鉄緑会という、東大受験では最高レベルのエリート塾の出している東大過去問は、その解説の量と質もさることながら、1科目だけで赤本の2倍となる5,000-6,000円という強気の価格設定も、受験界的にはなかなか目立つ存在だ。

さて、受験生には高い高いと有名な問題集だが、私は「安い」と考える。

私の言う「安い」には2つの側面がある。1つは「商品の価格設定として安い」こと。もう1つは「人生で得られる対価に比べて安い」ということ。

商品の価格設定として安い

そもそも東大過去問という時点でニッチな商品であり、さらに東大古典過去問集、東大数学過去問集、となると、極めて買う人が限られる商品と言えよう。さらに鉄緑会というのは、成績が優秀で東大合格に有望な人間だけを集めた、ある種閉鎖的な団体なのだから、その中で培われた秘蔵の講釈には、他の予備校のそれより高い付加価値がある(彼らは限られた生徒に教えを独占させているからこそ、高い成績を維持しているのである)。

この点が、既に有名なために大量に印刷され、大量に売れる赤本とは事情が決定的に異なる点である。

本自体の質を見ても、上質で、触れれば「オオッ」と思えるようにしっかり作られている。こういった点から、1冊5,000円程度という価格設定は別に特別高いとは思わない。むしろ鉄緑会というトップ塾の秘蔵ネタをその程度の価格で知れるなら、安いとすら言える。

人生で得られる対価に比べて安い

鉄緑会の過去問集を買って得られる対価というのは、当然「東大合格」という対価である。この対価を得るために、他のテキストより遥かに詳しく濃密なテキストを買って時間の質を高めることができる(買ってない人間より優位に立てる)なら、5,000円というのはタダみたいなものである。

この辺の金銭感覚は、学生のうちだと中々身につかない。学生というのは限られた小遣いでやりくりしており、どうしても自分が普段買っているマンガとか食べ物との比較によって商品の高い安いを判断しようとする。

そして、自分の中での「そのジャンルに属する商品の適正価格水準」のようなものを持っていて、それより高いか安いか、最近の言葉で言えば「(見かけ上の)コスパ」というものに囚われがちである。だから1,000円の参考書は「普通」だが、5,000円の問題集は「高い」という感覚になる。

実際には、どちらも「安い」。どちらもタダ同然と言っていい。その金で少しでも優位を加速して、少しでも良い大学に入れば、それによって作られた優位によって年収が100万くらい変わってしまうのだから。つまりどちらも「コスパ」抜群である。

だから参考書代なんてものは何でもないし、ダメな参考書に1,000円、2,000円払ったからといった「買ったから」と拘る必要はない。受験生にとって何よりも貴重なのは時間であり、損したことは忘れて自分に適したものを選ぶべきである。自分の損にこだわるとさらに損してしまう(これを経済学用語で「埋没費用の誤謬」と呼ぶ)。

ある東大合格者が、この5,000円の問題集は「とんでもなく高い」のだから、買ったからには皆さん大切に解きましょう!と言っていたが、これはいかにも自分で教育費を払っていない人間の視点である。5,000円なんて親が予備校に払っている金額に比べれば雀の涙みたいなものだ。1年間まともに予備校に通って、特別講習などもガンガン取っていけば年間費用は軽く100万円くらいに達する。だから「5,000円の問題集買っちゃった!大事にしなきゃ!」と思うより先に、予備校で寝ぼけている時間を1秒でも減らすべきである。

蛇足の話

ここからは蛇足。大学生と一緒にいると、大学生の金銭感覚もやはりズレていると感じることがある。

知り合いに音楽が大好きな子がいるのだが、彼女が使っているのは安物のヘッドフォンなのである。2万円くらいのヘッドフォン買えば?と思うのだが、彼女はそれを「高い」「コスパが悪い」のだという。その一方で、飲み会に行けば平気で4,000円、5,000円と出す。「飲み会でこれくらい金がかかるのは当たり前」なのだという。

ただ人生のトータルで見たら、彼女は毎日何時間も音楽聴いてるんだから、ヘッドフォンにどれだけ費やしても損はないはずなのだ。しかし彼女が着目しているのは、目の前にあるプライスタグがそのジャンルの平均よりどれだけ高いか安いかという「見かけ上のコスパ」なのである。

実は人間というのはトータルで思考することが苦手な生き物で、目前のものに対して高い、安いという即時的な思考はするものの、自分の人生全体で見てこの支出にはどれだけ価値があったか、同じ金を他の用途で使っていたらどうなっていたか、ということにはあまり関心を払えない。ここでこういう文章を書いている私もそれは同じで、だから「自分がどういうことに、どれだけ金を払い、どれだけ対価を受け取ったか」というのは定期的にレビューしないと、支出バランスがおかしくなりがちである。

トレードオフで思考することが重要だと思う。つまり「ここでこれだけ金を使ったけど、そのために買えなくなったものがあるはずで、そちらに使っていたらどうなったか」という思考。これを怠らなければ、そんなにおかしな金の使い方をしてしまうことはない。

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投稿日時: 2019/09/24 ― 最終更新: 2019/10/29
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