ダーブラはオンリーワンな存在だと全力で語らせていただきたい

図1:鳥山明『ドラゴンボール』カラー版 魔人ブウ編3, 集英社, 2013年

ダーブラ(図1)はかつて、魔人ブウ編において不当に低い評価を受けていた。悟空の「セルくらいの強さ」発言(後にやや上昇修正) が示す通り、その役割はもっぱらセル編からブウ編へのパワーバランスの変化を明示するための橋渡し的存在であり「悟飯は強くなってませんよ」「魔人ブウの手にかかればセルくらい瞬殺ですよ」といったことを示すための、悪く言えば「噛ませ犬」のポジションに過ぎないと見なされていた。

しかし注意深くそのキャラクター性を分析すると、極めて特異な人物であり、ユニークな性質を備えた、ドラゴンボール正史の研究が煮詰まってきた現在においてもまだまだ掘り残された鉱山であることが分かる。ここでは、そんなダーブラを再評価するための論を掲載する。

ダーブラはオリジナル

『ドラゴンボール』界においては、ヤムチャやクリリンがかめはめ波をパクった辺りから技のレパートリーのインフレ・共有化が始まり、「かめはめ波」「気円斬」「太陽拳」あたりの技(類似の技含む)は、『ドラクエ 5』におけるベホマと同じくらい、主要人物の標準装備品となってしまった。セル編以降はラスボスが登場人物の技をほぼ完コピしている状態となり、お互いにかめはめ波と瞬間移動を飛ばし合う「無個性の時代」が訪れることとなる。

ところがダーブラの技は全てオリジナルであり、バラエティ豊かな個性的闘法の数々は誰にも真似されていない。癖のある軌道で放たれる火炎放射(図2)や火炎弾、武器召喚、そして代名詞とも言える石化させるツバなど、華麗な魔術を披露した。

図2:『ドラゴンボール』カラー版 魔人ブウ編3

ダーブラはアンチ・インフレ

実は「『ドラゴンボール』はなぜインフレ化したのか」という議論において、以前から「人物に弱点がなくなってしまったからである」という指摘がなされていた(例:悟空のシッポ)。それと同時に技の共有化が進み、結局のところ残るはパワー比べになってしまったのが大きいだろう(セル編で顕著)。

ところがダーブラのツバは、触れれば石化という「即死技」であり、単純なパワー勝負だった世界に新たな緊張感を付与している。悟飯 vs ダーブラの勝負で、悟飯がスキを突かれて石になってしまうのかとハラハラした人は多いだろう。実際、ダーブラとの対面では誰もが即死の危険性があり「力量差があれば基本的に敗けない」世界に一石を投じている。

ブウにあっけなく敗れ去ったダーブラだが、実はブウの天敵となり得たのはダーブラだけである。石化攻撃を受けたブウが再生可能だとは思えない。ダーブラは槍を投げる際に先端にツバをつけるか、しばらく隠れてベジータの自爆に乗じてツバを撒き散らすべきだった。実に、彼は宇宙の救世主になり得る資質を有していたのである。

ダーブラはアブラカタブラ

ダーブラという人物は、冷静に考えると正体不明である。まず登場した直後、その姿を見た界王神に「なにしろ暗黒魔界の王ですから…」と言わしめ、さりげなくDB世界の地平を大幅に拡張してしまった(図3)。

図3:『ドラゴンボール』カラー版 魔人ブウ編3

これは現実世界で言うなら地動説の承認、あるいは宇宙のグレートウォール観測に匹敵する世界観の地殻変動であり、存在そのものがDB世界の根幹を揺るがしている。我々はもはや「ダーブラ以前」に戻れることは許されないのだ。暗黒魔界とは何か。王ということは君主制を敷いた国が存在するのか、あるいはただの比喩表現なのか。ダーブラがクッキーと化したことによって、その謎は永遠に謎のままである(少なくとも原作では)。

ダーブラは無拍子

ダーブラは少ない出番ながらビジュアル的に完成されており、個性的な顔立ち、「其之四百五十二 ダーブラ登場!!」の扉絵にも表れる躍動感溢れるポージングなど、印象的な絵が多い。

私が取り分けダーブラの魅力が溢れている瞬間として推すのは、巨大な剣を召喚して悟飯に斬りつける場面である。このシーンでは惜しくも白刃取りされて防がれるが、悟飯を大変に焦らせている。注目すべきはそのモーションの小ささで、「パッパラパー」のような呪文もなく、しかも手を振り上げたまま、いきなり剣を握っている(図4)。

図4:『ドラゴンボール』カラー版 魔人ブウ編3

この場面だけで

  • 攻撃動作を続けながら魔術を放っている
  • 恐らく詠唱や予備動作を破棄、あるいは他の動作に紛れさせて魔術を実行している
  • ノーモーションで斬撃に移行している(素手と思ってるといきなりリーチが伸びる)

といった高度な戦闘技術を当たり前のように披露しており、悟飯に対し複合技術を駆使して襲いかかっていることが分かる。このようなさり気ない描写だけでも「こいつ、王だ」と納得させるだけの貫禄を持つ戦慄の悪魔貴族、それがダーブラなのである。

ダーブラ忠臣之助

戦闘描写ばかりが注目されるダーブラだが、散り際に見せたバビディへの見事な忠義も見逃してはならない。彼は主の史上目的に対し、命を賭して諫言をする(図5)。

図5:『ドラゴンボール』カラー版 魔人ブウ編4, 集英社, 2013年

このような忠義の在り方こそ誠の家臣の姿であることは、古代中国の文献にも繰り返し記されている。すなわち、どんなに主君が暗君・愚君であったとしても、家臣は私利を捨てて最も適切な助言を与えなければならないのである。

不幸なことに、バビディがとんでもない愚君であったためにこの発言はスルーされ、ダーブラは討ち死にと相成ったが、彼の諫言が真実を突いていたことは後に証明される。そして洗脳されているとは言え、このような家臣の鑑たる姿勢を見せたということは、ダーブラが主君と家臣の理想の関係性を古典などからよく学んでいた、教養ある人物であった可能性を示している。彼が文字通り暗黒魔界の王として君臨していたとしたなら、彼は暴君であると同時に賢君でもあったに違いなく、暗黒魔界の民に広く畏怖される存在であったに違いないのである。

これほどのポテンシャルを感じさせるダーブラという人物は、同じくストーリーの移行期に出てきたコルド大王などとは、存在の重みが全く異なる。今後もさらなる研究や掘り下げが期待されるキャラクターと言えよう。

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投稿日時: 2019/05/22 ― 最終更新: 2019/12/01
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