吉本浩二『ルーザーズ』3巻, 双葉社, 2019年

2019年4月にモンキー・パンチの訃報が飛び込んできたとき、真っ先に心配したのが、彼を主要人物の1人に据えた漫画家マンガ『ルーザーズ』のことだった。 完結巻となった3巻のあとがきによれば、この時既に最終話の執筆に取り掛かっていたようなので、マンガ制作に支障は及ばなかったと思うが、それにしても本作がモンキー・パンチへのレクイエムのようになってしまったことには驚きを隠せない。このマンガの完結するまでのわずかな期間に関係者が3名亡くなっていたようで、そうなると絶妙なタイミングで出るべくした出たマンガということになる。

異様に長くて地味なタイトル

『ルーザーズ』は良い作品だったが、話題性では今ひとつだった。吉本浩二の出世作となった『ブラックジャック創作秘話』(’09-14)に比べると全然である。一応今回も「このマンガがすごい!」で7位に選出されるというブーストがあったものの伸び切らず。出版社としては二匹目のドジョウを狙いつつ、自社のブランド価値を高める戦略があったのだと思うが、如何せん題材が「手塚治虫」に対し「漫画アクション」では地味過ぎた。また副題が「日本初の週刊青年漫画誌の誕生」というのも、誠実ではあるが、無理してる感が否めなかった。「日本初の青年漫画誌」ではないのである。そっちは芳文社の『コミックmagazine』が達成したと作中でも描かれている(図1)。

図2:吉本浩二『ルーザーズ』1巻, 双葉社, 2018年

『ルーザーズ ~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~』この異常に長くて地味なタイトルを見て、多くの読者はこう思うだろう。「なぜ『ルパン三世』をタイトルに挿れなかったんだ!」。しかし3巻のあとがきを読むと、『ルーザーズ』というタイトルには吉本浩二の作家としてのこだわりが見られる。

『ルーザーズ』は清水文人の人物伝

『ルーザーズ』3巻

でも、いくら取材を重ねても、なかなか作品のテーマがつかめず…。悩んでた頃に双葉社OB豊田浩明さんの取材がありました。
「僕もそうだったけど、双葉社に入りたくて入った者は誰もいないんだよ。全員大手に落ちて双葉社しか入るとこなくてね。漫画も全くやりたくなかった。文人さんも…」

『ルーザーズ』3巻あとがき

吉本は彼らのこのような体験を、会社を1年で辞めて「負け犬」となった末に漫画家としてヒットを飛ばした自らに重ね合わせ、タイトルとテーマを決めたという。『ルーザーズ』、つまり大手各社の面接に落とされて渋々双葉社に入った者たちが革命を起こす、という話だ。

さらに作品自体がそもそも、『漫画アクション』創刊50周年を記念しての「自社伝」として企画されたことも書かれている。

図2:『ルーザーズ』1巻

以上のことを考えると、『ルーザーズ』はあくまで『漫画アクション』編集部の物語、特に清水文人の伝記であり(図2)、モンキー・パンチの立場は主役の懐刀のようなポジションとなる。だから『ルーザーズ』には『ルパン三世』を前面に出すようなタイトルがついていないのだ。もし『ルパン三世』の文字が含まれれば、このマンガは一気にモンキー・パンチの伝記へと変貌してしまう恐れがあった。

まあそれにしても、吉本浩二は実直だな、という感想も抱いた。「日本初の青年漫画誌を出したのはどこか」 という議論も、話の流れで誤魔化そうと思えば誤魔化せたはずだ。作品としての話題性を重視すれば、『ブラックジャック創作秘話』のときと同じように、もっと人目を引くキーワードを挿れることもできたはずだ。しかし、吉本はそれをしなかった。そんな吉本だからこそ、丹念な取材を元にした『ルーザーズ』という伝記マンガを描けたのだ。

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投稿日時: 2019/08/07
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