受験勉強の急所は何かというと、それは

「基礎をアホの一念で極める」

ということである。基礎というのは、重要単語とか、基本公式とか、典型問題の解法とか、脳内で広げられる世界地図の正確性とか、そういったものである。

こういったものを「覚えた」から、それで良しとするのではなく、何度も徹底的に反復して、それこそ他人から「アホか」と言われるほど反復して、ある日多摩川で溺れて救助隊の人に助けられ、心臓マッサージで蘇生した直後に「おい、しっかりしろ。sin(90°-θ)は何になる?」と聞かれても「cosθです」と答えられるように、完全に身体に染み込ませるということである。

多くの人がこの点を勘違いして、基礎を「知ってる」から、もう基礎は卒業だと思っている。ところが本当に基礎が骨身に染み込んでいたら、それだけで東大A判定を取れる。つまり東大A判定が取れないということは、基礎の鍛錬が不十分ということである。

「基礎」というのは「全ての土台」ということであり、したがって「最もよく使われる」ということ。

だから基礎の勉強というのは最も効率が良い。試験中に何度もその基礎にアクセスするからである。マイナーな知識を鍛えても、5回試験を受けて1回その知識にアクセスがあれば良い方だが、基礎には毎回の試験で何度もアクセスするので、基礎の処理が10%速いだけで平均点は20%くらい伸びる。

そして試験というのは基礎と、基礎の組み合わせだけで合格点が取れるようになっていて、東大なんて9割が基礎である。逆に基礎以外の勉強というのは“果て”も“キリ”もなく、それでいて大量に学んでも点数は大して上昇しない。受験勉強は「広く浅く」よりも、圧倒的に「狭く深く」が効率的。

「基礎」は「簡単」ではない
「簡単」なのは「初歩」である
「基礎」と「初歩」は似ているようで違う
「基礎」は「深い」ものである

であるから、単に「覚えた」という段階は、基礎理解の始まりに過ぎない。

タワマンを建てるときに基礎を浅く作ってしまったら、土台が傾き、タワマンに住んでいた高学歴・高収入で将来有望な人々がいっぱい死んでしまう。だから高みを目指すほど、基礎は深く、深く作らねばならない。基礎のしっかりした受験生は、ちょっと難しい応用問題ではビクともしない。基礎への理解が深まれば深まるほど、異なる問題の背後にあるものが実は同じものだと見えてくる。

基礎が不十分だと何が起こるかというと、それは問題を解く際に脳の容量«メモリ»が不足する。

基礎を思い出すのに「えっと……」と2秒の起動時間が必要だと、その間に別の考えが薄れてしまって、複数のことを複合して問題に取り組むことができない。英語の長文読解なら、1文の中に2つの「えっと……」があると、それで脳のメモリが圧迫され文章そのものについて考えられなくなる。この「えっと……」の2秒の起動時間を、反復によりコンマ数秒にまで短縮すれば、問題そのものが見えてくる。

基礎がしっかりしている受験生は、解答に必要な道具を、ほとんど脳のメモリを消費せずに立ち上げることができる。それによって問題そのものについて考える余裕が生まれるから、基礎を組み合わせる問題も的確に道具を選んで解けるようになる。問題を解けないのは「地頭が悪いから」ではない。基礎が不十分で、問題を解こうというときにメモリが不足するからである。そこで三角関数の基本公式を、九九を思い出すのと同じ負荷で頭にセットできると応用問題が解ける。

別の例を出すと、格ゲー。格ゲーのコンボとかヒット確認とか、それ自体が難しいが、コンボに一々全神経集中していると深い読み合いはできない。始動技を当てると手がコンボを勝手に繋げてしまう、という段階になって初めてコンボが安定するし、コンボを繋げながらゲージ確認したり「次の読み合いでどう裏をかくかな~」とか考える余裕が生まれる。格ゲーの基礎力というのはこの辺にある。

基礎を深めるのは「“当たり前”のレベルを上げる」ということでもある。高校生が小・中の問題を楽勝で解けるのは、内容が“当たり前”だからである。あるいは逆に、歩き出したばかりの赤ん坊が転んだりぶつかったりするのはなぜか。それは赤ん坊にとって、歩くことが“当たり前”ではないからである。これと同じで、試験問題を悪戦苦闘の末になんとか解いている状態は「歩きはじめ」のようなものなので、ミスが多く時間もかかる。基礎力を上げて歩くことが当たり前になったとき、ミスも減り様々なことを頭に入れながら問題を解ける。

このように、受験勉強は基礎に始まり基礎に終わる。すなわち、雪山で遭難して意識が薄らいでいき、愛する人にパチーンパチーンとビンタされながら「タカシ、寝ちゃダメよ!cos(90°-θ)は何?」と聞かれたときに「sinθさ、ハニー」と、即答できるだけの基礎力を身につけること。それこそが受験勉強の急所である。

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投稿日時: 2019/09/23 ― 最終更新: 2019/11/19
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