『惑星のさみだれ』(’05-10) / 世界の在り方を決めるのは自己の認識である

あんなんに地球は壊させへん!!
なぜならこの地球を砕くんは、私の拳やからじゃーーーっ!!

『惑星のさみだれ』1巻, p47-48

ある日、地球を打ち砕かんとする魔法使いとの戦いに巻き込まれ、特殊な力を授かった主人公が、同じく巨大な力を手にした16歳の少女を「姫」と認識し、忠誠を誓い戦う。戦いが終わった後に病で死ぬ運命を背負った「姫」と共に、力を失う前に、自分たちの手で地球を破壊し心中する野望を胸に秘めながら。

連載開始当初から読んでいながら、長い間遠ざけてきた作品だった。大学生の男が16歳の少女にかしずき「御意」と言ってしまう主従関係、「獣の騎士団」「勇者の剣(クサカベ)」といったワードセンスが、どうにも強烈にオタクっぽくて馴染めなかった(図1)。

図1:水上悟志『惑星のさみだれ』4巻, p.3, 少年画報社, 2007年

しかし連載終了してから改めて読み直すと、水上悟志の打ち出すテーマや問いかけの明解さ、登場人物らがそれぞれの立場から「大人になるとは何か」についての考えを表明するメッセージの多面性などが、読者に自らの答えを紡ぎ出すことを促す、繰り返し読むに値する作品であると思えた。そもそもこの作品を再読しようと思ったのも、作中の印象的なシーンが折りに触れ記憶に蘇ってきていたからだった。

選ばれし12人の指輪の騎士たちは「掌握領域」という一種の念動力を武器として戦う。この能力は「使用者の創造力のメタファー」となっており、この物語が「何の戦いであるか」を示唆する重要な要素である。

例えば本作の主人公・雨宮の掌握領域は、最初は単に空間の一点に障害物を発生させるだけで、足場にして空中に上ったり敵を躓かせるくらいしか利用方法がない。主人公もそういう能力だとしか説明を受けないし、物語の序盤は「とんでもなく貧弱な能力を駆使して強敵を倒す」タイプの頭脳型能力バトルの様相を呈する。

ところが物語の途中で雨宮は気づく。「掌握領域とは、自分たちに力を授けた神の如き存在の持つ超能力と、実は同種の力ではないか?」と(図2)。能力は固定されたものではない。障害物にしかならないのは、単に雨宮が能力をそのように認識しているが故である。このような主人公の「認識の再構築」「創造力の拡大」に伴い、掌握領域はその性質を大きく変化させていく。

図2:『惑星のさみだれ』5巻, p.64, 2008年

実は作中で「超能力(掌握領域)とは何か」という問いに対して、あまり直截な説明は最後まで与えられない。しかし超能力を「デタラメでテキトー」なものだと認識する「姫」の考えに基づけば、この世界の超能力とは「宇宙の法則を書き換える汎用的な改竄能力」みたいなものであり、その力の源泉は、あまねく人間が所有する創造力や認識力である。「客観的な宇宙」を「主観的な認識」で歪めるのが超能力であるとすれば、仮想現実の世界で戦いを繰り広げる『マトリックス』(’99)と同様に、主人公らにとってこの宇宙は一種のバーチャルな現実として存在し、戦いは次第に「自分がどこまで解放された認識を持てるか」という認識力の応酬と化す。

雨宮にとって手本となる存在として、古武術の達人である東雲半月(しののめはんげつ)がいる。彼自身も能力者ではあるが、能力獲得以前から認識の限界を突破して超人的な格闘術を身に着けてしまった「天才」であり、ある意味では「天然の超能力者」と言えなくもない。

彼が雨宮に放つ「天才の定義」は、そのまま「認識の拡大とは何か」を物語る。彼にとって天才とは「無限の肯定」なのだという(図3)。

図3:『惑星のさみだれ』8巻, p.76

天才とは!! 無限の肯定!!
“ラッキーパンチを千回決めるすげー自分”の直感を!! ありえねーと否定せずそれもアリだと千回肯定する者!!
直感を肯定する内、神業を千回実現するすげー自分!!
それが天才!! 技なんかオマケ!!

『惑星のさみだれ』8巻, p.75-76

先程例に出した『マトリックス』でも同様の哲学が語られていて、どうしても技の速度で追いつけない主人公にモーフィアスが「速く動こうと思うな。速いと知れ」と助言する場面がある。「思う」のではなく「知る」ことが「無限の肯定」なのだろう。

生身の状態でも超能力的な認識の超克を果たしている半月は、「特別な存在」である指輪の騎士たちから「普通の人間」への橋渡し的な存在でもある。それはつまり、現実的な存在である我々もまた、認識の超克によって、自分の見ている世界を書き換えることができるとの示唆であると思うのだ。水上悟志は、そういった思想を物語に乗せて描写するのが実に上手い。

「自己」「自己とは」
「何でもいいんだ」「何でも良かったんだ」

『惑星のさみだれ』8巻, p.157

こういう観念、たまらなく好きなのだ。

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投稿日時: 2019/04/26 ― 最終更新: 2019/05/05
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