世界で最も美しい図書館の1つ、ストラトフ修道院図書館

東大受験者の中で最も厚い層は、東大模試において「D-C判定を取ることが多く、運が良くてB判定」というくらいの「合否ライン付近を漂っている人たち」である。この層の人達は最も多く、最も不安と焦りに晒されているであろう。

そしてD-C判定の大海を漂う人とB-A判定の浜辺を安定して歩ける人の間にある断崖は、想像以上に広い。私も長らくC判定に甘んじていた人間で「学習範囲は一通り仕上げたつもりなのだが、伸び切らない」という時期が続いた。実際の合格率を見ても、B-A判定の人間の合格率は圧倒的であり、五分五分の勝負をしなければならないD-C判定を突き放している。

模試の判定はあくまで参考情報でしかない。が、それでも「B-A判定を安定して取れる受験生」のグループに入ることが、東大合格の一つの目安であることは間違いない。

学習範囲を無闇に広げてはならない

このような学習のプラトー状態(停滞)を経験した学習者に見られるのが、焦りから「自分には覚えていないことがまだあり、上位の人間はそれを知っているはず」という考えに囚われ、学習範囲を広げてしまうことである。

だが、基本的にそれは止めた方がいい。仮にも東大模試で合格争いに参加可能な状態に達した人なら、学習範囲内のことは大体学び終わっているはずである。夏の模試でD-C判定を取った人の中には、社会や理科がまだ完全に終わっていない人もいるかもしれないが、そういう人たちだけが、明確に見えている未習範囲をカバーすればいいのであって、それ以外の人が学習範囲を広げるのは危険だ。学習範囲を広げるのは、学習の蟻地獄への入り口である。

「東大A判定を安定して取れる状態」についての記事で触れたが、未習範囲が残っていないのにA判定に届かないということは、基礎力がまだ不十分ということを意味する。これまで受験勉強を頑張って、全科目の平均偏差値を60代半ばまで上げた人には信じがたい話かもしれないが、東大模試は基礎力が十分ならA判定を取れる世界なのだ。

東大入試は基礎力の深さで決まる

ここで言う「基礎」とは「初歩」のことではない。例えば英語や古文の基礎文法や単語、『一対一対応の演習』レベルの数学の典型解法などを、脳に思い出す負担をかけずにスラスラとアウトプットできるような能力の完成度を指す。この能力が足りないと時間不足になり、ケアレスミスをし、複合的な問題を思考するのに脳の容量を残すことができない(→「受験勉強の急所」)。

全ての学習範囲をおよそカバーしたあなたが、学習範囲をさらに広げるのではなく、徹底的に基礎を深めるとどうなるか?

東大模試くらい、余裕を持ってA判定を取れるようになるだろう。

人は新しいことに手を出すと安心する。特に勉強では。なぜなら「知識が人より多い=他人より能力が高い」という図式は分かりやすいからだ。そのため自分が劣っているのは知識量が少ないからだと錯覚しやすい。

また新しいことさえ覚えていれば「学習が進んでいる」と安心できる。焦った受験生は、頭では基礎を深めねばと思っていても、ついこの安心感の誘惑に敗けてしまう。これは「ノートを作っていると勉強した気になって安心できる」という心理に似ている。

しかし繰り返すが、学習範囲を広げるのは泥沼である。D-C判定に甘んじている人の弱点は、まず間違いなく基礎力にある。基礎の重要性は、難問奇問が飛び出す難関私大よりもさらに大きい。

苦手科目別の学習戦略

ここでは足を引っ張っている科目別の戦略を考えてみよう。なお東大文系向けの解説が中心となるが、社会以外に関しては理系の人にも参考になると思う。

英語が苦手なケース

あまりにも苦手すぎるとかなり大変だが、そうでなければ対処しやすい。

具体的には東大模試での偏差値が50前後で、点数で言うと60点付近という人が多いと思うが、こういう人の英語力は「単語・文法は一通り終わり、あとは読書量をこなすことによる英語力の爆発を待っている状態」にあると思われる。つまりあなたは、内側にA判定を取るためのニトログリセリンを既に秘めており、あとはそれを起爆させるだけである。

ここまで来ていればやることは単純で、細かい文法の穴などを潰しながら、ひたすら長文読解をこなすことを勧める。「英語勉強法まとめ2」に書いたレベルで言うと、中上級者向けの学習をこなすのが良いだろう。このレベルの人は精読から多読に学習の重心を移しつつ、既に学んだ基本単語や文法解釈のアウトプット速度を上げるのが効果的である。

私の考えでは東大英語で60点付近というのは、英語が最も伸びやすい点数区間である。というのもこの点数の人は、稼ぎどころのリスニングでまだ16-20点くらいだろうから、リスニングを毎日聴き込むだけで、数ヶ月後に+8点くらいの飛躍が期待できる。

さらに多読で読解速度を高めれば、解ける問題数が直接的に増えて、ダイレクトな点数向上を期待できるからだ。多くの人にとっては、最後に勘で埋めている1(B)をまともに解ける時間を確保できるようになるだろう。これでさらに+6点ほど期待できる。精読訓練によって他の部分の得点率も上げれば、さらにもう+6点。

このレベルでは一通りの学習範囲をさらってしまったので、何をすれば伸びるのかちょっと困るだろうが、もうゴリ押しの段階に入ってきているので「あとひと押し」である。英語で15-20点プラスできれば、もうB-A判定に手が届くはずだ。特に理系は二次の最低合格点に対する英語の占める割合が大きいので、英語は極めて重要。

数学が苦手なケース

これが最多のケースかもしれない。特に文系は数学が苦手ゆえに文系という人が多く、数学の点数は乱高下しやすいので、これがネックになりやすい。また他科目と違ってゴリ押しが難しいので対処しずらい。

確実に言えることは「完答しなくていい」「標準的な部分だけ取ればいい」ということである。『一対一対応の演習』『青チャート』『文系数学の良問プラチカ』レベルの解法を身につけ、その標準問題レベルで解き切れる範囲を確実に解けば、少なくとも数学が「足を引っ張る」という状態からは脱出できるはずだ。

問題の難易度にも左右されるが、これだけで偏差値50代後半は取れるだろう(数学模試は点を取りにくい)。この状態で他科目で点を取れば全体偏差値は60を超え、B-A判定に手が届く。よって数学で足を引っ張る人は、焦らずに標準問題レベルの解法理解を徹底して欲しい。標準問題を実際に解くには、解法を「一般化」して身につけることが急所となる(→「数学の勉強法まとめ」の「標準問題の解法を身につける」を参照)。

それと東大数学では確率・整数で差がつきやすいので、これらに苦手意識がある人は徹底演習を積むと、それだけで大きな武器になる。特に受験数学の整数問題はパターンが決まっていて、得意だと短時間で完答しやすい(例えば2006年の文系第3問など典型過ぎて、やり込んでいれば10分で解ける)。

文系は4問なので整数が出るか五分五分だが、確率は超高確率で出題されるため、苦手であってはならない。

国語が苦手なケース

国語が足を引っ張る場合、問題になるのは古文・漢文での得点が十分でないケースだけである。

現代文については「現代文勉強法まとめ」に書いたようなこと、つまり文章の論理構造を理解し、問いに対して確立された解法を打ち立てるという部分を押さえていれば、模試の点数が低くてもそこまで気にしなくていい。何故なら模試の現代文は予備校によって採点基準や、良いとされる解答がバラバラでアテにならないからだ(→「現代文の模試はなぜ役に立たないのか?」)。

古文・漢文について、文法があやふやなら当然潰すべきだし、単語も基本単語に絞って徹底すべきである。漢文も単語は重要。正直、近年の古文・漢文は難易度が低いので、本当に基本を抑えるだけで十分な点が取れてしまう。

それでも点が取れない人は、恐らく古文・漢文の「常識」と「価値観」が不足していると思われるので、『マドンナ古文常識 217』のような参考書を読みつつ、演習量をこなすのがおすすめである。問題集は『漢文道場』のように、難易度はセンターレベルでいいので(二次自体の難易度が低いから)、数とバリエーションをこなすことを重視しつつ、場合によってはマンガなども読むといい。常識力が鍛えられる(→「古文漢文をマンガで勉強するのは有効」)。

特に漢文の最終問題で、いつも答えがズレるような人は要注意。あれは「結局、この文章はどういうこと?教訓はなに?」というまとめになっていることが多いので、それがズレるということは「価値観」がズレているということなのだ。

社会が苦手なケース

世界史が苦手な場合、本当にゴリ押しするだけ。レベル別の学習方法については「世界史勉強法まとめ」を参照して欲しい。論述問題対策としては、過去問を中心として、とにかく論述の数をこなすのが重要(→「世界史の論述問題を独学で解けるようになる方法」)。赤本などの過去問の他には『世界史論述練習帳new』の「基本60字」を何周もするのがいい。

地理に関しても、基本を抑えてあるなら論述演習くらいしかやることがない。参考書の選択肢も少ないので、東大受験生が用いるべきなのは『大学入試 地理B論述問題が面白いほど解ける本』『納得できる地理論述』くらいである。『実力をつける地理100題』は東大向けの知識ではないのでおすすめできない。

近年の地理はとにかく論述量が嫌がらせのように増加していてアウトプットの速さが求められるので、ひたすら論述問題集を読み込み、典型問題を瞬殺できるようになるべきだ。厳しい文字数制限に対応するために「少ない文字数で表現できるフレーズ」のストックも重要。

本日の東大格言

入学試験なんてインチキなものだと信用していなかったが、やはり三度目に入ったときはうれしかった。

二浪して東大に合格思い出を語る澁澤龍彦(フランス文学者・翻訳者)

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投稿日時: 2019/06/30 ― 最終更新: 2019/12/02
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