図1:冨樫義博『Hunter x Hunter』6巻, 集英社, 1999年

「試験問題は、脳の容量を使わずに色々なことをこなせるようになったときに、初めてまともに解けるようになる」ということ私が気づいたとき、自分がとっておきの宝物を手に入れた気分になったし、実際にそのことを意識した勉強をするようになってから成績が飛躍的に向上した。

ところが大学合格後に、改めて冨樫義博の傑作『Hunter x Hunter』を読み直したとき、なんと私が気づいたことを、とっくの昔にヒソカ(図1)が指摘していたことを発見して驚いたのである。

ヒソカ vs. カストロに見る「メモリ」の概念

それが載っていたのは、私が中学時代に連載されていた(富樫の連載ペース遅すぎィ!)天空闘技場編であった。

さて、まさか『Hunter x Hunter』を読んでいない受験生がいるとは思えないが、忘れている人もいるかもしれないので説明すると、コミックス6巻は念能力(超能力みたいなもの)の使い手であるヒソカとカストロという、2人の達人が闘技場で激突する話であった。

図2:『Hunter x Hunter』6巻

序盤は完全にカストロペースで試合が進む。攻撃を防御したはずなのに、全くの死角から飛んでくる別の攻撃を受けてしまうヒソカ(図2)。実はこれはカストロの分身を生み出す能力がトリックとして使われているのだが、ヒソカは数度の激突であっさり能力の正体を見破ってしまう。そしてこう宣言する。「君は踊り狂って死ぬ」。

重要なのはこの次だ。ヒソカによる能力の見破りと挑発に動揺したカストロは焦って攻撃するが、そこにヒソカの攻撃がクリーンヒット!脳震とうを起こして倒れそうになるカストロは、分身能力を使って防御しようとするが、なんと分身を出すことができない!

これについて、ヒソカは次のように説明する(図3)。

図3:『Hunter x Hunter』6巻

致命的な打撃を与えられ、動揺しまくったカストロには、分身のような複雑な能力を練る余裕がない。分身は、とっさの状況や劣勢下では作ること自体が難しく、強力だが柔軟性に欠ける。

分身能力を身に着けてしまったことは戦略的なミスであるとヒソカは言い放ち、このような「過剰な能力」を使おうとしたカストロを「メモリ不足」と表現する(図4)。

図4:『Hunter x Hunter』6巻

試験問題を解けない理由の半分は「メモリ不足」

さて、この教訓は受験をはじめ、かなり広い範囲のことに応用可能なものだと思う。

多くの受験生が試験問題を解けないのは「メモリが足りない」からである。

「知識が不足しているから」ではない。むしろ多くの受験生は、目の前にある数学の問題の解き方を「なんとなく知ってる」。しかし解くことができない。それは何故かというと、自分の能力的に過大な負荷をかけないと、解くための知識を頭から引き出せないからである。

試験問題は多かれ少なかれ複合的な要素があるから、複数の知識を、脳のメモリを節約したまま引き出せないと、頭の中でまとめることができない。

例えばここに数学の問題があって、この問題が「考え方A、考え方B、公式C」という3つの道具を使えば解けるとする。このとき、考え方Aを引き出すのに少し頑張らないといけない(=メモリを沢山使う)と「え~っと、この場合は確か……」と考えている間に、考え方Bが頭から逃げてしまうのである。

頭の中で複数のことを同時にまとめるには、「もはやその考え方が脊髄反射で出る」というくらいの習熟が必要。だから三角関数の問題を解くのに、一々基本公式(tanθ=sinθ/cosθみたいなやつ)を頭から引っ張ってきていると、メモリが不足することは当然なのである。解けたとしても、何度も知識を出し入れしているから、かなり時間がかかる。

国語や英語の問題もそう。「二項対立」とか「自律」といった言葉の意味を知っていたとしても、それを最小のメモリで引き出せないと容量を圧迫して、文章そのものの意味を考える余裕が少なくなる。いわゆる「頭の良い人」というのは、脳の容量が大きいのではなくて、知識を少ないメモリで引き出せるから余裕がある、というのが大半。

『Hunter x Hunter』の例でいうと、問題を解けない人は、公式や考え方の引き出しにカストロの分身と同じくらいの負荷がかかっている。それをバンジーガムやドッキリテクスチャー(ヒソカの能力)と同じくらいの負荷で繰り出せるように訓練しなければならないのである。

『Hunter x Hunter』の考えが現実に適用可能なのは偶然ではない。『Hunter x Hunter』含め、富樫作品がなぜ面白いかというと、現実世界の理や教訓をバトルに転化しているからである。例えば念能力というのは人間精神の誇張なわけだ。

応用問題を解くには

応用問題というやつを解ける人と解けない人の違いもここにある。応用問題は「ものすごく難しいことを考えなければならない問題」ではない。実際には基礎の複合で解ける(だって「応用」問題なんだから)。

しかし「基礎の組み合わせだよ」と言われても、「基礎は学んだけど、解けないよ」と考える人が多い。そういう人は、基礎を頭に乗せるのに2秒かかっているのである。これを反復して1秒、0.5秒……と縮めていくと、自在に基礎を組み合わせられるようになり、問題が解ける。

逆に「難しいことをやらなきゃダメなんだ」と思って高等な考えばかりに手を出していると、いつまで経っても基礎の複合はできない。

受験勉強において、試験会場から悠々と立ち去るA判定のヒソカになるか、倒れて動けなくなるC判定のカストロになるか。それは「メモリを有効に使えるかどうか」にかかっていたのである(図5)。

図5:『Hunter x Hunter』6巻

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投稿日時: 2019/10/23 ― 最終更新: 2019/10/24
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