鳥山明『ドラゴンボール』カラー版 セル編1, 集英社

私のサイトの『ドラゴンボール』の記事を読んだ方はお気づきのように、私はここ数年はカラー版を主に読んでおり、サイトで引用する際にもカラー版から画像を引っ張ってきている。しかしカラー版が登場した直後、実は私はその存在にかなり反発していた「モノクロ原理主義者」だったのである。

「本来がモノクロである日本のマンガをカラーで読むなど邪道である!マンガはオリジナルのモノクロ版で読むに限る!」

私が許せなかった点は、作画を担当した作者とは別の人間がカラーリングを行っていることだった。「作品は作者のものであり、他人が手を加えたものは聖典になり得ない」と信じていた私にとって、カラーリングは一種の「二次創作」にも近い改変のように感じられたのだ。

思えば手塚治虫も生前に「白黒映画への郷愁」という映画コラムの中で、自身が熱烈なモノクロ原理主義者であることを述べていた。

ぼくは、映画は白黒がいちばんベストだと今でも思っている。

手塚治虫 「白黒映画への郷愁」(『手塚治虫映画エッセイ集成』立東舎より)

いちばんベスト、すなわちベスト・オブ・ベストであると、マンガの神様もおっしゃっていたのだ。そして当時巻き起こっていた、コンピュータによる白黒映画のカラー化に強く反対していた。

白黒作品をカラーにするのは、やっぱり冒涜なんだ。

「白黒映画への郷愁」

イギリス人オタクの反論

時を移して2015年、当時私は受験勉強をしていたが、独学のままでは英作文の添削をしてもらえないので、ネットで知り合ったネイティブに、英語で書いたナンセンス小説を送って添削してもらっていた(代わりに私は彼の日本語を添削した)。彼はアイルランド系のイギリス人で、私と交流するようになったのは、彼が結構なマンガオタクだったからであり、私達はチャットやスカイプも交えてマンガトークする仲になっていた。

ところがある時、彼は私に「ねぇ、ジョジョのカラー版ってどうなの?」と質問してきたのである……これだから外国人は!何がいちばんベストなのか教えてやらねば!私は「マンガというものは、そもそもモノクロであり……」と講釈を垂れた。しかし彼はキョトンとした感じでこう反論してきたのだ。

「いやでもさ、君だってアメコミやブリティッシュ・コミック読むじゃない?アメコミってカラーだけど、絵を描く作業はラインとかカラーリングとか、みんな担当が分かれてるよ?それでもフツーに読むでショ?別に線を引いてる人と色塗ってる人が別々だからって、絵がおかしくなるわけじゃないヨ」(画像はAIが自動生成したイメージです)

確かに!アメコミだとそれが当たり前だと思っていて、特に気に留めてなかったが、ペンシラー・インカー・カラリストなどに分かれて複数人で絵を描いている。そう考えるとジャンプのカラー版コミックも「アメコミ方式」だと思って読めば、問題ないんじゃ……。ていうかそもそも、日本のマンガだってアシスタントがかなりの部分を担当しているし、作品によっては顔以外アシが描いてるなんて話も聞くし……。あんまり「作者本人が担当していないもの以外認めない!」と拘っても意味ない気がしてきた。

作品によってカラー版が良いかは異なる

これ以外にも、例えば『ドラゴンボール』のカラー版に関しては、以下のようなカラー版の品質を担保する要素が存在した。

  • 全編アニメ化済みなので、既にカラーリングが定まっている
  • 私自身がアニメ版を観て育ったので違和感がない
  • 鳥山明の絵はシンプルなのでカラーが乗りやすい

下図のようなカラー版のカットを見ても、素直に「かっけー」としか思えない。むしろ鳥山の絵が、カラーによってさらに活きている。

図1:『ドラゴンボール』カラー版 魔人ブウ編 5

一方、作品によってはカラーにあまり向かないものもある。これはサンプルを見てみればわかるが、例えば『ハンターハンター』カラー版は、違和感を覚える人が多いと思う。富樫の絵がカラーを前提とせず、あまり着色に向かないタッチで、カラーにするとのっぺりしてしまう。また個人的な好き嫌いを言えば、どうもキメラアントたちのカラーリングには拒絶反応が出る(図2)。これがカラー前提に作られたアメコミとの大きな違いである。

図2:冨樫義博『HUNTER×HUNTER』カラー版 29, 集英社

カラー版のもう1つの欠点は、基本的に電子書籍でしか出ていないことである。実は私は自分でスキャンして自炊している人間なので、特定の企業やビューアに縛られる電子版の購入には些か抵抗がある(自炊する理由の1つは、DRMやビューア制限から完全に自由であること)。キンドルで買えばKindle Readerを使わねばならず、使い勝手やサポート体制を勘案してどこで購入するかも悩ましい点である。このことへの抵抗が強い人や、全巻新品価格以上で買い直すのが嫌な人も、カラー版には縁がないだろう。

しかし『ドラゴンボール』は今後何十年にもわたり読み続けること確実のバイブルであり、投資するだけの価値があると判断した。そう思ったとき、私は迷うことなくカラー版の『ドラゴンボール』全巻を大人買いしていたのだ。

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投稿日時: 2019/08/15 ― 最終更新: 2019/09/14
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