Louis Sachar “Holes”

どうせ英語を勉強するなら、受験用のテキストではなく、外国で販売されている洋書を読んでみたい、という人は多い。「洋書で学習する」というのは外国語学習の代表的な方法の1つであり、ある程度以上のレベルになれば有効、というより大量の本格的な英語に触れるには「必須」と言っていいが、これが果たして大学受験レベルで必要なのか、過剰学習ではないかと考える人も多いだろう。

結論から言うと、英語が得意な人が、かなり易しめのレベルの洋書を読む場合に限り「受験勉強でも洋書の読み込みは有効である(費用対効果に優れる)」と言える。ただしここで言う「英語が得意」とは、少なくともセンター(マーク模試)が9割付近で安定するレベルである。

洋書の扱いの難しさ

私は受験の後半戦において、数冊の英語洋書を読破し、英語読解にかなりの自信をつけた。しかし読んだ本の何冊かは受験レベルを逸脱していて、読むのに時間がかかり、結局中断して、受験終了後に実力をつけてから再読することとなった。

洋書で受験英語を学習する際の最大の問題点は「文章レベルの制御が難しい」こと、これに尽きる。つまり受験用の英語テキストと違い、受験でよく出るような語彙を中心に構成されているわけではないし、仮に児童書であっても、受験では見かけないような句動詞(熟語)などが出てくる。

そのため、洋書としてはかなり低いレベルの語彙で構成されたものにセーブして読まないと、受験英語中心の語彙に偏っている我々日本人には読みにくく、読解が進みにくい(受験英語の語彙はアカデミズム方面に偏っている)。

洋書を読む効果はどこにあるのか

受験英語において、英語力を伸ばすために洋書を読む場合、その効用は主に「多読による、既に知っている英単語・表現の“習熟度の向上”」にある。つまり基本的な単語や熟語であっても、一冊の本を読む中で何度もしつこく出会い、それを繰り返し素早く解釈する経験を通して、読解の速度と精度を同時に向上させるのである。これが英語の基礎力向上につながる(→「英語(言語)が上達する基本的な原理」)。

このため洋書は多読教材として扱い、基本的に辞書を引かずに素早く読むことを意識して、知らない表現は意味を推測したり、無視して読み進めるといい。素早く読めないものや、知らない単語が多すぎて読解がつっかえやすい本はレベルが高すぎる、ということである。

洋書で語彙力を伸ばすのは難しい

洋書で知っている英単語のストックを増やす、というのは基本的に考えない方がいい。2,000語くらいのレベルまでならともかく、ある程度以上のレベルの単語を新たに覚えるには大変効率が悪い。その単語が滅多に出てこないからだ。洋書で語彙力などを伸ばすには、かなり集中的な(1日6時間とか)読書を続けたり、あるいは年単位で日常的に読み込むなどしないといけない。

この場合の洋書のメリットとは、勉強としてではなく、日常生活の一部に完全に溶け込む中で読解が継続されることにある。英語の上級者が、ずっと「勉強」として学習を継続するのではなく、英語そのものを生活に取り入れて自然上達を待つという状態だ。

学習効率を確保したまま語彙を増やしたいなら、最初から『速単英単語上級編』のような、辞書を引かずとも意味が載っているテキストを利用すべきである。これなら繰り返しも容易だし、単語学習としては遥かに効率が良い。

繰り返すが、受験レベルにおいては偏差値90を超えるようなトップクラスや、受験英語や効率性といったものを超越して英語を学びたいという意欲的な学習者を除き、難しい語彙が含まれる洋書に手を出すべきではない。「ちょっと簡単過ぎるかも」と思えるレベルの本を、素早く読んでいくくらいがちょうどいい。

どの洋書を読むべきか、おすすめの作品

せっかく洋書を読むなら「自分が本当に読みたいと思うもの、面白いもの」を選ぶようにしよう。そもそもつまらない本を無理に読むなら、最初から受験テキストを読めばいい。わざわざ受験のレールから逸れて洋書にあたるからには、モチベーションが高く保てないと意味がない。

従って「面白くて、かつ簡単なもの」を読むことになり、かなり範囲が絞られる。オススメは児童文学である。子供向けの書物でも、高校生が読んで楽しめるものはいっぱいある。読むのにどうしてもネイティブより時間がかかるので、薄ければなお良い。

私が受験時代に読んで一番良かったのは“Holes”である。これは翻訳版も出版されている(『穴 HOLES』講談社文庫)ので、既に読んだ人もいるだろう。

Louis Sachar “Holes”

“Holes”は高校生が読んでも男女ともにワクワクできる話だし、単語レベルも抑えられていてかなり読みやすい。分量も適切であり、私の場合は面白くてどんどん読み進めていたら、1日であっという間に読み終わってしまった。読み通した後は「洋書を一冊読んだぞ」という自信がつき、東大二次の小説読解への苦手意識が気持ち薄らいだ。

受験時代に読んだ洋書の中で、他に面白かったのは『ヤバい経済学』の原書である”Freaconomics”だが、これは英検一級レベルの語彙も出てくるし、正直受験生にはあまり気楽に勧められない。洋書として見た場合は読みやすい部類だが、それでも大学受験レベルは超えていると感じる。

私が他に受験期に読んだものでは”The Great Gatsby,” “The Catcher in the Rye”があり、アメリカの高校生の必読書であるのが選んだ理由だが、いずれも受験勉強としてはかなり難しく、英検1級クラスの本当のトップレベルにしか勧められない。特に『グレート・ギャツビー』は極めて難読で、私は受験中にはまともに読めなかった。『ライ麦畑でつかまえて』を読むと、”all of a sudden”が100回くらい出てきて、この表現には脊髄反射できるようになる(笑)。

ある進学校では『ハリー・ポッター』を原書で読破することが、英語強者のステータスだと聞いたことがある。確かに『ハリー・ポッター』は子供向けなので良いかもしれないし、恐らく多くの人がストーリーを薄っすら覚えているので読みやすいだろう。ただ本としては厚いので、時間がかかりやすい欠点はある。まあ、知っている話なら途中まで読むだけでも問題はないか。

なお学習者向けに語彙レベルを抑えた、名作文学のリフレーズ版というのも大量に存在するが、個人的にはあまりオススメしない。なぜかというと、結局作者ではなく他人が書き直したものだし、表現が平易になってしまっているので、読んでいてなんとも味気なく感じるからだ。

本日の「達人の言葉」

まとめてみると、まず、短期間いま勉強している言語に集中するということ。すべてのチャンスを用いてその国の人と話をすること。その言語で独りごとを言うこと。その言語で書かれている本、とりわけ最初のうちは戯曲や探偵小説など、やさしく書かれている文章を読むこと。

外国語習得のコツについて、12ヶ国語をマスターした数学者、ピーター・フランクル著『ピーター流外国語習得術』p.52より

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投稿日時: 2019/07/10 ― 最終更新: 2019/12/01
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