世界史が苦手な人に共通する主な特徴は「試験に出る単語を真っ先に暗記しようとする」もしくは「年代(年号)の暗記にこだわる」ことである。ここでは前者について説明する。(後者については「世界史年代(年号)の暗記は必要か」を参照)

例えば、世界史の勉強はじめよう!っと思ったら、教科書を開いて、読みながら、暗記すべき箇所にどんどんマーカー塗っていくタイプの人たちがいる。そして教科書をじーっと見ながら、その「試験に出る単語」を何度もノートに書いたり、暗記カードを眺めたりしている。私はカフェで勉強している時間が長かったが、こういうタイプの勉強をしていると思われる学生は定期試験の時期に何度も見た。

こういう勉強をする人たちが世界史で良い点を取るのは、かなり難しいと思う。「なんで?試験に出るところを覚えるべきでしょう?」と思うかもしれない。試験では単語を問われるから、単語を覚えれば点を取れるでしょう、と。しかし「単語」だけ真っ先に集中して覚えようとしても、これはかなり難しい。単語というのは、それ単体で独立して存在しているようで、そうではない。

単語ばかり覚えてもあっという間に忘れてしまうし、重要人物と重大事件の集合体として世界史を見ても意味が分からない。実は単語を真っ先に暗記するのは近道のようで遠い。

それで世界史が苦手な人は自分の記憶力が悪いから覚えられないのだと勘違いしやすいが、これは単に覚え方・勉強法が悪いのであって克服は誰でも可能である。

橋本環奈の名を日本人が秒速で脳裏に刻める理由

例えば橋本環奈というアイドルがいる。橋本環奈すなわちハシカンの名をなぜ非常に覚えやすいかというと、彼女は「千年に一人の美少女」と“呼ばれている”からである。

美少女の千年帝国に君臨する橋本環奈さん

“千年に一人の美少女だから”ではない。“千年に一人の美少女と呼ばれている”からである。この僅かなようで無限のハシカン認識の差異を考えることで、世界史が得意になる。

つまりハシカンには「千年に一人」という二つ名があって、さらに「この人は千年に一人くらいの逸材なんだ」という胸躍る「ストーリー」が存在するのである。

それによって、「橋本環奈」という記号の記憶が脳の中で強烈に強化される。にわかファンのおっさんがとっさに名前が出てこなかったとしても「あの子可愛いよな。あの子……えっと、あの千年に一人の美少女……橋本環奈だ!」と思い出せる。

ここで、ストーリーそれ自体が「橋本環奈」の面白味を増して覚えやすくするだけでなく、ストーリーがその記憶を起動させるキッカケの役割も果たしている。

人間の記憶というのはニューロン同士の連結によって形成されていて、記憶の引き出しというのは、箱の中から必要なものだけヒョイっと取り出すのとは違い、必ず「綱引き」のように、それに関連するものを頼りに引き出される。それはその人物の顔とか、声とか、匂いとか、色々な記憶だったりする。

だからもし1000年後の日本人が「昔、大和の国に橋本環奈ありけり……」という無味乾燥な「事実」だけを読んで「橋本環奈」という単語を記憶するのは、今の学生が教科書を読んで「アントニヌス・ピウス」を暗記するのと同じくらい大変になる。ここではハシカンを脳に刻み込むための重要情報「千年に一人の美少女」が欠落しているからである。

複数のことを覚える方が実は簡単

出会ったことのない歴史上の人物の名前を思い出すキッカケになるのは「ストーリー」である。

だから「カエサル」という単語を覚えたかったら「ブルータスおまえもか!」という「ストーリー」と一緒に記憶する。もちろん資料集でイメージを掴むのも有効(だから資料集は補助教材としてかなり良い)。

ブルータスとセットで覚えると有効なカエサルさん

さらに彼が成し遂げた業績や、その前後のローマの状態なども「ストーリー」として記憶し、全ての記憶をつなげていく。個別の事実を記憶するだけでなく、なぜそうなったか、なぜそういう行動を取ったかという因果関係もできるだけ記憶する。

特に因果関係の記憶は「ストーリー」として最も強い。例えば「ローマは第二次ポエニ戦争で大いに苦戦した。なぜならカルタゴ側に名将ハンニバルがいたから」という風に「なぜなら」でつなぐ。さらにここに「なぜローマは苦戦の末に勝利できたのか。それはハンニバルが『勝利する術を知りつつも、勝利を活かす術を知らない男』だったからである」という面白味のある「ストーリー」もくっつけていく。

すると記憶が益々強化され、他の単語も接続されていき(というか「ストーリー」の学習過程で勝手に他の単語も覚える)、世界史の記憶が簡単になり、最終的に得意になる。忘れてもすぐ覚え直せるから、全体像がつかめるようになる。だから参考書は、こういった記憶の手がかりとなる「ストーリー」を沢山解説しているものがオススメ。

将棋の藤井聡太や羽生善治、加藤一二三といったプロ棋士は、過去の対局がどう進んだかを、まるでビデオ再生するかのように再現することができる。なぜか。それは対局の「ストーリー」、すなわち「相手がこう指して、それにはこういう狙いがあるから、逆に自分はこう指した」という因果関係を記憶しているからである。逆に彼らは、そういった「ストーリー」のない事柄に対しての記憶力は人並み程度だという。

単語にいきなりかじりつく人というのは「最小の努力で点を取りたい」と考えているからそういう行動に出るのだと思う。

ところが実は、今見てきたように記憶というのは“つながり”の集合体だから、「1つ覚えるより2つ覚える方が最終的に手間が少ない」ということになる。

これが100個、1000個という単位になると、個別に単語を覚える人とそうでない人の差は歴然としてくるし、勉強が長引くほど、このような長期に持続する記憶の方が有利となる。

だから「最小の努力で受験を通過したい」なら、こういった「ストーリー」を積み重ねていくのが「近道」なのである。「急がば回れ」がこれほど綺麗に当てはまる事例はなかなかない。

世界史で重要なのは、テストに出る単語の周辺にある、膨大な「ストーリー」を記憶することだったのである。

単語は「歴史の結果」に過ぎない

「単語を覚える」というのは「歴史それ自体を覚える」こととイコールなのである。なぜなら「単語」というのは「歴史の結果」に過ぎないからである。

だから昔コルシカ島にナポレオンという貧しい青年がいて、貧しいから死ぬほど勉強して、ずっとバカにされて、屈辱に耐えてきたから権力欲が強くて、だから皇帝という地位に執着して、最終的に百日天下に終わった、というのは全部繋がっている。(参考:勉強が進むと、個別のものが一つにまとまってくる

そういうストーリーがわかっていれば、「エジプト遠征」とか「大陸封鎖令」とか「百日天下」とか、そういう歴史的事実を個別の出来事として記憶する必要なんてない。もうこれは、18,19世紀のヨーロッパという環境に生きたナポレオンという貧乏貴族の「宿命」に過ぎないことが理解できるから。

「だって当然じゃん。ナポレオンはそういうやつ」というだけの話になる。まあナポレオンのことを知りたい人は、マンガ『ナポレオン 獅子の時代』を読もう。長いから時間があるときに。

歴史が得意な人にとって、世界史というのは「当たり前の連続」に過ぎない。もう「当たり前」だから、忘れないのである(だって「当たり前」だから!)。記憶力の良し悪しではない。

だからあなたも、世界史が得意になりたかったら「ストーリー」を極めましょう。

これはもっと突き詰めると「教科書に書かれてないことまで思いを馳せる」という次元に行く。一番良いのは「この歴史的事実が、全体の中でどういう意味を持つか。何を教訓として学べるか」といったことまで自分で考えること。

ちなみに私は東大世界史で8割以上の点数を目指していたから、Wikipediaを読みまくって歴史人物の面白エピソードをかなり記憶した。まあここまでくると受験にとっては完全に過剰学習のオタクレベルだが、おかげで世界史には絶対の自信が持てた。

受験世界史をアルティメットなレベルまでやり込めば、もう「石器の出現」から「人類の宇宙進出」までつながるので頑張ってみよう(そこまで行っちゃえば、なんか楽しそうだと思わないかい?)。

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投稿日時: 2019/08/28 ― 最終更新: 2019/11/13
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