投稿日時:2019/01/14

『ブルーピリオド』を読んで、私は動揺してしまった。冒頭に出てくる美しい長髪の「女性」である鮎川龍二は、男の娘である。つまり主人公とはボーイ・ミーツ・ボーイなので、これでは恋愛は生まれぬ。それではやおいになってしまう。そんな展開になれば、私はアフタヌーン誌を引き裂く。渾身の力を以て引き裂く。

森先輩も桑名マキもヒロイン失格

冷静に物語を追っていくと、何人かキーパーソンらしき女性が出てくるが、本命のヒロインは一向に姿を現さない。森先輩、こいつは下の名前すら出てこないし卒業してどっか逝ったので、却下であろう。桑名は単行本の登場人物一覧にさえ載っていない噛ませ犬に過ぎぬ。大葉先生と佐伯先生は、年増であるし、オマケ漫画によれば既婚者らしいので、健全誌におけるヒロインたる資格を有しない。こうして誰もいなくなった。

『ブルーピリオド』は宣伝通り芸術における純然たるスポ根漫画かと思いきや、12筆目で意外な展開が待っていた。八虎が髙橋世田介(よたすけ)に告ったのである(図1)。男同士の友情に偽装しているが、これはデビュー前にBL漫画を書き連ねた作者の抑え難き獣性の発露と考えるべきである。私は明日、書店でアフタヌーン誌を買うやいなや、渾身の力を込めて引き千切る。

八虎が世田介に告った決定的瞬間
図1:山口つばさ『ブルーピリオド』3巻, 講談社, 2018年

鮎川龍二と天才世田介の差はどこで生まれた

私はオスなので、やおい展開には全然興味ないのだが、冷静に読めば読むほど世田介がヒロインであることは揺るがし難い事実であるとの確信が深まってしまう。以下にその理由を5つほど述べよう。

まずハッキリ活字で「世田介くんのこと好き」と言い逃れできぬ証拠を残しているし、同時に「腹ん中煮えくり返りそうなくらい嫌」という、愛憎入り交じる感情を吐露している。愛は憎と渾然一体とならなければ、十分な感情とは呼べぬ。感情の熟成、ここが龍二とのまず決定的な差の1つである。

次に世田介と龍二では、こなしたイヴェントの数が違う。八虎と藝大祭に逝ったのも、大晦日を一緒に迎えたのも世田介である。これが2つ目。また世田介はその直前に、 八虎に電話をして勝手に感極まって切るという、切ないシーンも演じている。この間、「ヒロイン」龍二は何をしていたか?やつは自室に引き篭もったり、 八虎との約束をバックレていただけだ。これが3つ目である。

さらに2人はお互いを常に意識し合っている。初めて会ったときから、運命を感じ、頬を紅色に染めていた(図2)。八虎はあの孤高のデッサン・マシーンの存在に失禁寸前であった。デッサン・マシーンも八虎の名前を覚えていた。すなわちボーイ・ミーツ・ボーイである。これは4つ目の理由となる。

情緒溢れる八虎と世田介の別れのシーン
図2:山口つばさ『ブルーピリオド』1巻, 講談社, 2017年

また12筆目のタイトルをよく読むと「イキリ乙」と書いてある。ここに秘匿された巧妙なるメッセージを読み解かなければならない。すなわち「イキリ乙」→「いきりおつ」→「いきり勃つ」である。股ぐらがいきり勃つ!と言えば不死身の幼女が真っ二つになる吸血鬼漫画で放たれた、漫画界に燦然とそびえ勃つ、いやそびえ立つ名言である。最初に読んだときは不可解なタイトルと思うだろうが、この解釈により全てのピースが勝手に集合して見たくもないパズルが完成する。これが5つ目である。

世田介が龍二に遅れを取ったことと言えば、2巻のカバーイラストの座を奪われたことである(ヒロインの特等席)。しかし今まで論じてきたように世田介は絶対的なアドヴァンテージを積み重ねているので、まあ5勝1敗と認めてやらんでもないが?ん?といった感じであろう。

というわけで、本作はバリバリのボーイズラヴ漫画であった。

まとめ

どうでもいい

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