J.K. Rowling “Harry Potter and the Sorcerer’s Stone”

英単語暗記は、英語学習における筋トレである。

文法理解が多少疎かでも、とりあえず単語の意味さえ分かれば何を言っているのか大体分かるということは多いし、逆にいくら文法が完璧でも知らない単語の意味は推測することしかできない。

単語さえ暗記していれば英文をある程度力押しで制することができ、最終的に言語というのは母国語であっても、どれだけ「言葉(≒単語)」そのものに精通しているかでその能力が決まる(精通とは、単に1つの意味を記憶するだけでなく、幅広い場面で様々な形で運用できるということ)。

ところがこの単語に関して「英単語は丸暗記するしかない」と思い込んでいる人が実に多いのだが、それ誤りで、英単語は簡単なことを覚えるだけで暗記効率が飛躍的にアップする。

丸暗記は効率が悪過ぎる

学生の中には、単語帳に書かれている単語を一生懸命丸暗記しようとして、覚えるたびに忘れている人がいると思うが、それは止めた方がいい。あまりにも暗記効率が悪すぎるし、以下に書く「単語の効率的な覚え方」をしている人とは勝負にならない。

ところが学校ではこの極めて重要な事実を、なぜか教えないのである。私はこれが英語嫌いを生む1つの原因だと思っている。そして多くの学生がこの絶対に必須のはずの知識を教わらず、英語嫌いになっていく。

逆に言えば、効率的な覚え方をしているだけで、それだけでもう他の多くの学生に圧倒的な差をつけられるのだから、苦労して丸暗記している他の学生には悪いが、それを知ろうとするあなたには英語で確実に他人を出し抜くチャンスなのである。

多くの単語は「決まった記号」の組み合わせでできている

どのような言語であっても、多くの単語は生成ルールにある程度則って、他の単語に「決まった記号」を「くっつけて」生成される。

この「決まった記号」の数は、ほとんど無限とも言える単語の数に比べると極めて少なく、全て合わせても100個程度、受験で覚えるべきものはもっと少ない。しかしそれらの記号が数千、数万という単語に「くっついて」いるので、実は英単語の多くはこの数少ない「決まった記号」の意味を覚えてしまえば、非常に覚えやすくなり、また知らない場合でも意味を推測しやすくなる。

例えば有名なのは、単語の頭によくついている”ex”というものだ(難しい言い方をすると「接頭辞」という)。”exchange”とか”extract”など、無数の単語に”ex”がついている。

これらの単語の頭についている”ex”には共通の意味があり、それは「外に出す」という意味である。

だから「変える」を意味する”change”に”ex”が付くと”exchange”で「交換する」の意味になる。持っているものを「外に出して」「変える」から「交換」の意味になるのである(ただ単に”change”するだけなら、自分の持っているものと取り替えるだけかもしれない)。

“extract”も同じで”tract”という部分に「引っ張る」というような意味があるから”extract”は「外に引っ張る」すなわち「抜き出す」の意味になるし、”attract”は”at”に方向性を付与するような意味があるから「引きつける、魅了する」の意味になる。

これと似たようなものに後ろに「くっつく」ものとして”tion”とか”able”とか”er”の「決まった記号」がある(「接尾辞」という)。これらはこれも受験レベルだと20個程度の有名なものを覚えれば良いが、もちろんもっと覚えても損は絶対にない。この後ろにくっつく記号は、頭にくっつくものと違って意味そのものはあまり変化させないが、品詞を決定する働きがあり、例えば”tion”がつくものは「名詞」になり「~しているモノ、コト」という意味に変化させる。

例えば”action”は、「行動する」を意味する動詞の”act”に”tion”がついたものだから「行動・動作」といった名詞になる。つまり”action”という単語はわざわざ覚える必要すらなく、”act”を知っていれば”action”の意味も分かり、逆もまたしかり。

これは日本語で考えればよく分かる。例えば”er”が最後につくと「それをする人/モノ」といった意味になり、”shooter”は”shoot”する人、すなわち射手とか狙撃者とか銃撃犯といった意味になるが、日本語で「手」や「者」をつけると「それをする人」の意味になるのは当たり前だから、射手や狙撃者の意味を個別に覚える必要はない。全く同じことが英語にも言えるのである。”er”はさすがに有名なので知っている人も多いと思うが、同じようなものが他にもいっぱいあるのだ。

「最初につける記号」と「最後につける記号」を組み合わせると、もっと多くの単語の意味が分かる。

例えば先ほどの「引っ張る」の”tract”の先頭に”at”を付け、最後に”tion”をつければ”attraction”で「引きつける/魅了するモノ」すなわち「アトラクション」ということになる。つまり”at,” “tract,” “tion”の知識の組み合わせで、複数の単語の意味が簡単に分かってしまうのだ。

「決まった記号」で単語を覚えるとどうなるか

この知識を利用して単語を覚えていくとどうなるか。

単語を覚える負担が圧倒的に軽くなり、しかも記憶が長続きするようになるのである。

その結果、他の受験生の半分程度の負担で単語をどんどん覚えられるようになり、自動的に英語が得意科目になってしまう。なぜなら最初に書いたように、言語能力の半分は単語力で決まるからである。このような学習効率の差をつけたまま100の単語、1000の単語を覚えていくとどうなるか……その差は膨大なものになる。

それとこの単語生成ルールさえ知っていれば、単語帳に載っている多くの単語は、そもそもまともに覚える必要さえないことが分かるはずだ。

“ex”と”change”の意味を知っていれば”exchange”は「交換する」だとほとんど当然のように分かるのだから、記憶の負担が少ないし、忘れても簡単に思い出せる。極端な話、知らなくても推測できる。

この単語生成ルールは、絶対に、絶対に、絶対に抑えておこう。覚えるべき記号は、せいぜい50個程度。これだけで単語暗記力が大幅に向上するだけでなく、長文読解中に知らない単語を出会った際の意味推測にも使えるからだ。

単語の中心的な意味を抑える

単語暗記のもう1つの急所は、言葉の中心的な意味、イメージを抑えることである。これは古文単語に似ている。

これについては「全ての科目に急所が存在する」でも説明したが、例えばhaveに関しては”手近に備わっている”という言葉の中心的イメージで、そこから派生した意味である「(頭痛が)する」「他人に何かをさせる」「完了形」などもおよそ掴める。

そもそも英単語は、辞書に載っているような大量の「意味」を実際に持っているわけではない。単に日本語と英語の「言語間の距離」が遠すぎるので、単語同士の意味範囲がなかなか噛み合わず、それを説明するために大量の「訳」を準備しなければならないだけで、本当はその単語の「意味」なんて少ないのである。

実際中国語をやれば分かるが、日本語は中国語から単語を輸入したので、それぞれの単語の意味範囲がほとんど同じで、中国語辞書は1つの単語に掲載されている「意味」の数が少なく(だって元々同じ言葉だから)、実にすっきりしている。

英単語の中心的な意味というのは、その単語の元ネタであるギリシャ語やラテン語における元々の意味、すなわち「語源」にあることが多い。英語というのはヨーロッパ地域の様々な言語を吸収合併して生まれたキメラ言語なので、多言語を学ぶほど英単語に関して「そういう意味になるのは当然」と言えるようになる。

ちなみに私はフランス語学フランス文学を専攻したのだが、フランス語をやっていると「英語のあの単語はここから来ているのか」と思うことは沢山ある。法律用語など、訳して漢字2文字になるような小難しい単語は、大体フランス語由来である(法律や制度などをフランス語圏から文化として輸入したから。最近の日本語がアントレプレナーとかアーキテクチャとか、文化や概念を単語と同時輸入しているのと同じ)。

どこで「記号」や「中心的意味」を調べる?

大学受験生には『鉄緑会東大英単語熟語 鉄壁』『永久記憶の英単語<上>』が使いやすい。これらは「記号」や「中心的意味」に着目して英単語を覚えるように作られている。ただし『鉄壁』は多くの学習者にとって単語量が多すぎるので(タイトルに使われている東大受験生にとってさえも!)、辞書的に使うと良い。

他にはネットにも一覧を掲載しているサイトがあるので、「接頭辞 一覧」「接尾辞 一覧」などで検索して調べることができる。その際、普段あまり見ないようなものは無視して”ad-“や”ex-“のような頻出のものを選んで覚えるようにするといい。

ちょっとした知識で生まれる大きな差

これらは知っていれば実に単純で強力な学習手段なのだが、知っているのと知らないのでは、1000の単語を覚え、維持するのにかかる労力が全く違う。「頭のイイやつ」とそうでない人の差は「地頭」ではなく、案外こういうちょっとした違いで生まれている。知らないということは、実にオソロシイのである。

勉強においてはこの手のコツや急所が沢山ある。例えば記憶術や、人間の脳の学習原理もそう。受験では、それらを知った上で勉強する人が圧倒的有利。ところがほとんどの受験生がそれを知らないか、軽視している。上で紹介したことも、聞いたことはあっても「面倒くさいから」と覚えなかったりする。

戦争で言うなら、このような賢いやり方を知らずに勉強している人は、棍棒で戦っているようなもの。恐らく7割くらいの人が棍棒で殴り合っている。

そこで、みんなが棍棒で白兵戦しているなら、ライフルを手に入れてしまえば「地頭」が別に良くなくても「これなら勝てる!」と思うはず。難関大にヒョイっと当たり前のように合格する人は、こういうオトクな知識を抜け目なく集めまくって、戦車に乗って戦っているのである。戦車に乗っていれば、さすがに誰でも勝てると思うのでは?

皆さんもオトクな知識、賢い学習法をいっぱい集めて、戦車に乗って試験会場に乗り込みましょう。

本日の「達人の言葉」

「毎日こつこつやらないと駄目か」
私は高校時代、学校の英語の先生に、英語の勉強は毎日十五分ずつでよいから続けていくとよいと示唆されました。ところが、これは飽きっぽい性格の私にとっては地獄の苦しみだったのです。でも、気が向いたときに一日中机に向かっているのはいっこうに苦になりません。

七ヶ国語の講師を務める猪浦道夫の『語学で身を立てる』p.199より

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勉強の面白さを力説し、学びの意義を考え続ける受験コラム

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投稿日時: 2019/09/28 ― 最終更新: 2019/12/01
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