※:続編の1巻以降については別記事に掲載

格闘ゲームのリビングレジェンドである梅原大吾の10代の活躍を描く『ウメハラ Fighting Gamers!』のパイロット版のような位置づけの作品……なのだが、受ける印象は後の作品と大きく異なる。

一言で言えば、洗練されていない。つまらなくはないのだが、非常に荒削りな作品である。だからまずツッコミを入れさせてほしい。キャラクターがみんな5頭身なのが気になって仕方ないし、そのくせ台詞回しが変に仰々しいので、ヒジョーにちぐはぐな印象を受ける。その絵柄で言われても……という感じなのである(図1)。

図1

続編ではこういうポエティックな言い回しは鳴りを潜めている。絵柄も、エピソード的にも続編の方がずっと一般受けするだろう。だから「質の高い格ゲーマンガを読んでみたい」という人は、先に続編を読むべきである。本作に関しては、むしろ外伝的に後から読んだ方がいい。この巻は完全に梅原ファンのためのものである。

ではこの『To live is to game』ならではの価値はないのかというと、ある。そもそも本作と続編では描いている時代が異なる。本作は梅原が格ゲーに出会った『ストリートファイター II』から『スーパーストリートファイター II X』までの少年時代を中心に描かれており、続編はそれ以降の話が中心である。またこれはよくネタにされることだが、続編は梅原の名を関している割に、むしろ中心人物は「ヌキ」「クラハシ」といったライバルキャラクターになっている。しかしながら本作の中心人物、それは紛れもなく梅原大吾なのだ。

なので奇妙な話なのだが、本シリーズで梅原が真の意味での主役なのはこの巻だけなのである。

図2:実直な格ゲー描写

エピソードも割と素朴な話、例えば姉とビデオ屋に行ったときに初めてスト2に出会ったとか、ゲーセンで不良に絡まれた話とか、そういったゲーム少年たちにとって共通性の高い話が中心となり、1990年代初頭の熱狂は上手く描けている。ただ続編と違って対戦ゲームに対する深いこだわりや美学を語ることもなく、格ゲーシーンも画面が少し描かれるだけの淡々としたものである(図2)。この巻を読んでも「梅原を梅原たらしめるもの」はそこまで見えてこない。

中足に挑む者、挑まない者の差

面白いのは「教授ザンギ」がガイルの中足(しゃがみ中キック)の空振りを見てから蹴るエピソードである(図3)。彼は実在の「校長」と呼ばれた人物がモデルとなっており、スト2シリーズの強豪として、その逸話は諸所で聞かれる。そして当時の水準としては、彼の技は都市伝説と言っていいほどの離れ業であった。初期の頃のガイルvs.ザンギは半詰みの組み合わせとして有名で、ザンギとしては毛ほどの勝機も見逃すわけにはいかなかったのだろう(ちなみに初代スト2では中足蹴りに成功すると「封印」と呼ばれるバグでガイルの必殺技が封じられ、そのままゲームが決した)。

図3

ガイルの中足は見てから反撃できる……この噂を聞き、梅原少年は狂ったように練習を重ねる。周りの人間から「馬鹿かコイツ」という視線を投げられながら。

だがもし本当にそれができるとしたら
「俺にできないわけがない」

少年の努力の源、それは滑稽なほどの「自意識」だった

このエピソードは中足ネタそれ自体の面白さと、梅原の強さの根底を支えるやり込みへの信仰、「やる気全一は後の全一」という「ウメイズム」を簡潔に表現している点で、二重の面白さを含んでいる。実際、私が梅原マンガを購入するキッカケとなったのは、試し読みでこの台詞を読んだからである。

「確かにあのガイルの中足蹴るってのはすげえけどな」
「結果的に負けたら元も子もねぇよ」

あいつらは何もわかってない!
結果論だけで全てわかったかのように語りやがって…
あの一つの技術がどれだけ重要なものか…
何一つ理解していない!
俺は…あんなヤツらとは違う!!

この「差」が梅原の語りでは繰り返し強調される。可能性の追求を早々に諦め、努力する者を嘲弄する側に回る者と、己の信仰に殉じてコインを投入し続ける者の間の、果てしない「差」。『ギルティギア』へ移行した直後の連敗エピソードが示すように、「梅原と他のプレイヤーは何が違うか」という議論は、いつもこの「差」へと収束する。

梅原のこの狂信的とも言えるやり込みへの信仰……可能と思えばどんなことでも粘り強く続ける精神力は、梅原自身が随所で「自分が王者たる所以」として強調している。

「勝つためにどうすればいいかといえば、努力です」
「自分よりもっと努力している人を想像すると、努力しないのが怖い」

似たような言葉は彼の著作『勝ち続ける意志力』や『ウメハラコラム 拳の巻』などでも出てくる。「相手が諦めるまでずっと続けるんだから、ある意味無敵だよな」とは彼の言である。

出典

図1,2,3:梅原大吾(監修)西出ケンゴロー(作画)折笠格(原作)『ウメハラ To live is to game』株式会社PHP研究所

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投稿日時: 2018/09/06 ― 最終更新: 2019/09/17
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