
地獄のミサワのナンセンスなセンスが奔放に発揮された豪作。個人的には彼の最高傑作だと思っている(現時点で3作品しか発表されてないけど)。
ストーリー漫画でも四コマ漫画でもなく、奇才ミサワの創造による、ズレまくったキャラクターたちがほぼ毎話新登場する読み切り連作的な内容になっている。その世界では、引っ込み思案の生徒が不良の留守中に平然と窃盗を働き、ヒロインと思われた美少女(?)が世界を支配し、グルメ選手権で美味いと言わせるために、審査員をいかに飢餓状態に追い込むかに料理人が頭を捻る(図1)。

日常の言語や姿勢を異常な状況に平行移動させた荒唐無稽、言葉の字面だけ現実世界で実行した意味不明、あるいは単なる出オチ……。まあミサワのナンセンスギャグを説明するには、自然言語はあまりにも表現力が貧困なので、気になる人は黙って1巻を読んで欲しい。これほど多様な設定でナンセンスギャグが四方八方から襲いかかってくる愉快は、漫☆画太郎の短編集を彷彿とさせる。
このギャグの方向性は、作者の知名度を上げた『女に惚れさす名言集』や、勘違い熱血教師が暴走する『いいよね!米澤先生』とは異なる。これらの作品におけるミサワのギャグというのは、現実世界でクラスに1人くらいの割合で見かける「イタイ奴」のイタさの無自覚っぷりを、極限まで肥大化させて茶化すという構造になっていた(図2)。

ところが『カッコカワイイ宣言!』の人物たちの多くには、そのような現実感、「いるいる感」がない。ミサワの脳が0から作り出した虚構なのである(『米澤先生』でのミサワの言葉を借りれば「作者が現実で出会ってないキャラ」)。これによって彼のギャグは「現実世界への茶化しやアイロニー」から「虚構世界での荒唐無稽が生み出す滑稽さ」へと変化しているのだ。他の作品においては、現実に足をつけていることが彼のセンスの奇天烈ぶりをセーブしているのだが、本作において、ミサワは己の脳のパンドラの箱を全開にして、その混沌たるナンセンスを十全に発揮したと言えよう。デビュー作である『俳優伝説』や『King of まりっぺ』など(いずれも本作巻末に収録)もこの方向性なので、むしろこれこそが本来のミサワスタイルなのかもしれない。後にナンセンスの世界でヒットを飛ばした大川ぶくぶの『ポプテピピック』なども、この系譜に近い。
ミサワのギャグの、人の意識の外から降ってくるような「場違い感」「状況と人物のあまりの乖離」は、絵画で言えばダリとかルネ・マグリットが得意としたデペイズマンの手法に似ている。実に『カッコカワイイ宣言!』こそは、ギャグ漫画におけるシュルレアリスム宣言なのだ。