投稿日時:2019/06/03 ― 最終更新:2019/08/14

最近、モールス信号の勉強をしている。モールス信号は、強力な武器となる。あれはいい。必須と言ってもいいかもしれない。賭郎勝負はいつ何時、どんな条件の下で行われるか分からないが、モールス信号はとにかく何らかの信号さえ発することさえできれば、離れた位置にいる仲間と意思疎通ができ、戦略の幅が大きく広がるのである。

大学にいるときは、いつも「ここで賭郎勝負になったら……」と、想定の羽を伸ばし、決して準備と警戒を怠らない。たとえば教室のドアノブの位置や、外開き内開きの把握は、基本中の基本と言えよう。ここだけの話だが、どの教室が大学のどの場所から視認可能か、といった情報まで、可能な限りチェックしているし、建物内のダクトやパイプの行き先も目下、調査中である。これらの環境要素を利用し、離れた位置から情報確認できることを発見できたときなど、胸が躍る。この情報は、利用できる。賭郎勝負では、相手の気づいていない情報源を持っていることは、強力なアドヴァンテージとなる。それらを、いざ勝負の場になったら、全く素知らぬフリして使うのだ。

この前、Hという屈強な男と懇意になった。勝負の場においては、自らの身を守る算段は予め織り込んでおかねばならない。勝負の闇を振り払えない敗者は、決して望むものを手中に収めることはできない。人を見る目も変わった。「こいつと賭郎勝負をしたら勝てるか」。それがバロメーターとなる。威張り散らしているだけの非常勤講師など、全く相手にならないことが瞭然であった。

賭郎勝負なんて大学でする機会あるのか、と思う御仁があるかもしれない。賭郎勝負は、発生します。大学では結構、くだらない諍いが発生するものです。揉め事の収拾がつかなくなったとき、私は実にサラりと持ち出す心づもりがあります。「まあまあ、このままでは議論は平行線。急がば賭郎勝負。ここは一つ、迷宮のミノタウロスでもいかが」今にきっと、そんなことが起こります。

先日、私が排水管に耳を当てているのを見かけて不審に思ったKという女子が、何をしているのかと尋ねた。こいつは、まずい。私は格好の餌食を装わねばならないのだ。獲物は捕食の瞬間にこそ、最大の隙を覗かせるという。私が大学を自らの城と化し、愚か者が迂闊にも構内で、まんまと私に賭郎勝負を挑むのを待ち伏せする狩人であるのを、他の者に悟られてはならない。ところがKがあまりにもしつこく詮索してくるし、人畜無害な昼行灯を装う私が、普段からこれほどの智略計略を張り巡らせるほどの智将であることをKが知れば、私を尊敬するかもしれない。そのような下心も手伝って、ついつい、いざとなったらパイプを利用してモールス信号で意思疎通できるんだ、という重大情報を、私は虚栄心から漏洩してしまったのだ。きっと、スパイというのはこのような形で失敗するに違いない。

ところがそれを聞いたKは、ゲラゲラと笑い出しのである。私は唖然としてしまった。なんで、パイプで、モールス信号のやり取りする必要があるの、と本気で笑い止まない様子で、腹をよじりながら、そのままどこかへ去って逝った。想定外の反応に寸刻、放心していたが、しばらくして、何だか自分のとっておきの宝物をバカにされたような、そんな気分になって憤然とした。笑うな。人の賭郎勝負を笑うな。明日、君がその命をテーブルの上に差し出さざるを得ない賭郎勝負を挑まれる、その可能性が全くないと、果たして言い切れるのか。

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