投稿日時:2019/04/13 ― 最終更新:2019/04/17
図1:逆転負けを悟った瞬間の土屋(鍋倉夫『リボーンの棋士』27話, 小学館, 週刊ビッグコミックスピリッツ 2019年15号)

『リボーンの棋士』の主役対決、細かい対局描写に、この作品らしい心理描写も混じって、これまでで最大の盛り上がりと言える。一番良かったのが、逆転敗けを悟った瞬間の土屋の表情(図1)。それ以前の彼にしては珍しい、加治と交わした嬉しそうな表情から一変。掴んだはずの、どうしても欲しかった勝利が手からこぼれ落ちてしまった、信じられないような、哀しいような、泣きたいような表情が実に良い。

で、この決着の構図はなんだか見覚えある、と思ったら、囲碁漫画の傑作『ヒカルの碁』(’99 – 03)のプロ試験での「ヒカル vs. 和谷」(コミックス11巻)に近いのではないかと思った。あの対局でも、先に「詰ませた」ように見えた和谷が、油断から少し気が緩んで嬉しそうな表情を見せてしまうんだけど、ヒカルが腐らずに逆転の手を探したら見つかってしまう。自分の方が逆に詰んでいることに気づいた和谷は、絶望的な気分に陥って、激励をくれた師匠の顔が脳裏で歪む(図2)。

図2:ほったゆみ、小畑健『ヒカルの碁』11巻,集英社, 2001年

この2つの対局の共通点は、ライバルが先に勝ったように見えること、主人公が粘って逆転すること、ライバルが勝利から一瞬で敗北に叩き落とされること。また勝利を確信したライバルが「対局そのものから視線が外れていた」ことも共通点である。この描写がリアルだと思う。

つまり土屋も和谷も、プロ編入というポジション獲得を焦るあまり、対局相手の頭越しにトロフィーをチラチラ気にしてしまっているような、勝負の他への浮気心みたいなものが見えてしまっている。その貪欲さは彼らに普段以上の力量をもたらすわけだが、勝利を掴んだと思った瞬間、下心がヌッと顔を見せ、思わず安心してしまう。勝負から視線が外れて一瞬夢想に浸ってしまう。別のことを考えている(図3)。

図3:『リボーンの棋士』27話

これは(対局ではなく)勝利に貪欲な姿勢の反動である。それまでの突き刺すような集中が消えて、安住の勝負手をあっさり許してしまうし、反撃の気配にも気づけない。優位を固めた後もさらに抜け目なく戦いに没頭し続けていたら、逆転を封じることもできたのでは、という気にさせる。

油断する土屋と対照的に、主人公は盤面へ目一杯のめり込む。一見、安住と土屋は同じ姿勢で勝負をしているように見えるが、この瞬間、「勝利」を目指す土屋と「対局」そのものに貪欲な安住のコントラストがくっきり浮かび上がる。土屋は勝利の天空を漂っているが、安住は81マスに潜っている(図4)。すなわちハチワンダイバー。だから主人公は瞬間的に、その場の誰をも超えて最強になり、会心の一手を神様から授かる。

図4:『リボーンの棋士』27話

単純な「勝った、逆転した」というお決まりの描写に終止するのでなく、十分に勝負へかける想いを描写した上で、こういう機微や勝負への姿勢の違いを描き分けられる鍋倉夫は、やっぱり上手い作家だなと。たまにちょっと暴走してボクシング始めたりとかするけど(笑)。

このサイトでやたら推している本作、実は去年の『このマンガがすごい!2019』で、マンガ好きや評論家が沢山マイベストを掲載しているのに、誰も『リボーンの棋士』に言及していないのが、自分のことのように悔しかったからである。どうか、今のクオリティを保って続けて欲しい。

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