図1:高瀬志帆『二月の勝者』3巻, 小学館, 2018年

子供は裏切ります。言うことを真に受けてはいけません。

『二月の勝者』3巻

私には未だによく分からないのである。幼いときに何故あんなに安直に「将来の夢はxxxx!」と言うことができたのか……。だから『二月の勝者』で「子供の夢を真に受けるな」という言葉が出てきたとき(図1)、私はドキリとしてしまった。

数年前、ラグビー日本チームが大活躍を見せた。一時的に突風のようなラグビーブームが日本列島に吹き荒れ、その時活躍した五郎丸選手のことを人々は覚えているだろう。あの時期、あるタイプの子供たちをTVで何度か見かけた。「将来の夢はラグビー選手!」「五郎丸にオレはなる」……そう言って憚らなかった子供たち。

ハッキリ言って、彼らの大半は既にラグビー選手など目指してないだろう。子供の語る「夢」というのは、そ~言うモノなのである。ビョーキなのである。急性疾患なのである。ハシカなのである。だからこそ「将来の夢は宇宙飛行士」だった灰谷は、現在フェニックスの講師をしているのだ(図2)。

図2:『二月の勝者』3巻

以下の灰谷の意見は、かなりの部分真実であると思う。

「大は小を兼ねる」のごとく、高ランクの大学に進学することは、職業選択の幅が広がるということ。成長につれ夢の形も変わることを見込めば当然、トップランク大学を目指す仲間のいる、トップ中学を目指すべきです。

『二月の勝者』3巻

夢なんて叶えられるのは、ほんの一握り。だから、せめていろんな職業を選べる高い学歴を、子ども達に与えてあげるべきなんです…!

『二月の勝者』3巻

日本の学歴社会は「上位にいるものほど自由とアドバンテージが与えられる」という構造になっている。「これだけの実績を積んでるから、自由にさせても結果を残すだろう」「こいつには任せても大丈夫だろう」。言うなれば上位には信頼がある。

例えば校風に関しても、麻布など、上位の進学校ほど「自由の校風」で知られる(麻布の禁止事項は「下駄で登校してはいけない」だけ)。大抵のことを始める際、高学歴ほど選択の幅が広く、信頼も得られて有利に事を進めていくことができる。「学歴は万能の肩書」なのである(学歴が関係ない職業についても「有名なxx大学出てるのにyyしてる人」と珍しい存在になれる)。

ここで面白い事実を紹介しよう。日本の学歴社会の頂点と言えば東大だが、実はピラミッド構造の頂点にある東大内部にもこのような「上位ほど自由が与えられる」という小構造が隠されている。東大は2年生になってから専攻を選ぶ「進振り」という特殊な制度を持っており、一般的に文系トップの文一は法学部、理系トップの理三は医学部コースと言われている。

しかし実は文一は「文系学部のどこにでも行きやすい」科類であり、理三は「理系学部のどこにでも行きやすい」科類というのが真実である。どこにでも行きやすいので、法学部や医学部にも楽に行けるのだ。一方、文三は「文学部・教養学部コース」と言われているが、なんと教養学部に行くのは文一の方が楽なのだ!つまり入学難度の高い科類は、「上位互換」のようなものなのである(もちろん内情はもっと複雑で、必ずしもそうはならないが、全体として選択肢が豊富なのは確か)。

私の知り合いの文三生は、本当は法学部志望だったにも関わらず、安全重視で文三を受けて、法学部進学に失敗した。文一からの進学者は定員割れしていて誰でも入れるのに……。彼は言う「願書を提出した過去の自分に、無理をしてでも文一に出しておけと言ってやりたい」。将来の選択肢を確保するというのは、そういうことである。

マンガの記事一覧

LINEで送る
Pocket

投稿日時: 2019/07/22 ― 最終更新: 2019/08/26
同じテーマの記事を探す