図1:高瀬志帆『二月の勝者』5巻, 小学館, 2019年

『二月の勝者』で、見下した相手に対し徹底的に「ゴミ」で修飾した言葉責めを展開する、通称「ゴミ活用」の達人である人間リサイクルマシーン・島津くんが(前置きが長い)上杉くんの算数のゴミっぷりを見下していた(図1)。

島津くんは、夏季合宿でも計算勝負で桜花トップクラスであることを証明した秀才であり、彼は上杉くんの弱点を一瞥で見抜いてしまう――「こいつの算数はゴミのように無駄だらけ!」。

上杉くんの弱点は、定型的な数列を「ゴリ押し」で解いてしまうことである。私は、既に慣れ親しんだ基本計算のゴリ押しにより、多様な「数」に対処しようとする姿勢は、算数(数学)に苦手意識を持つ大多数の学生が犯しているミスであると推測している。

「数」への対処の話題は4巻にも出ていた(図2)。

図2:高瀬志帆『二月の勝者』5巻, 小学館, 2019年

これはWindowsで言えばコピー&ペーストを「Ctrlキー + C, V」ではなく、毎回「右クリックして選択」して実行しているようなもんである。そして「パソコン苦手」と自称する人ほどショートカットキーを使わないのも共通である。

つまり「それ自体に苦手意識があるから、新しいことを覚えない」 -> 「効率の良いやり方を覚えないから効率が上がらず、余計苦手意識が強まる」というネガティブ・フィードバックが発生しているのである。

『ドラゴン桜』の数学講師・柳 も次のような至言を残している。

「そもそも人はなぜ数学を嫌いになるのか。理由はたった一つ。それは… 計算が遅いから!」

三田紀房『ドラゴン桜』14巻

効率の良い計算方法を知らないと、こういった基本的な部分で毎回「ガチで」計算してしまい、速度が低下する上にミスも多くなる。

この手のテクニックというのは、探せば無数に存在すると思うし、結構奥深いものだ。厄介なことにゴリ押しでも何となるので、自分が「損をしている」という自覚症状を抱きにくい。中学・高校受験ならまだ教えてくれるが、大学受験レベルだと当然の前提とされているため参考書などでもスルーされており、ずっと計算苦手な人は一度この手のテクニックや知識を見直した方がいいと思う。

やり方を変えるのに必要なのは、一時の勇気である。慣れないうちは、むしろ時間がかかってしまうが、慣れれば確実にレベルアップできる。「今この瞬間の計算が遅くなってもいいから、将来のスキルに投資する」という気持ちで、積極的に新方式を採用するのである。作中でも黒木が次のように述べている。

計算の小テストで私が先日教えたテクニックをすぐ活用してくれました。簡単なようでいて、子どもが今までのやり方を変えるのは勇気のいることです。

『二月の勝者』4巻

新しい方式の導入というのは、どんな分野でも億劫なものだ。しかしそれをやらないと、私の母のようになってしまう。ひたすら右クリックを繰り返して操作し続けるのが、私の母である。

「数」に慣れ親しんでいると、黒木が教えたような平方数の計算が、むしろ楽しくなってくる。平方数や立方数に対して「美しい」という感覚が備わってくる。

例えば2のべき乗である32や256などは、何度も出会う中で、一種の秩序すら感じさせる美しい数であると思えてくる。RPGなどが好きな人は65536という数字にも親しみを覚えるだろう(16bit符号なし整数で表すことのできる一番大きな数字であり、ゲームのダメージ値などが0から数えて65535でカンスト・ループするものが多い)。こういった「数」への親しみの深さが、計算能力の基礎となっている。

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投稿日時: 2019/07/10 ― 最終更新: 2019/11/15
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