ヤマザキマリ『スティーブ・ジョブズ』1巻, 講談社, 2013年

伝記としては大変良く出来ている。

ただこれが「マンガとして特別な何かがあるか」というと、それは別の話。少し大きな主題を掲げると、マンガという形態に固有のもの、ヤマザキマリという作家ならではの表現が欠落していると思うのである。そうした時にこれは単なる“有名作家が手間をかけて作った「まんが偉人伝」”になってしまうのではないか。というか、事実その通りなのかもしれない。「原作:ウォルター・アイザックソン」って書いてあるし。

当初ヤマザキマリにはジョブズに対する特別な思い入れはなく、この企画は流行作家がタイムリーな話題をマンガ化したということになるのだが、その割には取材はしっかりしている。例えばジョブズとウォズの「いたずら」に関するエピソードなどは面白く読める(図1)。

図1:『スティーブ・ジョブズ』1巻

だから別に私は「駄作だ」と貶してるわけではないし、下手に濫造されているジョブズ本を読むより、よほどオススメと言っていい。そもそも私はこの作品、全巻買ったのだ。

ただヤマザキマリという作家に期待される何か、繰り返し読み返しなくなる何かをこの作品が持っているかというと、残念ながらあまりないと思う。ヤマザキマリでなくとも描けるのではないかと感じてしまうのだ。

図2:うめ, 松永肇一 『スティーブズ』1巻, 小学館, 2014年

そういう点では、ある意味、ヤマザキマリ版へのアンチテーゼではないかとすら思える『スティーブズ』(うめ著)の方が、遙かにマンガらしいマンガだし、作家性が存分に発揮されていてユニークだと感じる(図2)。徹底的に無難な「伝記」がヤマザキマリ版、賛否の分かれる突き抜けた「作品」がうめ版である。

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投稿日時: 2019/09/22 ― 最終更新: 2019/09/24
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