいになっているのに、後半になると急に「消えてゆく」「私と一緒」「心臓の音」「墓場」など、死のイメージが重ねられる点ですね。描写からいって、これは病院で死を待つ女の子が、流れ星を見ながら詠んだ詩のような感じがプンプンします。個人的にはその辺が直截過ぎて物足りないのですが。

フレーズで1つ選ぶなら「きっと天の川は願いの墓場」です。これは「天の川」というメルヘンチックな対象を「墓場」と言い表しているのが面白い。伊井野さんのユニークな表現が光ってますね。こういう具体的な部分を、理由をつけて褒めれば「ちゃんと鑑賞してくれているな」という感じが出て、印象が良いでしょう。

私のマジレス

そんなわけで、もし私が白銀クンだったら、以下のように返答しましたね。

「そうだな。まずこの少女は病気かなにかで、毎日死が近づいていることを感じているんじゃないのか。多分夜中に怖くなって、病院の窓から流れ星を見ていたのかもしれないな。最初にかわいい感じで始まっているのに、途中から死や絶望のイメージが湧いてくるから、ドキッとするよな。オレが特に印象的だと思ったのは“きっと天の川は願いの墓場”ってフレーズだな。天の川を“願いの墓場”って裏返して表現してるのが、意外性あって面白いよ。これだけ儚いイメージが並べられているのに、それでも“今日も少女は流れ星に願う”で終わるのが、やるせなくて、余韻を残してるよなぁ……」

女の子に対して述べる感想としては理屈っぽいですが、白銀クンたちは学年1位の秀才キャラなので、まあ問題ないでしょう。

17巻の満足度:6/10

蛇足:17巻カバー裏の心理テストは完全なトラップ!

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投稿日時: 2020/01/26
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