住吉九『ハイパーインフレーション』 / オレの股間がハイパーインフレーションだ

2021/06/12 ・ 漫画 ・ By 秋山俊

さあカネの積み合いだ !! 有り金 全部持って整列しろ !! 財力の違いを教えてやるッ!!

住吉九『ハイパーインフレーション』第2話

マンガは世界征服を目指さねばならない。

世界征服――この馬鹿げた誇大妄想こそ、昨今のリアル志向マンガに不足しているギガトンな要素だ。自らの欲望に正直になるべし。世界征服を夢見ない男の子なんて存在しません!

『ハイパーインフレーション』の主人公ルークは、どういうわけか股間、および身体のあらゆる箇所から、紙幣を無尽蔵に生成(偽造)する能力を授かる。ただしこの能力には致命的欠陥があった。ルークから作られる紙幣は通し番号が全て同じである。したがってその番号が世間の知るところとなれば、偽札の存在がバレて、全てが一発で紙くずと化してしまう。まさに「ケツを拭く紙にすらなりゃしねぇ」である。

歩く人間紙幣プリンタと化したルークは、この秘密を守り抜いたまま、果たして世界中に偽札を売りつけることができるか――

住吉九『ハイパーインフレーション』第1話, 集英社

ジャンプ+でオンライン連載されている作品であり、邪な能力を手に入れた主人公が大犯罪の成就を目指すという点で『DEATH NOTE』の系譜に位置づけられる。実際、第1話から「偽札で世界制覇」的な、神をも恐れぬ陰謀を組み立てる勢いの良さや、あることを「言った、言ってない」を手がかりにした探り合いや心理戦など、共通点が多い。

『ハイパーインフレーション』第7話

セリフ回しが抜群であり、「現金!!一括!!即払い!!」「オレに競り勝ちたきゃ、印刷機を持ってこいッ!!」など、欲望ガバガバなぶっ飛んだ決め台詞が妙に痛快だ。また主人公たちの「欲しい物=カネ」「大金持ちになりたい」という、我欲に忠実過ぎる目標設定が大変分かりやすくて脳汁がハイパーインフレーション。「世界中の経済が混乱しても知ったこっちゃねぇ」という、さとり世代の真逆をゆくアコギな態度がスーパークールでございます。

作風としては、作者の趣味を反映したと思われるショタ + シュールギャグ方向に振り切れており、またルークの目的の1つが、大量のカネで自民族や姉の自由を手に入れるという「イイヤツ」設定である点が『DEATH NOTE』とは異なる。ギャグがかなり面白いので、時に「これは犯罪計画をダシにした、純然たるギャグ漫画ではないか?」と思うこともあるほどだ。

『ハイパーインフレーション』第13話

このマンガの良さとして、とにかく展開が速い。余計な手順やクネクネした展開をすっ飛ばして駆け引きが繰り広げられ、敵・味方が目まぐるしく入れ替わっていく。また舞台そのものは架空の世界ながら、時代設定的にはおそらく近世あたりで、その辺りの時代にあった奴隷貿易や経済学などの知識を絡めて犯罪計画を練っていくのが面白い。

この疾走感とクオリティを保ったまま突き進んでいければ、このマンガは間違いなく傑作になるだろう。君よ、欲望の橋を渡れ。(ヘッダー画像:住吉九『ハイパーインフレーション』第1巻, 集英社)

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初版:2021/06/12 ―― 改訂: 2021/08/24

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