『ドラゴンボール』のサイヤ人編とフリーザ編では、敵側が最終目標として「神龍から不老不死を与えられること」を掲げており、それがバトル漫画化しても『ドラゴンボール』の看板を保持し続ける1つの名分にもなっていた。

ところがセルは不老不死を追い求めない。ピッコロと出会った直後にドラゴンボール消滅の事実を知ったためである可能性が高いが、神とピッコロとドラゴンボールの関係を把握していたセルの知識なら、ナメック星の存在も知っていたはずである。しかし完全体になった後のセルは目標が空洞化していて「最終目的はとくにありはしない」「あえて言えば楽しむことが目的」と言ってセルゲームを始める。

セルの退行機能はベニクラゲ由来?

フリーザのように不老不死を求めなかった理由は、既にセル自身に不老のギミックが組み込まれていたからである可能性がある。ここで注目したいのは、もう1つの未来からタイムマシンに乗り込む際に行った卵への退行である(図1)。もしセルの卵への退化が、セルという生命体のライフサイクルの純粋な逆回転であり、DNAの修復も行われているのだとしたら、セルは最初から不老(厳密には若返り可能)の生物ということになる。

図1:自律的に卵へ退行可能なセル(『ドラゴンボール カラー版』 人造人間・セル編 3, 集英社, 2013年)

この機能はピッコロ大魔王がマジュニアを生み出した際の、卵による分裂現象を移植したものとも考えられるが、産卵から孵化までの期間が大きく異なる(セルは3年の熟成期間を必要とした)。さらにDB世界の時間概念だと、分身をタイムトラベルさせても意味がない。 またセルの「タマゴにまで自分を退化」という言葉を素直に受け取るなら、これは純粋に本体をタマゴの状態に溶解して閉じ込める行為のはずである。そうなると退行機能はピッコロの分裂とは別物と考えるのが自然で、ドクター・ゲロが遺伝子工学により無から創造したか、地球上での他の生物のDNAを融合した結果生まれたものということになる。

現実世界にも退行の機能を持つ生物は存在するが、それはベニクラゲしか確認されていない。ベニクラゲ研究で有名な久保田信の『若返るベニクラゲとその人類進化への寄与』(紀南出版)によれば、この生活環の巻き戻し現象は「蝶が変態して芋虫に戻るのに等しい」という。これは卵に退行したセルが幼虫になり、再び脱皮した姿を思い起こさせる。さらにこの若返りは「永久に繰り返すことが原理的には可能」(同書)だという。セルの退行がベニクラゲと同レベルのものなら、半永久的に生存できる見込みがある。

種としての生命力が強すぎるセル

ただしベニクラゲは、生物としては捕食される側であり、寿命が尽きなくとも個体数を減らすことで異常増殖が間接的に防がれている。ところがセルは完全に捕食する側の存在であり、単為生殖による強い繁殖力も持っているため、孫悟飯に敗れなければ一方的に増殖を続けた可能性が高い。

一応、セルジュニアには誕生時点では尻尾が確認できないため、繁殖可能な個体はセル本体のみという可能性もあるにはある(ベースの1つであるナメック星人は、龍族しか子供を産めないという特徴がある。ただセルの繁殖方法は彼らと異なっているように見える)。しかしもし仮に成長と共に生殖可能になって個体数がネズミ算式に増えるのだとすれば、短期間であっという間に地球を覆い尽くしていたはずである。何しろ寿命も天敵も存在せず、個体が死なないのだ。これは個体数の少なさでバランスが取れていたフリーザ一族と大きく異なる。セルは人工的に造られたばかりの存在であるため、環境適応のふるいにかけられておらず、種の存続を脅かすほど過剰に生命力が強い印象を受ける。

図2:任意の数の個体を(画像上)単独で生み出せるセル(画像下)(『ドラゴンボール カラー版』 人造人間・セル編 7)

もし寿命のないセルが本格的に繁殖を始めると食糧問題が発生するはずで、地球がまかないきれないペースで増殖するとなれば宇宙に進出するしかない。フリーザの細胞を持つため、恐らく宇宙空間でも活動可能だろう(実際アニメでは宇宙でも活動している)。ただしセルは高い知性も備えているので、セルが繁殖衝動を抑制できるなら、現実には個体数を自らの意思で抑制しながら惑星を支配することも可能と思われる。さもなくば猛烈に増殖を続けながら、生活可能な惑星に移住した個体のみが生き延びて、そこでも個体数を増やして同じ破壊と拡散を繰り返す、まさに宇宙の悪夢のような存在になったかもしれない。ただし単為生殖で遺伝的に近い個体を大量に生み出す種の構造上、適応力が低く、天敵となるウィルスなどが発生すれば短期間で大量死することもあり得るはずである。

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投稿日時: 2019/03/04 ― 最終更新: 2019/03/07
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