ハッキリ言って大学教授の授業の過半数は退屈だと思う。それは講師の人たちが研究の片手間に仕事上の義務として授業をこなしていて、特に教育的熱意を持っているわけではないから仕方ないのだが、それでも中には観衆(生徒)の心をつかむプレゼン上手な教授も、わずかながら存在する。

上手な授業にも色々なタイプがあるかもしれないが、ここでは現在私が受講している美術史学講義を受け持つK教授の授業について分析してみよう。私は初めてK教授の授業を受けた日、彼の授業では全く眠気が発生しないどころか、最初から最後まで授業に釘付けとなったために、彼の授業にどのようなトリックが存在するのか気になり、私なりに観察してみたのである。

授業中に「大いなる謎」が解明される

K教授の授業では、まず最初に「謎かけ」から始まる。

例えば初回の授業は洋画(日本人が西洋の絵画を真似したやつね)の歴史についてだったのだが、そこでの謎かけは「日本最初期の洋画のモデルになった女性は、なぜ自分の肖像画を見て激怒したのか」であった。

しかし教授は、この疑問をすぐには解消しない。「それを説明するために、まずこの絵から見てもらいたい……」と言い、次々に洋画と従来の日本画の違いを説明していき(この部分が授業の中心である)、最後の最後に「今まで説明してきたことを踏まえれば、最初の疑問の答えが出るでしょう」と締めくくる。

つまりこの授業では、生徒たちは一種のミステリーやサスペンスを体験しているのであり、「なぜ?」という疑問が授業への興味となるのだ。

K教授の授業では、ちょっとした解説の際にも、生徒の方が思わず「それはどういうこと?」と注目してしまうような、興味を抱けるような語り方をする。

例えばある絵描きについて解説するとき「こういう言い方は学術的にはダメなんだけど、この人は一言で言えば天才です。何故なら彼は“カメラ・アイ”を持ってるからです」というような出だしで始まる。ここで生徒は「天才ってどういうこと?カメラ・アイって何?」と興味を引きつけられるのだ。

授業内容にストーリーがある

これは上記の内容とも関連するのだが、K教授の授業にはストーリーがある。細切れの事実を「これはこうだ。あれはああだ」と個別に説明していくのではなく、例えば「日本人は西洋画の遠近法をどのように勘違いして取り入れてきたか」というストーリーを組み立てて、それに沿って説明していくのである。

そしてそのようなストーリーを追うと、1つの疑問が解消されるという作りになっており、別の言い方をすれば毎回の授業に起承転結が存在する。

それともう1つ気づいたことは、彼の授業には毎回「主人公」が設定されている。そしてその主人公がどうなっていくか、というストーリーに乗せて授業を展開するのである。

面白い授業とつまらない授業の決定的な違い

面白い授業、巧みな授業の特徴は、ずばり「サービス精神」にある。サービス精神と言っても、その辺の百貨店みたいに「本日はわざわざ……」とへりくだるのではなく、「授業を受ける人間の立場に立って、相手を引き込むように工夫する」ということである。

これは文章でもエンタメでも同じだが、サービス精神のある人間というのは、基本的に受け手を「私のやっていることに興味のない人間」として想定する。想定した上で「興味のない人間を、いかに引きつけ最後まで引っ張るか」を考えるのである。

だから上述したような「まず相手を引きつける謎を設定する」といった工夫がなされる。興味のない人間すら思わず引きつけられるから、教室の全ての人間を引き込むことができる。どんな世界であっても、人気者には必ずこのサービス精神が存在する。

逆につまらない授業をする人というのはこれの逆で、サービス精神がなく、毎回の授業を「自分が設定した範囲についてひたすら説明する」ルーティンとして終わらせる。こういう授業では「AはBです。なぜならCだからです」みたいな淡々とした解説がひたすら続きがちで、興味が持続せず、眠気を誘う。

学者タイプの人間にありがちな勘違いとして「興味深い内容について説明すれば面白いはずだ」という思い込みがある。が、これが当てはまるタイプの生徒は、元々その分野に強い興味を抱いている人間だけである。最初から興味津々のことなら、単に説明されるだけでも面白く感じることは多いだろう。しかし大多数の生徒は、特定の学問の限られた範囲の学説などに、大した興味は抱かないものなのである。

授業の上手い教授に出会ったら、ラッキーである。できれば、授業内容だけでなくその授業方法そのものにも着目して、そのエッセンスを学び取ろう。上手い授業というのは巧みなプレゼンであり、その技術は今後の社会を生きていく上で、絶対に活用できるものだからである。

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投稿日時: 2019/09/17 ― 最終更新: 2019/11/02
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