ミレー「ばれいしょ植え」

模試と言えば毎年、各予備校が「どれだけ的中したか」について声高に宣伝している。

しかしその内容を見てみても、大量に作ったテキストや模試の中から、どこかの入試で似たような問題が使われていれば「的中!」と宣伝しており、数撃ちゃ当たるという感じで、本当の意味で入試を予測しど真ん中に当てているケースというのは全然ないことが分かる。

実際に、模試の問題が本番で的中するということは起こるのだろうか。そして、的中率というものは模試を選ぶ上での指標になるだろうか。

まず的中するかどうかについては「極稀に本当に的中することがある」と言っておきたい。というのも、私は的中事例を知っているのだ。

東大入試の現代文を代ゼミが完全的中

それは2009年度の東大入試の国語の問題なのだが、この年の問題は東大国語の中でも取り分け良質の問題と名高い『白』を本文とした出題であった。そしてなんと、その直前に実施された代ゼミの秋の東大模試「東大入試プレ」の現代文と、本文の抜粋範囲がほとんどカブるという、進研ゼミのマンガみたいな事件が起きたのである。

もちろん私はこのときは受験生ではなかったので、この情報を後で知ってから、気になったのでわざわざ中古で東大入試プレ過去問を取り寄せた。そして実際にプレの方の現代文・大問四の本文は、ほとんど入試の大問一と同一であり、傍線部の箇所も似通っていたことを確認している(ただし完全に同一ではない)。

ちなみに2009年には河合塾の全統記述模試の英語本文でも、東大英語を意図せず「的中」してしまうというミラクルが起こっている。2009年は驚異の一年だったのである。

実際の入試での「的中」体験例

今度は私が経験した例を出そう。私はほぼ独学だったものの、センター試験だけは特有のクセにより苦戦していた科目が何個かあったので、その対策のために1日講座を3個くらい受講したことがある。

そしてその中で地理対策の授業にて、講師の人が妙にもったいぶった感じで「私の予想ではね、次に、この辺りの統計が出るんじゃないかと思います」と話し、対策プリントを配布したのである。

私はそのプリントを見たときに「なんでこんなマイナーな資料を予想するんだ?」と不思議に思った。追試も含め、過去20年分以上のセンター地理の中でもあんな統計資料は見たことがなかったし、その年の時事ネタとも関係がなかった。だからその講師の人が「予想」と言ってそのプリントを配布するのが奇妙に感じ、記憶に残ったのである。

そしてなんと、その年のセンター地理で本当に地理講師の予想した資料(とほぼ同じもの)が出た。これには本当にびっくりしたものである。

予備校講師の執念か、それとも……

私はこれを「予想的中」として片付けることに、いくらか違和感を覚えると言わねばならない。なぜ星の数ほどある様々な統計資料から、あの予備校講師はマイナー資料の出現を予測できたのか。彼はその根拠を話さなかった。 根拠が不明だったからこそ、配布時におかしいと思ったのだ。

ここで2009年の東大入試プレの「完全的中」に話を戻す。あの「的中」も、考えてみれば異常である。運が良ければ近年注目を引いた書籍の中から、同一の資料くらいは引っ張ってこれるかもしれない。しかし抜粋箇所まで「的中」させてしまうというミラクルが起こせるものか?それは天文学的な確率なのではないか?

ちなみに共通試験の問題作成などは、出題者が周囲に秘匿したまま、かなり厳正に行われるようである(センター数学の作問事例などは『大学への数学』のセンター増刊号に載っていた)。受験大国である韓国などは、共通試験のためにわざわざ国家がカモフラージュ用の事業を立ち上げて建物を作り、作問者をそこに軟禁して試験問題を作るケースも実際にあったという。

そのためここで「予備校講師に情報がリークしたに違いない」などと予想するのは安直かもしれない。私はギョーカイ人ではないので真相は闇の中である。

なお厳正に行われる、と書いたが、東大入学後にある教授が自分の採点した科目について、1年生相手に大教室でペラっと喋っていたことも付記しておく。教授の名誉と職業を脅かさないために、科目名などは書かないが。

「的中!」したとしても役に立つのか

陰謀めいた怪しい話が長くなったが、「模試が的中すると有利か」という話題に移ろう。もちろん的中して不利になることはないと思うが、実はさほど有利になるわけでもない。

何故かといえば、試験本番までに受験生が解く問題数というのは膨大な数に上るからである。仮にあなたが今まで解いてきた問題の中から、どっかで解いたものが入試でポンっと出て、正確に内容を思い出せるだろうか。思い出せるほど徹底した勉強が出来ていれば、もうそれだけで的中に関係なく試験をパスできるのではないだろうか。

実際に東大模試を受けまくっていた私は、同じ年に別々の予備校で酷似した問題が出たケースや、予備校同士で東大“模試”の問題を「的中」させてしまうという珍事にも出くわしたり(2014年の東大模試の漢文で全く同じ文章が出た。作問者が同じだったのか?)、自分の受けた年の東大地理が少し前の名大の地理のパクリであることにも本番中に気付いたが、だからと言ってその問題で満点を取れたというわけではない。

また先程のセンター地理の事例にしても、たしかに資料自体は的中したが、別にそれで直ちに問題が解けるわけでもなかったし、しょせんセンター地理なので普通に解いても解ける。正答しても高々4点である。これでは差はつかない。

結論:どうでもいい

まとめると「的中」という現象は、受験という宇宙空間の所々で超新星爆発のように煌めいてはいるが、あまりにも広大な空間で起きているために捉えようがなく、発生したとしても意外と影響がない。「的中」はもっぱら予備校が各校の質を喧伝するための材料であり、「的中」を期待して模試を受けるより過去問でも解く方がよほど良く、受験生はそんなものに囚われる必要はない。

「的中」を活かすとすれば、今話したような事例を踏まえて「もしかしたら、この問題が的中するかも……!」と夢を見て、受けたばかりの模試の復習をしっかりこなすモチベーションとすることくらいである。

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投稿日時: 2019/08/09 ― 最終更新: 2019/12/02
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